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インドのSDGsー世界の中でも課題が多く改善の余地が多く残されている中、日本企業との協力の方向性は

SDGsは、2015年9月に国連サミットで採択された国際目標であり、2020年より、2030年のゴールに向けての「行動の10年」が始まったことで[i]、日本も含む加盟国では具体的な取り組みに向けての活動が、各種メディアや報道で取り上げられる機会が増えてきている。

インドは国連加盟国であり、それらの中でも特に様々な課題を抱える国のひとつとして数えられ、現在のランキングは193か国中117位、そのスコアは100点満点中61.92(The Sustainable Development Reportのダッシュボード参照、2021年4月8日時点[ii])という状況にあり、改善の余地はまだ大きい。一方の日本は17位と、一国での改善の余地は限られており、幾つかの日本のレポートでも、日本のSDGsへの取り組みの方向性として、国際協力や海外事業展開などを通じて、インドを含む新興国のSDGs達成に積極的に貢献することがより重要になる、といった指摘がされている[iii]

実際、インドがSDGsに対し、どのような取り組みをしているのか、少し紹介してみたいと思う。

SDGs Indexによる進捗指標の設定

インド政府のシンクタンクであるNiti Aayogは、SDGsの目標に対し、どのように実行し、成功度合いを測定するか、について世界の先駆けとして2018年にベースラインレポートを発表した[iv]。当ベースラインは、インドのすべての州・連邦直轄市における状況を把握し、どう改善が進むのかを、具体的な数値で時系列比較をしていこうとするもので、Niti Aayogが、インド統計局による国家指標フレームワークに従い、38の中央省庁および全州政府・連邦直轄市政府との協議により、設定した指標である。設定された指標数は62であり、SDGs 17項目のうち以下13項目となっている。

