市場概況
昨今のSDGs目標やカーボンフットプリントの削減など、持続可能な社会を実現するための活動が世界的に活発化している中、先進国を中心に、グリーンビルディングへの取り組みが進んでいるが、インドも例外ではない。世界的なグリーンビルディングの認証プログラムであるLEED[i]の認証取得数・面積は世界第4位であり、LEED認証を運営するGBCI Indiaは、2020年1月、LEED認証取得のインドトップ10州を発表した。
【2018年12月時点での国別LEED認証取得累計[ii]】
プロジェクト件数 | 総面積(百万平米) | |
米国 | 33,632 | 441.60 |
中国 | 1,494 | 68.83 |
カナダ | 3,254 | 46.81 |
インド | 899 | 24.81 |
ブラジル | 531 | 16.74 |
【2019年12月時点でのLEED認証取得累計の州別ランキング[iii]】

インド独自のグリーンビルディング認証も複数存在する。
IGBC[i]:2001年に設立されたインド工業連盟(CII)の下部組織であり、2003年に初めてのグリーンビルディングプロジェクトが登録されて以来、累計で6,287プロジェクトが登録、うち2,126件・77.5億平方フィート(約7.2億平米)が認証取得された。組織メンバーは1,870名、IGBC認定プロフェッショナルは4,951名に上る。認証プログラムは対象・内容により細かく分類されており、住居、商業ビル、学校、工場、SEZ、タウンシップなど、その数は27種に上る。
GRIHA[ii]:インドエネルギー資源研究所(TERI)傘下の組織。2007年に新・再生エネルギー省(MNRE)にグリーンビルディングの国家レーティングシステムとして認定された。2021年2月時点でのサイト掲載の累計認証登録件数は2,029以上、5,250万平米となっている。
同システムもIGBC同様、対象等で複数に分かれており、プレ認証も含め10種となっている。
以下はいくつかの不動産会社・研究機関が挙げている、インドにおける代表的なグリーンビルディングプロジェクトとなる。
【インドの代表的なグリーンビルディングプロジェクト[iii]】
名称 | 州・都市 | 内容 |
CII- Sohrabji Godrej Green Business Centre | テランガナ州ハイデラバード | アメリカ以外の海外で初めてLEEDプラチナを取得したプロジェクト。完全なる廃棄物リサイクルのシステムを持つ。初期投資額は従来の建物よりも18%高額だったが、メンテナンスの削減、資材等のより長い寿命、環境改善等による運用費等の削減により、7年間で回収された。 |
Patni (i-GATE) Knowledge Center | UP州ノイダ | LEEDプラチナ取得のプロジェクト。約50%が緑地、占有スペースは75%自然彩光を確保。雨水貯水、太陽光温水器、点滴灌漑設備など、効率的な水循環が組み込まれ、下水はすべて処理・再利用されている。 |
Olympia Tech Park Chennai | タミルナド州チェンナイ | LEEDゴールドを取得した世界最大のITパーク。昼夜問わず稼働する多国籍企業が数多く入居している。省エネルギー、節水、リサイクルにより排出量ゼロを実現している。 |
Suzlon One Earth | マハラシュトラ州プネ | LEEDプラチナ認証を取得。建物は低エネルギー材料を使用して構築され、CO2排出量が削減。占有スペースでの自然光の利用、LED街路灯の採用等により、約25%の電力を削減。定期的に強制換気を行うシステムはジェットファンで構成され、50%のエネルギーを節約可能。 |
Infinity Benchmark | 西ベンガル州コルカタ | 世界で7番目にLEEDプラチナを取得。建物にはCO2モニターセンサー、雨水貯留、廃水リサイクルシステム、インテリジェント加湿制御を備えている。建物は断熱性を高める素材を使用。複合施設内での電気自動車の使用など環境に優しい技術が、エネルギー効率の高い機器や廃水リサイクルシステムとともに使用されている。 |
ここ数年で、政府、民間ともにグリーンビルディングに対する政策・活動が活発化している。
電力省エネルギー効率局(BEE)は2017年に、商業ビル向けの省エネ建築基準法である「ECBC 2017」を発表し、2030年までにエネルギー消費量を50%に削減する目標を掲げている[iv]。さらに2018年12月に、住宅用ECBC(ECBC-R)「Eco-Niwas Samhita(ENS)」を立ち上げた[v]。当取り組みはドイツ政府とインド政府による「インドードイツエネルギープログラム(IGEN)」の一環であり、ドイツ国際協力公社(GIZ)と共同で行われる[vi]。実際の運営を行うENS Cellは、デリー、UP州、パンジャブ州、マハラシュトラ州、カルナタカ州の5か所に開設される[vii]。
