コラム

インドブロックチェーン・仮想通貨市場ー金融業界やスタートアップがけん引。金融から他業界へ導入が進むブロックチェーン、一方でいまだ政府の見解が定まらない仮想通貨

Published on
Oct 7, 2019

市場規模・動向

世界のブロックチェーンへの投資額は約20億米ドルに対し、インドは530万米ドル程度と、その市場規模は小さいものの、官民における普及は拡大しつつあり、今後の伸びが期待される[i]。一方の仮想通貨については政府が仮想通貨に対する正式な見解を出していないこともあり、正式な統計調査などは行われていないようである。

[ブロックチェーン]

Nasscomが2019年3月に発表した「Blockchain Report 2019」によると、インド国内でブロックチェーン技術が導入されている業界トップは金融で6割に上った[ii]。主要な銀行や保険会社がスタートアップと連携し事業を進めているケースが目立つ。他にも、ヘルスケアや物流業界での導入促進が期待されている。

[仮想通貨]

ブロックチェーンには特段の規制はないものの、インド政府は仮想通貨には慎重な姿勢を見せている。2019年6月、インドの国会議員らは、仮想通貨取引をした国民に最高10年の懲役刑に加えて、利益・損失の最高3倍の罰金刑を執行する法案を提出した。インドの新たな仮想通貨規制は、「仮想通貨の禁止および公式デジタル通貨規制法案 2019」という法案の一部[iii]。この法案は、仮想通貨のマイニング・保有・購入・売却・取引、またインド国内で直接的・間接的に仮想通貨を取り扱う者を対象にするとみられている。

この法案が成立した場合、仮想通貨保有者は90日以内に自身の仮想通貨を申告し、「中央政府の規定に従って」処分するよう命じられることになるといい、実質インド国内において、仮想通貨に関する上記のような行為を直接的・間接的に行うことが違法になる可能性がある。

また、この法案には罰金刑が規定されており、「システムに起因する損失」の最高3倍、または仮想通貨から得た利益の最高3倍の金額のうち、高額となる方が科せられるそうだ。損失または利益を合理的に決定できない際は、適用可能な最高金額が科せられるかもしれないという。

2万人の会員をもつ業界団体Blockchained Indiaによると、インドのブロックチェーン市場における課題は、政府規制の欠如が、違法取引、脱税行為の横行、ならびに業界人材不足を引き起こしているという[iv]。仮想通貨を規制する草稿法案が国会に提出されるなどの動きはあるものの[v]、まだ正式な法律は制定されていない(2019年9月時点)。インターネット・携帯電話協会(IAMAI)と政府が協議を開始するとみられているが、草稿法案が法案化するのにも時間を要するため、実際の規制開始は直近にはならないとの見方が強い。違法な仮想通貨取引の撲滅のためには、政府と合法取引を行う企業および投資家との連携が不可欠で、業界側の準備は整っており、政府側の動向待ちの状態だという。草稿法案に対する審議が2019年3月に最高裁判所で行われる予定だったが7月に延期されており、業界側は2019年中には政府側の動きはないのでは、と推測されている。2019年6月にはインドのデリゲーションが、フィンテック関連企業が多く進出し「クリプトバレー(暗号の谷)」と呼ばれる仮想通貨の新興国、スイスのツークに訪問しており、前向きな動きが期待されている[vi]

IAMAIは2019年8月、「RBIは仮想通貨を禁止する権限を持たない」とインド最高裁に言及。RBIは2019年4月に仮想通貨取扱禁止の公告を出しており[vii][viii]、これに対する反論。RBIが権限を行使できるのは銀行規制法の管轄下のみであり、現状法律が規定されていない仮想通貨市場は監督外の領域という主張だ。また、禁止措置にあたり十分な調査がされていない、とも指摘した[ix]。業界団体が仮想通貨禁止措置に反発する理由のひとつに、多大な経済損失が挙げられる。後述のインドの仮想通貨取引所WazirXによると、仮想通貨を保有するインド人は500万人超、その資産額は数百億ルピーに上るという[x]。インドで仮想通貨が禁止されると、こうした資産への影響や雇用損失、人材流出により今後5年間での経済損失額は10兆米ドルをくだらないとみられている。既にスタートアップである仮想通貨取引所Bitbnsは拠点をインドからエストニアに移しており、同様の動きが危惧されている。

企業動向

下記にインドのブロックチェーン・仮想通貨に関わる企業を数社挙げる。

[ブロックチェーン]

・Zebi Data India[xi]

2015年創業、AP州ビシャカパトナム拠点のブロックチェーン開発企業。土地登記向け「Zebi Asset Chain」、ホスピタリティ・警察向け「Zebi AI Chain」、教育産業向け「Zebi Edu Chain」を商業化。さらに通信業界向け「Zebi Tele Chain」、株取引向け「Zebi Fin Chain」、物流産業向け「Zebi Log Chain」を開発中。2022年までに従業員数を30人から900人に増員、年間売上高6千万米ドルを目標に掲げている[xii]

