コラム

インドハイブリッド・電気自動車市場~EVは二輪・三輪が先行、商用車開発も進む~

Published on
Feb 4, 2020

市場規模
2018年の全世界の電気自動車(EV)とプラグインハイブリッド(PHV/PHEV)の販売台数は201万台を超え、前年比64.8%増と記録的な伸びを見せた[i]。インドのEV乗用車販売台数の世界市場における割合は小さいものの増加傾向にあり、2019年4月より施行されたFAME IIの効果もあり、2017年度の1,200台から2018年は3,600台と3倍増となった。

インドのEV化は二輪・三輪が先行しており、2017年度の電気三輪販売は52万台から63万台の21%増、電気二輪販売は54,800台に対し、2018年度は12万6,000台と2倍強の増加となった。[ii]

                                                                                                         【インドでのEV販売台数推移】

ハイブリッド車・電気自動車(二輪・三輪含む)の国内普及に向けて重工業・公営企業省傘下に設置された自動車委員会(National Automotive Board)が推進する政策Faster Adoption and Manufacturing of Hybrid and Electric Vehicle(以下FAME)のウェブサイトによると、同政策にて補助金の受けられる対象車種の累計販売台数は28万988台、最も導入台数の多い州はマハラシュトラ州で3万6,708台、グジャラート州3万1,577台、ウッタラカンド州2万8,985台と続いた。また、これらハイブリッド車・電気自動車の利用で1日当たり5万2,794リットルの燃料削減、13万835キログラムの二酸化炭素削減を実現しており、累計の燃料削減量は5,942万3,028リットル、同二酸化炭素削減量は1億4,799万5,644キログラムに到達している(2020年2月1日時点)。[iii]

                                                            【インドにおけるハイブリッド車・電気自動車(二輪・三輪含む)の導入台数トップ5州】

2015年4月から開始されたFAMEは、2019年3月末までに累計89億ルピーを投資。2019年4月に施行されたFAME IIは、総額1千億ルピーと大幅に予算を拡大、うち859億6,000万ルピーはEV購入の補助金に、100億ルピーはEVのチャージングステーション設置に割り当てられる。[iv] チャージングステーションは、当政策実施の3年以内に大都市部への2,700台と高速道路へのチャージングステーション整備がうたわれている。補助金の対象車はEVバス、四輪車(EVおよびPHEV、SHEV)、EV三輪、EV二輪だが、三輪・四輪については商用車限定、二輪については主に乗用車(非商用)となっている。[v-1] [v-2]

                                                                                                    【対象セグメント詳細と補助金額】[vi]

当政策の課題として、四輪乗用車が対象になっていない点、また二輪車も、電池容量1KHhあたり1万ルピーかつ1充電当たりの走行距離が80km以上という条件が設けられたため[vii]、安価な価格帯から高額価格帯に対象がシフトしたことにより、実際の売上に貢献していない点と言われている。インド電気自動車工業会(SMEV)発表によると、FAMEII開始以降の2019年4月~12月の電気二輪車販売台数は、前年同期比で93.84%と低下しており、新たな施策が逆に販売台数の押し下げになっている[viii]

その一方で、EV販売促進の動きもある。2019年7月、電気自動車のGST(物品・サービス税)が12%から5%に引き下げられることが決定された。同時にチャージングステーションに課せられるGSTも18%から5%に引き下げられ、自治体などが雇用するEバスの運転手のGSTも非課税とする、としており、2019年8月から施行された。[ix]

企業動向
下記にインドでハイブリッド車および電気自動車の乗用車・商用車を販売している企業を数社挙げる。その他の主要乗用車メーカーの企業詳細情報は「税率改定で各社対応はさまざま―ハイブリッド車・電気自動車市場」(2017年8月28日付掲載)を参照のこと。

・Mahindra Electric Mobility [x-1] [x-2]
総資産額190億米ドルのインドのコングロマリット、マヒンドラグループ傘下の電気自動車メーカー。前身のReva Electric Car CompanyはベンガルルのMainiグループと米AEVとの合弁企業で、1994年創業。2001年にインドで、2007年にリチウムイオン電池の電気自動車を発売している。2010年5月にマヒンドラグループ傘下に入った。2016年にはセダンタイプのEV「eVelito」、商用カーゴ「eSupro」、4ドアタイプの「e2o Plus」を発表。現在はこれら3車種の他、Eリキシャの「Treo」「eAlfa Mini」を販売中。2018年度のEV売上は前年度の約2.5倍の10,276台であった。同社は2018年にデリーメトロにEリキシャを供給するSmartEとの、2019年6月にはグルガオン拠点のeモビリティシェアリングアプリのBlu Smartとの提携など、EVを使ったサービスプロバイダとの積極的な連携を実施、さらに電力省傘下の国営企業EESL (Energy Efficiency Services Limited) のEV納入の第2フェーズ、1万台の納入を開始している。

・Tata Motors
地場大手の自動車メーカーで、2017年10月に国営企業EESLから1万台のEV乗用車を受注。納入モデルはセダン「Tigor」でメンテナンス費用も含めた年間費用は112万ルピーと、M&Mよりも23万ルピー安い額だった。メンテナンスコストもM&Mの1km走行当たり1.35ルピーに対し「Tigor」は0.25ルピーと5分の1以下。その後M&Mとの分担納入となり、初期納入の500台のうち、タタモーターズが350台、M&Mの150台の分担となった。[xi]

