インド政府は、国内製造業振興を目的として、生産連動型インセンティブ(Production―Linked Incentive)スキーム(以降PLIスキーム)を2020年より開始しており、その品目をこの1年間で13項目に拡大した。
第一弾として2020年4月に開始された、1) 携帯電話・特定電子部品、2) 重要な出発原料・医薬品中間体・有効医薬品成分、3) 医療機器製造 の3分野に続き、同年11月には10分野の追加が発表され、うち6分野がすでに承認を得ている[i]。
このPLIスキームは、日本も含め数多く報道されているため、ご存じの方も多いと思われるが、基準年度から5年間、インドで製造された製品の売上増加額に対して、4~6%の補助金が付与される[ii]、というもので、非常にシンプルで計算しやすく、申請プロセスが簡易であることからも関心が集まっている。PLIスキームは、1) 特定の製品分野を対象とする、2) 安価な輸入品に対し、より効果的な競争を可能とするための非関税措置の導入、3) 製造業の競争力・持続可能性の向上のため、国内販売と輸出の融合、4) インド国内外からの投資を奨励することによる国内製造促進、の4つを目的として設計されている[iii]。インド国内企業だけでなく、外資系企業の製造業誘致も視野に入れており、2020年10月に、携帯電話・特定電子部品分野の第一ラウンドで承認された16社のうちの半数は外資系企業、また、今年4月に承認を得た電子・技術製品においては、海外投資誘致を積極的に行っており、グローバル大手企業へのアプローチを、大使館や業界団体など、様々な経路より実施、個別もしくはカンファレンス等での周知を図っており、スキーム内容についても、英語以外の日本語を含む8外国語にて提供している[iv]。
【PLIの内容・予算と進捗(2021/4時点)】
分野 | 詳細 | 認可 | 予算 (億ルピー) |
携帯電話・特定電子部品 | 携帯電話(請求価格15,000ルピー以上)携帯電話(インド国内企業)特定電子部品 | 2020/3 | 4,095 |
重要な出発原料(KSM)、薬剤中間体(DI)、医薬品有効成分(API) | 1. 発酵による重要となるKSM/DI[v] 2. 発酵によるニッチなKSM/DI/API 3. 化学合成による重要となるKSM/DI 4. 化学合成によるその他KSM/DI/API | 2020/3 | 694 |
医療機器製造 | がん・放射線治療用医療機器放射線・画像医療機器(電離・非電離放射線製品)および核画像機器麻酔・心肺用医療機器(心肺系カテーテルおよび腎臓ケア医療機器すべての体内埋め込み型医療機器(電子機器含む) | 2020/3 | 342 |
先端化学・セル電池 | ― | 認可進行中 | 1,810 |
電子・技術製品 | 半導体 ディスプレイ ラップトップ・ノート サーバ IoT端末 特定コンピュータHW | 2021/3 | 500 |
自動車・自動車部品 | ― | 認可進行中 | 5,704 |
医薬品 | カテゴリ1 バイオ医薬品複合ジェネリック医薬品特許取得済医薬品細胞・遺伝子治療製品希少疾病用医薬品特殊カプセル複合賦形剤 カテゴリ3 再開発既存薬抗免疫・がん・糖尿・感染症・心血管・精神・レトロウイルス薬体外診断機器植物性医薬品その他インド国外製造医薬品その他認可医薬品 ※先んじて認可された重要な出発原料、薬剤中間体、医薬品有効成分は「カテゴリ2」として分類 | 2021/3 | 1,500 |
通信ネットワーク機器 | コア伝送装置4G・5G、次世代無線アクセスネットワーク・無線機器CPE・IoT 端末・その他無線機器産業機器(スイッチ・ルーター) | 2021/2 | 1,220 |
繊維製品 | 1. 化学繊維 2. 産業用繊維 | 認可進行中 | 1,068 |
食品 | 1. RTE/RTC 2. 海産物 3. 野菜・果物 4. はちみつ 5. ギー 6. モッツアレラチーズ 7. 有機卵・鶏肉 | 2021/3 | 1,090 |
高効率太陽光発電モジュール | ― | 450 | |
白物家電 | 1. エアコン 2. LED | 2021/4 | 624 |
特殊鋼 | 1. めっき鋼 2. 高張力鋼 3. 鉄道レール 4. 合金鋼 | 認可進行中 | 632 |
合計 | 19,729 |
出典:インド商工省リリース、JETROビジネス短信、Mizuho Country Focus等よりインフォブリッジ作成[vi]
インド商工省より、今年4月に発表されたPLIの進捗状況から、いくつか紹介する。
- 携帯電話・特定電子部品分野
- 前出の第1ラウンドで承認された16社へのインセンティブは3,644億ルピー。当スキームの元、これら企業は5ヶ月で130億ルピーの投資、3,500億ルピーに値する製品生産を実施、追加雇用創出は約22,000人と報告されている。
- 2020年11月に募集開始された第2ラウンドは2021年3月に受付を終了し、審査中。第2ラウンドについては、対象製品の基準年に対する販売増分にたいし、3-5%のインセンティブが4年間延長される。
- このスキームの適用により、今後5年間で全生産量の6割以上が輸出、さらなる1,100億ルピーの追加投資、20万人の追加直接雇用、その3倍の間接雇用を生む、と期待されている。
- 重要な出発原料、薬剤中間体、医薬品有効成分
- 認可から今までの申請件数は、36製品に対し216社に上る。4月時点での承認社数は47社となり、その投資額は536.6億ルピー、1万2千人以上の追加雇用が見込まれる。認可された企業には国内・外資系の大手企業も複数含まれる。2029年度までに41製品を対象に進めていく。
- 医療機器製造
- 申請は28件受領され、うち14件が承認されており、その投資総額は87.4億に上る。外資系では、Siemens Healthcare、Wipro GE Healthcare、そして日本のNiproの現地法人、Nipro Indiaも承認されている。
[i] https://www.pib.gov.in/PressReleasePage.aspx?PRID=1671912
[ii] https://pib.gov.in/PressReleasePage.aspx?PRID=1710134
[iii] https://www.livemint.com/opinion/columns/productionlinked-incentives-a-well-designed-scheme-11618245189412.html
[iv] https://www.meity.gov.in/esdm/pli
[v] https://www.investindia.gov.in/schemes-for-pharmaceuticals-manufacturing
[vi] https://www.jetro.go.jp/view_interface.php?blockId=31024850
https://www.mizuhobank.co.jp/corporate/world/info/country_focus/pdf/20_13_mcf.pdf