コラム

インドのアルコール市場~法律の厳格化・小売価格の上昇などの影響はあるものの 市場は多様化、ワインやクラフトビール等も増加中~

Published on
Dec 5, 2018

市場規模

WHOの報告書によると、インドの1人あたりの年間飲酒量は2005年から2016年の間で2倍以上に伸びたという。2005年の消費量は2.4リットル、2016年は5.7リットルにまで伸びた。同報告書では、2025年までにさらに2.2リットル増加する見込みだ、としている。
世界平均の飲酒量は2005年は5.5リットル、2016年は6.4リットルとなっており、インドは世界平均以下であるものの、その伸び率は上回っている(注1)

インドの年間酒類消費量は51億リットル、うちビールが25億リットル、スピリッツ(ウイスキー、ウオッカ、ジン、ラムなど)が26億リットルを占めている。市場の年間成長率は2015年が前年比0.2%増。2011年は同11%、2012年は同9%、2013年および2014年は同6%と成長率が減少している要因として、原材料や酒税の値上げによる小売価格の上昇、幾つかの州における飲酒に対する法の厳正化などが挙げられる(注2)

ビールとスピリッツとで人気が二分している市場だが、調査会社の英GlobalDataによると、インドのスピリッツ(蒸留酒)市場規模は2016年時点で1兆8,400億ルピー。2020年には2兆3,600億ルピーまで成長する見込みだ。種類別で最も消費されているのはウイスキーで61.5%、次いでブランデー21.9%、ラム13.2%、ウォッカ2.4%と続く(注3)

ワインの消費も伸びている。Assochamの調査によると、ワインの生産量は2014年時点で1,700万リットル。2018年は2,100万リットルまで伸びる見込みだ。その消費量は2014年の2,200万リットルから2018年は3,700万リットルに到達するという。ワインは「上流階級の飲み物」という印象が強く、飲酒者は限定されているものの、購買力のある若者層の増加、輸入ワイン・国産ワインの台頭などでその認知度は広がりつつある(注4)

市場動向

下記は2011年に実施された全国標本調査機構(NSSO)による各州および連邦直轄領における1人当たりの1週間の飲酒量(ビール、輸入酒、ワイン、ヤシ酒や地酒)だ。トップはダドラおよびナガルハヴェリ連邦直轄地の3,031ミリリットル、ダマン・ディウ連邦直轄地1,331ミリリットル、アンダマン・ニコバル諸島1,188ミリリットルと続く。一方、ラクシャディープ諸島は0ミリリットル、ミゾラム州は31ミリリットル、ジャンム・カシミール州39ミリリットルなど、ほぼ飲酒のない地域もある(注5)

酒類の販売および消費を禁止する禁酒州は、グジャラート州、マニプール州、ナガランド州の3州だったが、2016年4月にビハール州も禁酒法を制定し、4州となった(注6)。また、タミルナド州やケララ州は準禁酒州となっており、酒類の販売および消費は五つ星ホテルや公営の酒屋などに限定されている。インドの人口の5分の1に当たる2億4000万人がこうした禁酒州および準禁酒州に居住しているという(注7)。ただし、禁酒州の中でも外国人は飲酒や酒類の購入ができる(政府発行の許可書が必要)などの特例措置のある州もある。

2016年12月には、最高裁判所が全国の主要国道・州道から500メートル以内での酒類販売の原則禁止を命じ、2017年3月には対象は酒屋だけでなくレストランやホテルも含まれると発表。飲酒運転による事故の撲滅を目的としたものだったが、商業都市ムンバイでの経済損失は700億ルピーと試算され、グルガオンにある商業施設サイバーハブの客足は9割減少と、外食業界は打撃を受けた(注8)。措置から1年半が経過した2018年12月現在は、該当レストランなどは入口を変更し、主要道から500メートル以上距離のある迂回路を新設するなどの対応を取り、客足は以前同様に回復している。

企業動向

・United Breweries (注9)
1915年設立、インドを代表するビールブランド「Kingfisher」を生産、販売している。南インドに5か所の醸造所を構えている。1944年にインドから初めてビールを輸出、現在世界69か国で販売されている。1978年に「Kingfisher Premium」、1981年に缶商品、1999年にアルコール8%以上のストロングビールブランド「Kingfisher Strong」、2008年に「Kingfisher Blue」、2009年にプレミアムブランド「Kingfisher Premium」、2015年にストロングビール「Kingfisher Ultra Max」、2016年にモルトベースのフレーバーアルコール飲料「Kingfisher Buzz」、2017年に「Kingfisher Storm」を発売している。2018年にはインドのアルコール飲料の中で最も信頼できるブランドとして、ウイスキー「Black Dog」、ビール「Budweiser」と共に選出されている(注10)