民間でも、2016年、「持続可能な住宅リーダーシップコンソーシアム」 (SHLC)が立ち上げられた。世界銀行グループのInternational Finance Corporationが招集した、EUが支援するエコシティプログラムであり、住宅都市省(MHUA)の支援も受けている。メンバー企業にはGodrej Properties、Mahindra Lifespace Developers, Tata Housingなどの地場大手デベロッパーが名を連ねる。2017年7月にはグリーンホームキャンペーンを開始、2022年までにインドの20%の新築住宅をグリーンビル化することを目標としている[viii]。
このように、インドのグリーンビル認証は、当初は商業施設中心であったものが、住宅へとその対象を展開している。インドではまだ建築物自体が不足しており、国際金融公社(IFC)によると、2030年までに必要な建築物の70%はまだ建設されていない、という実態がある。現状でも国内のエネルギー消費の4割が建築物に由来する、と言われ、それが2050年には70%にまで達すると予測されていることから、現段階からのグリーン化が必至の課題と考えられている[ix]。
中央政府、州政府とも、これらの観点からグリーンビルディング推進を加速化している。中央政府は、政府及び関連施設の建設に、GRIHAの適用(3つ星以上)を義務付け、またいくつかの州政府では、GRIHA認証取得による容積率(FAR)の上昇認可、アンドラプラデシュ州では、IGBC取得プロジェクトについて、固定資本投資合計に対し、25%の補助金を出す、といった義務化・奨励を行っている。
また、増加する初期投資を補うため、SBI、Exim Bankなど、幾つかの銀行がグリーンボンドを発行し、グリーンビルディング建設への融資を提供しているという。
その一方で、インドのグリーンビル認証は世界平均の14%に対し、わずか4%という調査結果[x]も発表されている。同調査は、その阻害要因として、プロジェクト実施・評価を行う技術・専門家の不足、省エネおよびそのパフォーマンスの不確実性がスマートシティへの投資をためらわせる大きな障壁になっていること、実行にあたっての資金不足、をあげている。
これらへのソリューションとして、グリーンビルディングに関するエネルギー効率化のコンサルテーション、手頃なホームオートメーション・スマート機器の導入による省エネルギーの実現などの製品・サービスを提供する企業が幅広く登場している。
以下にそのいくつかを紹介する。
Green Tree Global[xi]
2009年創業の、ノイダ拠点のエネルギー効率化コンサルテーション企業。民間向けソリューションだけでなく、政府とも協業しており、エネルギー規定・基準などの制定にもかかわっている。50名以上の建築家やエンジニアで構成され、コルカタ、ナビムンバイ、ハイデラバード、ラクナウに支社を持つ。インドの他、バングラデシュ、クウェート、ネパール、韓国、ニュージーランド、ベトナムにも実績がある。コンサルテーションの他、多様な電気料金体系に対応したIoTを搭載したスマートメーターおよび電気使用状況のモニタリング・分析ツールや、学生および建築・インフラ関連業務従事者向けのトレーニングも提供している。
Pert[xii]
2014年創業の、ハイデラバード拠点の家庭向けオートメーションシステムメーカー。手頃な価格で誰にでも使いやすい住宅のエネルギー・セキュリティー管理が可能なスマートホームソリューションを提供している。
同社の開発したPertアプリを経由し、スマートフォンで住宅の電力やセキュリティー管理が一括して可能であり、特別な配線も不要なため、スマートスイッチは一般の人でも設置が可能。電気製品のコントロールだけでなく、ガス漏れ検知も可能。セキュリティー関連ではモーションセンサー、スマートロック、ドアセンサーなども取り扱う。
Smartify[xiii]
グジャラート拠点のホームオートメーションコンサルテーションサービス企業。2016年創業。様々なホームオートメーション・IoT機器を組み合わせ、総合的なホームオートメーションを提供している。費用はWi-Fi利用で49,999ルピー、Z-Wave対応で79,999ルピーでいずれも3BHK(3LDKに相当)向けとなっている。住宅だけでなく、商業向けのソリューションも提供している。
Buildtrack (Surmount Energy Solutions)[xiv]
