メディア投資会社GroupMの futures report ‘This Year, Next Year’ (TYNY) 2023によると、2023年のインドの広告支出予測は前年比15.5%で推移し、前年より2,000億ルピーを上回る1兆4,645億ルピーに達すると予想されている。2022年のTYNYでは世界第9位だったが、2023年はその順位を第8位と順位をさらに上げた。
【インドの広告支出の推移―2021年~2023年予測[i](単位:億ルピー)】

メディア別の内訳を見ると、デジタルが2021年以降50%を超え、以降も順調にそのシェアを伸ばしており、2023年には前年比20%を超える伸長を見せるという。金額でいうと、2022年から2023年に増加する2,000億ルピーのうち、デジタルの貢献率が70%を占め、次いでTVが18%と、デジタル広告の存在感がさらに大きくなる予測だ。
【広告支出の内訳推移―2021年~2023年予測】

Dentsu Indiaの2023 Digital Advertising Reportによると、現在のインドの広告業界への業界別支出は、日用消費財が38%と最も多く、次いでEコマースが18%だという[ii]。2022年の同レポートでは、日用消費財34%、Eコマース14%であった[iii]ところから、これら2業界での広告支出が順調に伸びていることがうかがえる。これら上位2業界におけるデジタルメディア業界への支出は、日用消費財38%、Eコマース20%であり、より広告のデジタル化が進んでいる業界ともいえる。
同レポートによると、デジタルメディアへの支出手段は、ソーシャルメディアが30%と最大のシェアであり、次いでオンラインビデオ28%、有料検索が23%で続く。この内訳は、2022年とほぼ同様である。
広告のデジタル化とともに、マーケティングもデジタル化が進んでいる。2023年の、インドのデジタルマーケティングのトレンドとして、いくつかを紹介する[iv]。
- AIの活用が増加
すでにデジタルマーケティングでのAIの存在感は大きく、今後もさらに普及することが考えられる。カスタマーサービス業界では、AIを活用したチャットボットや音声アシスタントが標準になることが予想される。また、広告やマーケティングのパーソナライズ化がより重要になる中で、AIによるデータ分析など、AIの役割がさらに重要となっていく。
AIによる新たな広告の試みも行われている。2023年5月、OTTメディアのひとつであるTimes Primeは、屋外広告で初めてAIを活用したオムにチャネルキャンペーンを実施した。このキャンペーンは、Times Prime会員になることによるベネフィットについて、AIにより様々な視覚的に魅力のあるコンテンツを生成し、広告として表示される、というもので、こういった試みはインド初だという[v]。
- 動画によるマーケティングの重要性の高まり
動画を活用した広告やマーケティングは数年前から増加傾向にあり、今後もさらに需要が高まることが予想されている。インドインターネット・モバイル協会(IAMAI)の最新の報告によると、インドのアクティブインターネットユーザー数は人口の50%を超えており[vi]、スマートフォンユーザーは5億人を超え、その53%は18~24歳だという[vii]。これら若い層を対象に、様々な動画広告やマーケティングが展開されていくことが予想される。
短編のビデオコンテンツが注目を集める一方、YouTubeの長編ビデオコンテンツによるターゲットエンゲージメントを高める方法なども記事等で取り上げられており、コンテンツも、ARを使用したものやライブストリーミングなど、多様化しているようだ[viii]。インドでも昨年5Gが導入されたことで、様々な表現方法や手法が可能になり、動画によるインパクトのある広告やマーケティング、顧客エンゲージメントへの展開がより進んでいくことが想定される。
- インフルエンサーマーケティングの台頭
パンデミックを経てデジタル化が大きく進んだインドでは、インフルエンサーを起用するマーケティングがここ数年で重要なトレンドとして注目されている。インフルエンサーマーケティングの市場規模は、2021年の90億ルピーから、2025年には220億ルピーまで伸長する、という予測もある[ix]。インフルエンサーマーケティングを提供するプラットフォームも複数登場しており、広告のパーソナライズ化にも貢献する。Nestle IndiaやAmulなどもインフルエンサーマーケティングを活用しており、前者は育児関連のインフルエンサーを使った離乳食の広告を、後者は自社製品を使ったレシピを提供するインフルエンサーを活用しているという[x]。
- VR/AR、メタバースの活用
インドでも、VR/ARを活用したECやバーチャルショールームが登場している。Maruti SuzukiのNEXA One by One[xi]、Toyotaのバーチャルショールーム[xii]などがあげられるが、Maruti Suzukiはメタバースも導入している。同社のプレミアムラインであるNEXAで開始した「NexaVerse」の成功を受け、2023年1月、安価なラインを展開するArenaにおいても、メタバースショールーム「ArenaVerse」を開設した。全国の「Arena」ディーラーでヘッドセットを使って体験できるほか、オンラインバージョンも作成し、PCやモバイルからも体験ができるという[xiii]。
