コラム

インドの再生・新エネルギー ―太陽光からグリーン水素製造拠点へ

Published on
Jan 8, 2022

インドは世界有数のエネルギー消費大国である。2020年の一次エネルギー消費量は中国、アメリカに次ぐ第3位であり、全世界計556.63EJ(エクサジュール)の5.7%に上る。一方、一人当たりエネルギー消費量は23.2GJ(ギガジュール)と、世界平均71.4GJの1/3にとどまり、今後さらに拡大する余地を残している [i]

中国を超え第1位になると予測されており、人口増に、経済発展による一人当たり消費量の増加が加わり、エネルギー消費は右肩上がりが続く。

国際エネルギー機関(IEA)の予測によると、インドのエネルギー消費量は、公表政策シナリオで2030年には2019年の1.3倍強、2040年には1.7倍弱にものぼり、持続可能な開発シナリオでも、同1.07倍/1.2倍強とされている。

【エネルギー需要の伸び(IEA予測)[ii]

※左軸は2019年を100としたインデックス。「公表政策シナリオ」は、現在の政府方針・政策等を考慮したもので、「持続可能な開発シナリオ」は、パリ協定で定められた目標を完全に達成するとした場合のシナリオ[ⅲ]

インド政府はCOP26で、2030年までの非化石燃料の発電容量目標を450GWから500GWに、再生可能エネルギーの占める割合を40%から50%に引き上げるという、大胆な目標変更を行った。

その一方で、COP26の最終成果文書では「石炭使用の段階的な廃止」に猛反発、最終決定された文書では「廃止」が「削減」に弱められる結果に終わった背景には、いまだに高い石炭依存がある。

インドの再生エネルギー発電容量は、2021年1月時点で150GW強を達成し、全発電容量の38.4%を占めるまでに上昇した[ⅳ]が、実際の発電効率は火力発電に比べかなり劣る。以下は時点をそろえるため2019年/年度のデータで見たものだが、再エネは発電容量に対し、実際の発電量は少なく、現在も火力、主に石炭発電への依存がまだ高いことが推測される。



【発電源別発電容量と実際の発電量比率比較】

出典:中央電力庁(CEA)発表データよりインフォブリッジ作成 [ⅴ-1] [ⅴ-2]

それに加え、現再生エネルギーの継続的な拡大にも課題がある。現在、インドは再生エネルギーへの転換を太陽光発電中心に進めている。2015年度以前は風力が中心だったが、2016年度には、風力とほぼ同容量の新規設置、2017年度以降は太陽光の新規設置が風力を大きく上回り[ⅵ]、2021年1月時点では、再生エネルギー容量38.1%のうち太陽光が最も多く、12.4%を占めた。インド政府は、太陽光発電導入促進のため、商業・公共施設や学校などへの屋上ソーラーパネル設置や、農村部の水汲み上げポンプのためのソーラー発電導入などへのインセンティブ供与や免税措置など、分散型太陽光発電普及政策を実施[ⅶ]、また水上太陽光や風力とのハイブリッド発電など、新たな太陽光発電関連の取り組みを進めているが、その太陽光発電に使用するソーラーパネルや蓄電池といった部材は、多くが中国輸入に依存している。

インド政府は輸入依存脱却のため、輸入関税の引き上げ[ⅸ]、新たな製造業振興スキームであるPLIの太陽光関連製品製造への適用を行う[1]など、昨年以降矢継ぎ早に政策を発表しているものの、実際に国内製造が開始され、輸入に頼らなくなるにはまだかなりの時間がかかるとみられている。

これらを補うため、新エネルギー開発についても政府は積極的な姿勢を見せている。2021年度予算と同時に発表された「国家水素エネルギーミッション」はそのひとつであり、このミッションを受け、8月にモディ首相が発表した「グリーン水素プロジェクト」は、インドを再生エネルギーで水を分解して製造する「グリーン水素」の生産・輸出ハブにする方針だ[ⅹ]。これにより、2050年までには、インドで生産される水素の3/4をグリーン水素に置き換えるとしている[ⅺ]

水素については、15年ほど前から、国および大学の研究機関や、国営エネルギー企業にて様々な研究や水素燃料自動車などの実証実験が行われてきたが、この政府の野心的な発表に伴い、水素製造設備の導入や工場建設計画が、国営エネルギー企業を中心に発表されている。

国営火力発電公社NTPCは、同社がUP州に持つ石炭火力発電所内に、5MW規模の固体高分子(PEM)ベースの水素プラントの設置を計画。2021年10月に、同プラント事業を仏Technip Energiesが受注した[ⅻ]。石炭火力でメタノールから水素を製造する。将来的には石炭火力から再エネに切り替えることも検討している。

国営天然ガス公社GAILも、同月に10MW規模の水素生成のための電解槽建設計画を発表。建設候補地の事前調査は完了、入札公告は開示されており、1-2年での導入を目指す[xiii]。国営インド石油公社IOCも、グリーン水素工場の入札公告を行っている[xiv]

大手企業もグリーン水素製造に乗り出そうとしている。財閥系リライアンス・インダストリーズは2021年9月、今後3年間でグリーンエネルギー事業に7,500億ルピーを投資すると発表した。うち6,000億ルピーは、グジャラート州に設置するグリーンエネルギーコンプレックスに投じ、同コンプレックス内に、太陽電池モジュール工場の他、水素製造装置、燃料電池工場等を建設する計画だ。同グループの再エネ企業RNESLも、デンマークのStiesdal A/Sと業務提携し、水素電気分解機の開発・製造を協働で行うという[xv]

民間大手エンジニアリング会社L&Tも、大手再エネ企業Renew Powerとの、グリーン水素の開発・生産事業での協働を発表している[xvi]

インド政府はグリーン水素にとどまらず、新エネルギー開発推進に向け、海外協力も積極的に行っている。日本もインドとのエネルギー対話を2007年来進めてきたが、2019年2月にはデリーにて「水素および燃料電池に関する日印ワークショップ」が初開催された[xvii]。オーストラリアとは、水素分野や超低コスト発電分野などでのパートナーシップを締結、EUとは2016年にクリーンエネルギー及び気候に関するパートナーシップを結んでおり、風力発電やスマートグリッド、水素開発などの取り組みを行っている。アメリカとは、2021年12月にクリーンエネルギーと気候に関するパートナーシップを締結したばかりだ。今後のクリーンエネルギー強化およびエネルギー自立に向けた、海外、特に先進国からの技術・投資を期待、今後さらなる連携の活発化が予想される。

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