コラム

インドレポート:テレメディシン市場

新型コロナの影響により、インドのデジタルヘルス市場は大きく伸長することが、続けて発表された2つのレポートにより明らかになった。

Published on
Jan 7, 2021

Assocham(全インド商工会議所連合会)とハイデラバード拠点の市場分析会社 Sathguru Management Consultantsの発表した白書「rapid migration to digital technologies」によると、具体的な戦略やロードマップよりも、新型コロナウイルスの影響による意思決定の緊急度の高まりが、インドヘルスケアの技術トランスフォーメーションを加速させる、という。

Ernst & Youngの発表したレポートでも、インドの遠隔医療市場は2020-50年の間に55億米ドルに達するとされ、そのうち遠隔診療(Tele Consultation)は48%の年成長率で現在の1億米ドルから7億米ドルに急拡大する、と予測されている。オンライン薬局もその存在感を増しており、現在の医薬品売上全体に占める割合2-3%から、今後5年間で10-12%にまでそのシェアを拡大するだろう、としている[1]

この加速は、長らく検討中が続いていた遠隔医療のガイドラインが、昨年3月のロックダウン発令とほぼ同時に保険家族福祉省により発表されたことも後押ししており、このガイドラインによると、登録開業医(Registered Medical Practitioner)であれば誰でも遠隔医療を提供することができ、音声・テキスト・ビデオなどあらゆるオンライン技術を用いて診療+医薬品の処方が可能になる[2]

実際の利用者も3月下旬より急増しており、遠隔診療プラットフォームを提供するインドスタートアップの先駆けであるPractoでは、毎週100%の利用者増を観測、登録医師も数週間で50%増加したという。同社の3月1日~5月末日までの遠隔診療は500%増、利用者の44%はデリー、ムンバイといったメトロ以外の都市からの利用者で占められた[3]

遠隔診療の相談内容として、新型コロナウイルスに関連する風邪などの症状だけでなく、在宅勤務による腰痛、眼精疲労の他、産婦人科系、皮膚疾患、精神科など全般的に増加しており[4]、気軽に医師を訪問できなくなったことに加え、在宅によるストレスや身体的な不調の増加も利用を加速したのではないかと思われる。

病院チェーンの対応も早かった。遠隔医療の先駆けでもあるApollo Hospitalでは、2000年よりすでに遠隔診療が導入されており、1日に1万件以上の遠隔診療を受けているが、ロックダウン以降、100%の相談利用増を見たという[5]。また、UP州、ハリヤナ州など北部インドに展開するCygnus Hospitalsも、ロックダウン直後数日で遠隔医療プラットフォームを開発・導入したという[6]

3月に発表されたテレメディシンガイドラインは、以下のような特徴を持つ[7]

  1. 最終的な診断・処方・カウンセリングは登録開業医が責任をもって行い、AI等のテクノロジーはあくまでも診断サポートツールとして使用すること
  2. 患者・医師がお互いに識別・検証が可能であること。患者個人情報収集の必要性から、診療開始にあたり患者の同意を得ること。
  3. 費用は対面医療と同じ金額であること
  4. データ管理・使用についてはインド医療評議会(MCI)の定める規則および個人情報保護法等のプライバシー関連法規に従う

医師間および医師―介護者・ヘルスワーカーとのオンライン連携についても言及されており、さらに適切な遠隔医療を行うため、MCIは遠隔医療協会(TSI)に、1か月以内に50万人の医師のトレーニングを要請[8]、TSIはこれを受け、4月に遠隔医療実践トレーニングコースをオンラインで提供。土日計4時間で受けられ、最終オンライン評価で80%以上のスコアをとれば取得できる、とされている[9]

遠隔診療を提供するスタートアップ[10-1] [10-2] [10-3]

Practo:2008年創業、バンガロール拠点のスタートアップ。当初は医師予約プラットフォームであったが、テレメディシンガイドラインにより、遠隔診療の利用が促進。同社はインドで最も価値の高い遠隔医療プロバイダーとされており、2020年8月の投資ラウンドでその価値は約3億ドルと報告された。

Libreate:2014年デリー創業。医師と患者を繋ぐオンライン及びモバイルプラットフォームを提供。現ユーザー数は1,500万人を超える。Tataグループの会長ラタン・タタ氏やTiger Global、Nexas Ventureなどが出資。

Portea:2016年ベンガルール創業。遠隔診療および在宅患者ケアプラットフォームを提供。Accel Partners, Qualcomm等が出資。

mfine:2017年ベンガルール創業。AIを用いた遠隔診療プラットフォームを提供。数多くの総合病院とパートナーシップを結んでおり、2020年2月末以降、その数は以前の2倍の約520に、医師数は3,000を超えたという。SBI Investment Japan、Beenextなどが出資。

DocsApp:2015年ベンガルール創業。モバイルチャットベースの初期医療相談サービスを提供。利用者は増加しており、登録医師数は1万人強。2020年6月、米国のBessemer Venture PartnersがリードのシリーズBの2,000万米ドルの資金調達を成功。この投資には三井住友海上保険ベンチャーキャピタル、リブライトベンチャーパートナーズなど、日本の投資家も参加。

myUpchar:2016年ニューデリー創業。遠隔診療だけでなく、オンライン薬局、ラボテストなどの様々なヘルスケアサービスを提供。Fortis、Max、Medantaといった大手病院チェーンの医師とも連携し、ローカル言語のコンテンツを製作。

Tattvan:2016年グルガオン創業。ラストマイル医療の提供のため、ブリック&モルタルモデルを採用し、Tier2, Tier3といった小都市に遠隔医療クリニックを設置、インターネット接続のあるATMのようなKioskから、42種の健康診断メニューが受けられる仕組み。

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