【インドにおけるSDGs達成の指標一覧】

 2030年
目標
現在
(2018)
1. Eliminate Poverty
1-1. 世界貧困ライン以下の人口比率10.95%21.92%
1-2. 健康保険またはスキームの対象となる家族のいる世帯の割合100%28.70%
1-3. MGNREGA(マハトマガンジー国家農村雇用保証法)に基づく求職者の就業率100%84.75%
1-4. 妊婦向け社会保障給付を受けている適格人口の割合100%36.40%
1-5. 1万世帯ごとのホームレス世帯数010
2. Hunger
2-1. 公的分配システムでカバーされる農村世帯数/世帯内最高所得者の月収が5千ルピー未満の農村世帯数1.291
2-2. 5歳未満の発育不全児の割合21.03%38.40%
2-2. 15-49歳の妊婦の貧血(11.0g/dl)比率23.57%50%
2-4.  米、麦、粗粒穀物の単位面積当たりの生産量 (kg/ha)5018.442509
3. Good Health and Well-being
3-1. 10万人あたりの妊産婦死亡数70130
3-2. 出生1,000人当たりの5歳以下での死亡数1150
3-3. 予防接種(BCG、はしか、5種混合ワクチン3回接種)を完了した12〜23か月の子供の割合100%62%
3-4. 10万人あたりの結核症例の年間確認数0138
3-5. 10万人あたりの政府系医療関係者数550220
4. Quality Education
4-1. 調整純就学率(10学年まで)100%75.83%
4-2. 5学年生の言語、数学、EVSの学習成果に対する正解率67.89% 54.69%
4-3. 8学年生の言語、数学、科学、社会科学の学習成果に対する正解率57.17% 44.58%
4-4. 6-13歳の非就学児の割合0.28%2.97%
4-5. 中等教育での年間ドロップアウト率10%17.06%
4-6. 専門資格を持つ学校教師の割合100%81.15%
4-7. 1教師あたりの生徒数が30以下の小学校および中学校の割合100%70.4%
5. Gender Equality
5-1. 誕生時の男性千人に対する女性数954898
5-2. 15-59歳の雇用者が1日あたりに受け取る平均賃金・給与平均値比率(男性100%に対する数値)100%70%
5-3. 15‐49歳の結婚経験女性の夫によるDV経験率0%33%
5-4. 州の立法議会への総選挙で女性が獲得した議席の割合50%8.70%
5-5. 男性の労働力率に対する女性の労働力率(男性100%に対する数値)100%32%
5-6. 家族計画に近代的手法を用いている15-49歳の女性の割合100%  53.5%
6. Clean Water and Sanitation
6-1. 農村部での安全・適切な飲料水の供給率100%71.80%
6-2. 農村部でのトイレ世帯設置率100%82.72%
6-3. 野外排便の行われていないことが確認された地区(ディストリクト)の割合100%32%
6-4. 都市部の排水量に対する下水処理能力68.79%37.58%
6-5. 純年間利用可能量に対する地下水取水量の割合70%62%
7. Affordable and Clean Energy
7-1. 世帯電化率100%95%
7-2. クリーンな調理用燃料の世帯使用率100%43.80%
7-3. 設置発電能力全体に占める再生可能エネルギーの割合40%17.51%
8. Decent Work and Economic Growth
8-1. 一人当たりGDPの年間成長率(実質、2011-12年基準)10%6.50%
8-2. 1,000人当たりの平均失業率14.8364
8-3. 銀行口座を持つ世帯の割合100%99.99%
8-4. 10万人当たりのATM設置数50.9516.84
9. Industry, Innovation and Infrastructure
9-1. PMGSY(農村部道路開発政策)により対象とされた居住地への全天候型道路の接続達成率100%47.38%
9-2. 100人当たりのモバイル利用者率100%83%
9-3. 100人当たりのインターネット契約率100%33%
9-4. Bharat Net(政府によるインターネット接続政策)によってカバーされたGram Panchayat*1比率100%42.43%
10. Reduce Inequalities
10-1. 都市部パルマ比率ー低所得者(人口下位40%)と高所得者(上位10%)比率)11.41
10-2. 農村部パルマ比率10.92
10-3. トランスジェンダーの労働者就業率(男性100%に対する数値)10.64
10-4. SCSP(指定カースト サブプラン)基金利用率100%77.67%
10-5. TSP(部族 サブプラン)基金利用率100%82.98%
11. Sustainable Cities and Communities
11-1. PMAY構想(首相の住宅計画)により需要アセスメントに対して完成された住宅の割合100%3.20%
11-2.  都市部のスラム在住者率0%5.41%
11-3. 100%の世帯ごみ回収が実現した地区(Ward)の割合100%73.58%
11-4. ごみ処理率100%24.80%
15. Life on Land
15-1. 国土の森林カバー率33%21.54%
15-2. 2005年から2015年までの森林内水域の範囲の変動 (%)0%18.24%
15-3. 2015年から2017年までの森林エリアの変動 (%)0%  0.21%
15-4. 5年間の野生象推計生息数の変化率0%20%
16. Peace, Justice and Strong Institutions
16-1. 10万人あたりの報告された殺人数1.22.4
16-2. 10万人あたりの報告された子供に対する犯罪数024
16-3. 10万人あたりの推定裁判所数33.7613
16-4. 1千万人あたりの推定報告汚職犯罪数1734
16-5. 出生登録率100%88.30%
16-6. Aadhaar取得人口率100%90%

*1 Gram Panchayat: インド農村部の行政単位

17のパートナーシップ協力を除く3項目については、全州・直轄市で比較可能なデータが入手できないため除外しており、Niti Aayogは、このことがインドの国および州レベルでのデータ収集機能および統計システム開発の必要性を浮き彫りにしている、とも指摘している。

国連も、このインドのIndex設定と発表について、限られたデータ範囲であってもその進捗ステータスに対する評価・洞察が可能であり、今後データの可用性が向上し、新しい推定手法が開発されるなどの改善により、より包括的、かつ範囲を拡大したものに変化していくだろう、と一定の評価を見せている[v]