・Amrut Distilleries (注11)
1948年設立、バンガロールに蒸留所を構える。ウイスキー、ラムなどの蒸留酒を製造しており、年間生産は600万ケース(9リットル/ケース)、うち3万5千ケースをシングルモルトウイスキーが占めている。生産シングルモルトウイスキーの6割が20か国以上に輸出されている。天使の取り分(angel’s share)と言われる量は、平均2%程度だが、同社のバンガロール倉庫では最大15%が蒸発するという。高い気温が理由だが、その一方で蒸留は早く進むため、インドの1年はスコットランドの3年に相当する。樽はアメリカや欧州から輸入しているバージンオークやバーボンバレルを使用。世界で初めて5種類のオークからなるスペクトラムバレルを導入した実績ももつ。スペクトラムバレルで蒸留されるウイスキー「Amrut Spectrum」はバタースコッチ、ナッツ、ラム、甘草、チリチョコレートなどの豊かな風味をもつ。

・John Distilleries (注12)
1996年設立。ゴアなど南インドの7州8か所に製造拠点を構え、ウイスキーやワイン、ブランデーなどを生産している。Amrutと同じく高温での事業に対し、ピート(泥炭)をスコットランドから輸入、長い蒸留期間ではなく香りを強みとした。2012年に初出荷したシングルモルト「Paul John」は、ジム・マレー氏の「ウイスキーバイブル」において「ラフロイグ10年」の90点、「タリスカー12年」の86点を抑え96.5点の評価を得ている。

・Sula Vineyards (注13)
インドのワイン市場でシェア65%を占める国内最大手のワインメーカー。カリフォルニアにあるオラクルを退職したインド人実業家のRajeev Samant氏により1999年に設立。同氏は1996年にナシクで初めてワイン用ブドウの栽培を開始し、その後Sula Vineyardsを中心にナシクはインドにおけるワインの一大生産地となり、現在ではインドで生産されるワインのおよそ80%が同地域で生産されている。Sula Vineyardsはナシクに3,000エーカーを超えるワイン用ブドウ園を保有している。インドで初めてワインの品種であるジンファンデルとリースリングをそれぞれ2003年と2008年に生産した実績をもつ。海外輸出も積極的に展開しており、アジア、欧州、米国、カナダなど25以上の国にワインを輸出している。

・Grover Zampa (注14)
インド人実業家のKanwal Grover氏によって1960年代に創設。貿易商としてフランスに度々訪れていたことが、同氏がワインビジネスを開始する契機となった。ベンガルル近郊のナンディ・ヒルにおよそ400エーカーのブドウ畑を所有しており、業界2位のシェアを誇るインド最古のワインメーカーである。2015年から2016年にかけては、約240万本のワインを生産。プレミアムワインの生産にも注力している。プレミアムブランド「Insignia 2015」は5,000ルピーの価格設定で販売されており、最も高額なインド産ワインである。プレミアムワインは生産コストが従来のワインと大差ないため、事業が成功すれば、生産者により多くの報酬を支払うことができ、より品質の良いワインの生産が可能になるという(注15)

現地消費トレンド

・国内でクラフトビール(小規模かつ独立して生産されているビール)の消費が増えている。市場規模は2016年時点で28億ルピー、2020年には440億ルピーに到達する見込みだ。特に消費が伸びているのはベンガルル、ムンバイ、プネ、グルグラムで、それぞれの都市には60カ所以上のクラフトビール醸造所があるという。多くが500~1,000リットルでの生産で、平均価格は300~500ミリリットルで200~500ルピーとなっている。ベテルリーフ(キンマ)、コリアンダー、マンゴーといったフレーバーが人気だという(注16)

・2015年10月、東デリーのショッピングモール内に女性専用の酒屋がオープンした。従来の酒屋では男性客が多く、女性客は好奇の目にさらされることが多かった。女性への酒類需要の増加に応え、コンセプトは女性が安心して購入できるというものだ。男性も、女性同伴であれば入店できる仕組み。オーナーによると、女性客はウオッカやワイン、シャンパンやテキーラをよく購入する傾向がある。地場ブランドだけでなく輸入ブランドも取り扱っており、単価が高いものでも売れ行きは良いという(注17)

・日系ウイスキーブランドの動きもある。2011年にはデリー拠点の酒造メーカーRadhico Khaitanがサントリーの「山崎」および「響」の輸入販売を開始(後に中止している)、2018年10月にはキリンが富士御殿場蒸溜所で製造している「富士山麓」のインド発売が報道されている(注18)

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