ナビムンバイ拠点のスマートオートメーション企業。住宅、ホテル、オフィス、病院、シニア住宅向け等多様な用途に対応、エネルギー効率化ソリューションおよび器材を提供している。受賞歴も多数あり、インド工業連盟(CII)の最もイノベーティブなエネルギー節約商品で2回受賞、インドインターネットモバイル協会(IAMAI)のDigital Awardで、2018年から連続2回、No.1スマートオートメーション&IoT企業を受賞している。クライアント企業はReliance Industries、Mahindra、General Motors、Indian Oil(インド石油公社)などの大手企業、Lodha, Wadhwa Group, India Bulls, Tata Housingといったデベロッパー・住宅会社が名を連ねる。同社のナビムンバイ施設も、LEEDプラチナ認証を受けている。
Econaur[xv]
ジャイプールに本社を置く、グリーンビルディングのオンラインアグリゲータープラットフォームを提供する企業。建築関係者やインフラ関連のコンサルタント、関連資材・機材製造会社などをひとつのプラットフォーム上でつなぎ、技術や情報交換の他、サステナブルな製品の購入など、様々な活動を可能としている。同社はEconaur Online Sustainability Awardsを主催しており、EconaurのCEOおよび支援団体、パートナーが審査員となり、インドの建設物を評価している。2019年は、ムンバイのチャトラバティシバージー国際空港が、固形物廃棄物処理部門で当Awardを受賞している。
[i] https://igbc.in/igbc/redirectHtml.htm?redVal=showAboutusnosign&id=about-content
[ii] https://www.grihaindia.org/about-griha
[iii] https://www.lokaa.in/blog/top-10-green-buildings-india/
https://www.orfonline.org/expert-speak/case-green-buildings-india/
https://www.99acres.com/articles/top-10-green-buildings-in-india.html
https://www.nbmcw.com/tech-articles/tall-construction/25585-the-cost-of-going-green.html
[iv] https://www.thehindubusinessline.com/opinion/theres-a-need-to-boost-indias-green-building-infrastructure/article32953301.ece
[v] https://www.peda.gov.in/ec/residential.php
[vi] https://www.econiwas.com/what-we-do.html
[vii] https://www.peda.gov.in/ec/residential.php
[viii] https://www.mahindraworldcity.com/press_release/sustainable-housing-leadership-consortium-launches-greenhomes-campaign-20-indias-new-homes-become-green-2022/
[ix] https://www.orfonline.org/expert-speak/case-green-buildings-india/
[x] https://mercomindia.com/with-4-percent-green-buildings-india-barriers/
[xi] https://www.greentree.global/about_us.html
https://www.esconet.biz/members/greentree/profile/
https://in.linkedin.com/company/pert?trk=public_profile_topcard-current-company
https://indianceo.in/startup-directory/pert-info-consulting-pvt-ltd/
https://in.linkedin.com/company/smartifyindia
[xiv] https://www.buildtrack.in/about-us
[xv] https://econaur.com/about-us/
[i] https://www.gbj.or.jp/leed/about_leed/
[ii] https://www.usgbc.org/articles/us-green-building-council-announces-top-10-countries-and-regions-leed-green-building
[iii] https://gbci.org/annual-top-10-states-leed-india-announced-gbci-india