Indexは、そのスコアにより州・連邦直轄市は以下の4段階に分類される。

Achiever – SDG India Index score = 100
Front Runner – SDG India Index score = 65 – 99
Performer – SDG India Index score = 50 – 64
Aspirant – SDG India Index score = 49 or less

各州・直轄市のIndexおよび詳細については、実際のレポートを参照されたい。

「SDG INDIA INDEX Baseline Report, 2018」

https://niti.gov.in/writereaddata/files/SDX_Index_India_21.12.2018.pdf

企業によるSDGsの取り組み

インドでは、持つものが持たざるものに与える、という行為が根付いているところから、古くから大手コングロマリットを中心に、貧困層等への教育・医療を受ける場の提供や職業訓練、自社工場周辺の環境保全といったCSR活動が展開されており、世界最大級の人口を抱え、政府の財源も限られた中、こういった民間企業のCSR活動が、インドのSDGs目標達成について、大きく貢献しているともいえる。企業のCSR活動は、2013年の会社法改正に伴い、一定資本あるいは売り上げを持つ企業のCSR活動は義務化された。2019年改正法においては、支出額やその用途がより明確に規定され[vi]、さらに2021年1月には、支出規定をより柔軟性を高めたかたちに改正したと同時に、企業にとって代わってCSR活動を行う企業の登録を義務化するなどの改定を行った[vii]。この改定により、企業がCSR活動をより行いやすく、かつその成果が見えやすい形にされた、と報道されており、企業CSR活動によるSDGs推進を促す意図も含まれていることが推測される。

インド工業連盟(CII)は、自身の展開する持続可能な開発のためのセンターオブエクセレンス(CESD)を通じて政府及び民間企業と連携し、Niti AayogのMoUパートナーとしてSDGsにかかわる活動を促進している[viii]。その中で、企業のCSR活動としてのSDGsの取り組みをレポートとして紹介している[ix]

これらの中から、CSR活動をいくつか紹介する。

農業:インドは世界の中でも農業大国のひとつであり、農業従事者が人口の半数を超えるものの、小規模農家が多くを占めており、低収量による農家収入の少なさ、投下できる資本の少なさなど、様々な課題を抱えている。インドでは、地場大手ITCや、外資系のPepsiCo等が、農家収入改善のためのプログラムを実施しており、有機農業や灌漑農業の導入、より土壌に適した新品種の導入の他、持続可能な農業による温室効果ガスや使用水量の削減などを実現している。

水資源・エネルギー:世界最大級の人口に加え、続く人口増で中国の人口を超えて世界第一位になる、と予測されているインドでは、水資源・エネルギー資源の確保も重要課題である。単に資源を確保するだけでなく、持続可能な仕組みの導入も行われており、デンマークの水技術企業であるGrandfosは、浄水システムと供給する水ATMを導入、水はATMからスマートカードを利用して購入する仕組みになっており、その運営をローカルコミュニティに実施させ、収入源の創造にもつながっている。同様の仕組みを、太陽光を用いた再生エネルギー企業のRenew Powerも提供しており、設置したソーラーグリッドの運営をコミュニティに実施させている。

上記のように、CSR活動の中でも「持続可能な」循環を小規模なコミュニティで実現していくことで、SDG全体の底上げを行っていこう、とするものが注目されているように見受けられる。ここで紹介したものはごくわずかであり、その他に数多くの活動が行われている。これらを参考に、SDGsの改善のパートナーとしてのインドの可能性を考えるきっかけになれば幸いである。


[i] https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/2030agenda/

[ii] https://dashboards.sdgindex.org/

[iii] https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/rim/pdf/11415.pdf

[iv] https://niti.gov.in/sdg-india-index

[v] https://in.one.un.org/sdg-india-index-2018/

[vi] https://arayz.com/columns/one-asia-lawyers_202002/

[vii] https://timesofindia.indiatimes.com/business/india-business/govt-amends-csr-rules-to-boost-transparency-flexibility/articleshow/80415958.cms

[viii] https://sdghub.com/india-cii/

[ix] https://smartnet.niua.org/sites/default/files/resources/60786.cs641sdgsreportweb.pdf