2010年1月、2万米ドルを切る139万9千ルピーで、コンパクトSUVタイプのEV「Tata Nexon」を発表。1充電で193km走行、最短充電時間1時間(DCにて)であり、バッテリーは8年保証。当モデルはバッテリーセルをTata Chemicalが、組み立てをTata Autocompが実施という、Tataグループによる統合的な生産となっており、購入金額には自宅もしくは職場へのACチャージャー設置費用も含まれる。競合となるコンパクトSUVタイプのEVにはMGモーターのZS EVやヒュンダイのKona EVは200万ルピーを超える価格であり、価格競争にあたっては大きく差をつけた格好だ。[xii]

・Ashok Leyland
チェンナイ拠点の商用車メーカーで、EVバス「Circuit」を販売。同社はEV事業を5カ年計画で策定している。第1フェーズは2020年3月までで、既に50億ルピーが投資されており、今後も投資は継続していくという。注力するのは製品および技術開発で、供給能力の拡大については販売台数が追い付いてから着手するとしている。アーメダバード自治公社に50台(スワップバッテリーモデル18台、急速充電モデル32台)の納入が決まっている。乗客なしの試験走行が4~5週間予定されており、渋滞時の走行やバッテリーの消費などを調査する。EVバスの商業化は2022年としながらも、市バスのEV化は2024年には70~75%まで伸びると見込んでおり、商機を狙う。[xiii]

2018年1月にはイスラエルの空気アルミニウム電池メーカーPhinergyと提携、EV商用車向け製品を共同開発で合意した。[xiv]2019年には様々なグローバル企業とのEV開発のための提携を模索していると報道され、その中にはTesla、ミシュラン、三菱商事などの名前も挙げられている。[xv-1] [xv-2]

・Eicher Motors
EVバス「Skyline Pro」を販売。プネ拠点の KPIT Technologiesとの共同開発で、中国BYDとも技術提携。マディヤプラデシュ州インドール工場で生産、低電力走行が可能なKPITのRevolo技術を搭載、バッテリーの最小化を図る。車体は9メートルでエアコン付き、1回の充電で177kmの走行が可能。36%を電力回生するため1kmの走行での消費電力は0.8ユニット。同EVバスは電池の釘刺し試験も含む最高安全基準をクリアしているという。充電途中のトップアップチャージャーも備えている[xvi]。2018年8月にはVolvoとの合弁企業VE Commercial Vehiclesにおいても公共交通機関向けにEVモデル開発を進めると発表。[xvii]2019年にはムンバイのバス公社BESTへのEVバスの40台の受注が決定し、7月より納車開始。他都市への展開も計画しており、2019年度には合計400台の納入を目標としている[xviii]

最新動向

インド政府のEV推進に伴い、EVメーカーだけでなく、EVを支えるバッテリー技術、車両診断、充電ステーションなどのスタートアップも数多く登場している。以下はそれらよりバッテリー技術開発に取り組むスタートアップを取り上げる[xix]

Gadadyne Energy[xx-1] [xx-2]

2015年ムンバイ創業。電気自動車向けのより効率的なバッテリー技術を開発。2018年1月にシードラウンドでインドVCのMumbai Angel Networkから出資2019年7月には第9回アントレプレナーアワーズで、「2019年エネジースタートアップ・オブ・ザ・イヤー」に表彰された。2020年1月には、炭素及び派生物で構成されたバッテリーを発表。リチウムイオンの1.3倍安価に製造が可能で、充電時間も15分以内と非常に短い。リチウムはほぼ中国が原料を獲得しているという現状から、インドではリチウムイオン電池の競争力が望めない。また、EVの価格の3‐4割はバッテリー価格が占める、という実態もある。リチウム以外を使用したより安価な電池の開発により、EV普及の促進剤の一つになることが期待されている。

ION Energy[xxi-1] [xxi-2] [xxi-3]

2016年ムンバイ創業のバッテリーマネジメントシステム(BMS)設計スタートアップ。同社のテクノロジープラットフォームはAIやソフトウェアアナリティクスを搭載、より効率的なバッテリーの設計を可能にする。2018年にフランスのバッテリーマネジメント企業Freemens SASを買収、同年、電気2輪・3輪向け48Vのポータブルリチウムイオン電池UDYRを発表。重量は12キログラムでLG Chemのリチウムイオン電池を使用。同社のBMSで管理することにより、より効率的なバッテリー運用も可能という。

Sun Mobility [xxii-1] [xxii-2] [xxii-3]

2017年バンガロール創業。エネルギー関連Sun Groupとエンジニアリング、物流ソリューション、EVなどを手掛けるMaini GroupのJV。EV用スマートバッテリーソリューションを展開、電動2輪・3輪用スワップバッテリー「The Modular Smart Batteries」と、充電ステーション「Quick Interchange Station」を展開し、電動2輪・3輪での輸送サービスを手掛ける様々な企業と提携を行っている。2019年7月にはUberと、彼らの展開する電動3輪配車サービスへの上記バッテリーと重点ステーションの提供、2019年11月、電動3輪メーカーPiaggioと提携。

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