昨年8月に5Gのオークション以降、5Gサービスの試験や実施が徐々に見られるようになった中、2022年にはテレコム大手のひとつであるBharti Airtelが、5G を活用したインド初の没入型AR広告フォーマットを発表している[xiv]。
2022年には、いくつかの大手企業もメタバースを活用したキャンペーンを展開している。菓子大手Mondelez Indiaは、Cadbury Dairy Milk Silkチョコのバレンタインデーキャンペーンで、若いカップルを対象に、月での3Dディナーデートを提供した。またTataグループのTata Tea Premiumは、インド3大祭りのひとつであるHoliに、オンラインでのHoly Partyを開催し、参加者は自分の好きなアバターを選び、様々なゲームを楽しめる仕組みを提供した[xv]。12月にはHersey Indiaが、「Herseyverse」を開設、ホリデーシーズンに様々なアトラクションやセール、様々なクエストによる賞品の提供が行われた[xvi]。
メタバースについては、まだ大手、特に外資系が中心になって展開が始まったところであり、インドでの活用はこれからという意見も多いが、デジタル親和性の高いZ世代やミレニアル世代にアプローチを行い、交流・関与する手段として有望視されている[xvii]。
[i] https://mediabrief.com/deepbrief-groupm-india-tyny-report/
[ii] https://www.mediainfoline.com/agency/dentsu-india-digital-report-2023
[iii] https://www.adobomagazine.com/insight/insight-dentsu-india-releases-its-2022-digital-advertising-report/
[iv] https://campaignsoftheworld.com/news/top-digital-marketing-trends-in-india-2023/
[v] https://timesofindia.indiatimes.com/business/india-business/times-prime-rolls-out-indias-first-ai-driven-omni-channel-marketing-campaign/articleshow/100594312.cms
[vi] https://www.thehindu.com/news/national/over-50-indians-are-active-internet-users-now-base-to-reach-900-million-by-2025-report/article66809522.ece
[vii] https://www.start.io/audience/smartphone-users-in-india
[viii] https://irepute.in/blog/the-future-of-video-marketing-in-india-top-15-trends-to-watch-in-2023/
[ix] https://www.financialexpress.com/business/brandwagon-influencer-marketing-industry-size-to-reach-rs-2200-crore-in-india-by-2025-report-2332321/
[x] https://www.thenationalnews.com/business/2023/02/27/how-the-growth-of-social-media-is-boosting-indias-influencers/
[xi] https://www.nexaexperience.com/nexa-ar
[xii] https://www.toyotabharat.com/virtual-showroom/
[xiii] https://blog.digitalnexa.com/maruti-suzuki-goes-virtual-with-new-first-metaverse-showroom
[xiv] https://www.airtel.in/press-release/10-2022/airtel-ads-demonstrates-indias-first-immersive-vr-advertisement-powered-by-5g
[xv] https://www.socialsamosa.com/2022/12/growth-metaverse-vr-campaigns/
[xvi] https://www.exchange4media.com/marketing-news/hershey-india-forays-into-metaverse-with-hersheyverse-124285.html
[xvii] https://www.adgully.com/in-depth-part-1-how-metaverse-ready-indian-brands-really-are-128781.html