・Mobiweb Technology

2011年創業、MP州インドール拠点のIT企業[xiii]。120人以上の開発チームを抱える。ブロックチェーン開発では仮想通貨、ヘルスケア、Eコマース、自動車、金融、不動産、官公庁などの産業向けに開発実績がある。ブロックチェーンの他にも、ゲーム開発、ソーシャルネットワーク、Eコマース、ヘルスケア向けにサービスを提供しており、手掛けた案件は650以上、顧客満足率は93%となっている[xiv]

[仮想通貨]

・Wazirx

2017年創業、仮想通貨「WRXコイン」の取引を行うプラットフォーム。仮想通貨の関連企業の多くがシンガポールやエストニアに拠点を構えるのに対し、同社はムンバイで起業した。2018年1月末からプラットフォームの運用を開始し、開始直後の利用者には無料でコインを付与、その総額は1億5千万WRXコインに上った。同年3月からはWebサイトだけでなくAndroidおよびiOSによる運用も開始。Androidでは「Bitcoin」、「Litecoin」、「Dash」の取り扱いも出来るようになった。インドルピーによる仮想通貨の売買を仲介、取引形態はピア・トゥー・ピア型。トランザクション手数料は0.1%で、登録者数は5万人に上る(2018年7月時点)[xv]

現地消費トレンド

[ブロックチェーン]

・2019年8月、商業都市ムンバイを州都とするマハラシュトラ州政府は、ガバナンスの効率化を目的とし、農業マーケティング、サプライチェーン、車両の登録や書類管理にブロックチェーン技術を実装する計画を表明した。既に州政府がロックチェーン技術の導入計画を承認している。プロジェクトは同州情報局が主導する。2019〜2020年度に10兆ルピーの予算を計上しており、ブロックチェーン技術導入に4兆ルピーを投入する。国土が広く、人口構成が複雑なインドでは、出生証明書の管理などの行政事務にブロックチェーンを活用する動きが進んでいる[xvi]

・民間企業によるブロックチェーン技術導入も進んでいる。2019年9月、地場大手自動車メーカーTataモーターズが内部システムへのブロックチェーン技術活用に向けたスタートアップ企業向けのプログラムを開始[xvii]。プログラム名は「Tata Motors Auto Mobility Collaboration Network 2.0(TACNet 2.0)」で、需要予測アルゴリズム、純正スペアパーツの認証、新排ガス基準BS6対応の燃料品質のリアルタイムモニタリングなどの分野におけるソリューション開発を目指す。同社傘下の高級車「Jaguar Land Rover」は既にブロックチェーンや仮想通貨の最新技術の活用を開始しており、「スマートウォレット」と呼ばれる機能を車両に搭載、ドライバーが走行中に取得したデータを共有することによって仮想通貨報酬を獲得することができる仕組みなどを発表している。

[仮想通貨]

・2019年6月、バイナンスコインがインドの仮想通貨取引所にリストされ、インドルピーで購入可能となった[xviii]。バイナンスコインは2017年7月に香港で設立されたバイナンスが発行する仮想通貨(中国政府による取引所規制の影響で、のちにマルタ島に移転)。取引所が発行する独自トークンながら、仮想通貨の時価総額は上位にランクインする人気の通貨だ。設立からわずか半年で取引高が世界一に、時価総額ランキングでは世界7位となっている(2019年4月時点)[xix]。創業者兼CEOのCZは「13億7千万人への扉が開かれた」とツイートし、インドの規制強化の法案草案に関しては「プライバシーコインの採用を促進することになる」と述べている。

・韓国仮想通貨取引所ビッサム(Bithumb)が、インドへの進出を検討中だ[xx]。インドの現地取引所との連携や、スタートアップへの投資などでインド展開を計画しており、共同創業者であるJavier Sim.氏は「「規制当局と積極的に議論し規制に準拠した仮想通貨取引所を運営する。我々は韓国の強力なブランドを持ち、イリーガルな取引には関わらない」と話している。

・2019年6月、インド政府は学生向けに仮想通貨、ブロックチェーンに関する教育プログラムを開講した。人材開発省が開発したオンライン教育プラットフォーム「Swayam」の講座のひとつで、教育機会の均等と公平性を目的に、同省が無料で提供している[xxi]。講師数は1千人以上で、あらゆる分野の講座が受講可能。「Blockchain Architecture Design and Use Cases」コースはIBMがテクニカルパートナー、7月末から12週間にわたって行われる[xxii]。受講料は無料だが卒業証明書取得のためには受験が必要でその費用は1千ルピー。同講座は2018年7月と2019年1月にも開催されており、2018年7月には2万735人、2019年1月には1万4,746人が参加した人気講座だという。仮想通貨に関する法案の最高裁の判決の後の開講スケジュールとなっており、トップクラスの講師陣による産業最新カリキュラムとして、開講内容にも注目が集まっている。

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