コラム

インド不動産市場~新法施行で産業整備化、日系商社も進出で2030年には1兆米ドル規模にまで伸びる見込み~

Published on
Jan 3, 2020

市場規模

インドの不動産市場は2017年時点で1,200億米ドル規模。2025年までにインド全体のGDPの13%に貢献し、2030年には1兆米ドル規模にまで伸びる見込みだ。

                                                                                                 インドの不動産市場推移[i]

住宅、オフィスともに好調に推移しており、不動産業界の約8割を占めると言われる住宅は、一時在庫のだぶつきやRERAの施行前の様子見などで販売が低迷した時期もあったが、2018年には18万2,207戸が供給された。オフィスはIT企業や小売業、EC企業のオフィス需要増によりその在庫は2018年末までに6億平方フィートを超えると予想されている。コワーキングスペースの需要も急速に伸びており、上位7都市のコワーキングスペースは2017年9月の111万平方フィートから2018年9月には344万平方フィートと約3倍となった。[ii]

市場動向

インドでは2017年5月に不動産の開発・販売規制に関する法律(Real Estate(Regulation and Development)Act, 2016、以下RERA)が施行されている。同法の目的は2つ、①従来の行き過ぎた売り手優位の不動産市場や不透明な商慣行の是正、②多発する工期の大幅な遅延の解消である。2017年11月時点で、国内50都市において少なくとも62%の住宅プロジェクトが工期超過状態で、集合住宅プロジェクトのほぼ30%が2年以上工期を超過しているという。

全州におけるRERAの共通項目は4つ、①原則500平方メートルあるいは8世帯以上の建築に関してはプロジェクトが行われる州のRERA当局への登録が義務化、②販売代理店(Real Estate Agents)の州RERA当局への登録の義務化、③工期順守の徹底と罰則規定、④購入者から得た資金の使途の制限である。

2017年7月に施行された物品・サービス税(GST)も、不動産市場に大きな影響を与えている。GSTの税率は建築中物件については12%だが、完工後(即入居可能)物件は0%となっている。これまでディベロッパーは建築途中の物件を市場で販売し、そこから得られた資金を別プロジェクトに流用、開発物件数をいたずらに増やしてきたが、この慣行が工期遅延の温床となっていた。しかし、RERAやGSTの施行後、これまでの建築中物件優先の販売から完工後物件の販売へ選好が移りつつある。[iii-1] [iii-2]

RERAは中央政府制定の法律だが、実際の管轄は州政府となっている。2019年4月時点では、22の州および8連邦直轄領がすでにRERAの法規を通知、20州およびデリーではアクティブなRERAサイトを開設している。

サイト開設州/連邦直轄領とプロジェクト・エージェント登録数(2019年4月時点)[iv]

企業動向

下記にインドの住宅市場の主要企業を挙げる。

・DLF [v-1] [v-2]
1947年創業、本社はハリヤナ州グルガオン。中~高価格帯の高層マンションおよび商業ビルの開発を強みとする。インド全土で事業を展開しているが、特にデリー首都圏の取り扱い物件が多い。現在(2019年12月時点)販売中住宅の1戸当たりの価格帯は600万~2億ルピーと幅広い。ニューデリーGKIIに位置するKings Courtは、2億ルピーの超高級マンションだ。2019年6月にはシンガポールの政府系ファンドGICと提携を強化し、DLFがグルガオンに保有する23エーカーの土地にモールを含む複合商業施設の建設を計画中、インド最大級の施設になると予測されている。

・Tata Housing [vi-1] [vi-2] [vi-3]
1984年創業、本社はマハラシュトラ州ムンバイ。2017年3月末の連結決済での売上は82億7,870万ルピー。大都市圏を中心に高価格帯の住宅開発を行っているが、低~中価格帯の物件に特化した子会社Tata Value Homesを設立し、ターゲットを分けた展開をしている。
2019年3月、Tata Housingと同様Tata Sons傘下のTata Realty and Infrastructure (TRIL)が、Tata Sonsの保有するTata Housingの株式を約300億ルピーで買収し、TRILの手掛ける商業施設とTata Housingの手掛ける住宅を統合。一部競合・重複していた事業を再構築することを狙っている。

・Godrej Properties[vii]

1897年創業、年間売上50億米ドル超のコングロマリットGodrejグループ傘下の不動産開発企業。12都市に1,400万平方メートルの開発実績がある。2008年に完成したムンバイの高層マンション「Planet Godrej」はインドで最も高い住宅建物。同じくムンバイの商業地区BKCのプロジェクト「Godrej BKC」はインド国内で唯一LEEDのプラチナ認証を取得した商業ビルだ。ムンバイで進められている同社の旗艦事業で複合開発プロジェクト「The Trees」は2015年のローンチからわずか半年で120億ルピーのスペースを販売した。また、2004年に完成したハイデラバードにあるインド商工連盟(CII)が拠点をおくCII-Godrejビルは、アメリカ以外で初めてLEEDプラチナの最高得点を取得した単独建築物である。2010年に建築した建物は全てグリーンビルディング認証を取得、アーメダバードのタウンシッププロジェクト「Godrej Garden City」は米クリントン基金が認めた世界で16物件(インドでは2物件)のうちの1物件であり、環境にやさしい建築物となっている。

・Omaxe [viii-1]  [viii-2]

1987年創業のコングロマリットOmaxeグループ傘下の不動産開発企業。不動産事業には2001年に参入、現在までにハイテクタウンシップ、集合住宅、ショッピングモールやホテルなど8州27都市、1億900万平方フィートの開発実績があり、現在36のプロジェクトが進行中。2018年2月にはウッタル・プラデシュ州のMatura地区のタウンシッププロジェクトの許認可が下りた。プロジェクト名は「Omaxe Eternity township」、58エーカーでさらに37エーカーを拡大する計画、総戸数は3,784戸。投資額は17億ルピー、雇用人数は700人が予定されている。

現地消費トレンド

・ハイデラバードの住宅市場が活況だ。特にIT産業が発展している西部地区における需要が高い。ここ5年間でハイデラバードには7万4千戸の住宅がローンチされたが、うち71%の約5万2千戸が西部地区のものだった。空室在庫も、他の大都市圏と比較すると減少率が高く、2016年第2四半期の空室在庫は3万5,560戸だったのに対し2017年は前年同期比14%減、2018年は前年同期比さらに13%減を達成しており、この2年間での累計減少率は29%に上る。[ix]

・2018年9月、三菱商事がインドの不動産事業に参入を発表。ベンガルル拠点のディベロッパーShriram Propertiesと提携、チェンナイの大規模マンション建設計画「Shriram Park 63」に出資する。投資額は18億ルピー。物件規模は面積200万平方フィート、住宅戸数は1,450戸。既に25%が予約販売済だという。今後3~4年で100億ルピーの売上が見込まれている。Shriram Propertiesは米TPG、米Walton Street Capital 、米Starwood Capital、地場Tata Capitalなどの投資会社と提携実績がある。[x-1] [x-2]

・2019年7月、住友不動産が現地法人を通じ、ムンバイBKC地区でオフィスビル用地を223.8億ルピーで落札。土地の規模は12,486平方メートルで同地区最大級のオフィスビル用地となる。ムンバイBKC地区は州政府が特別開発機関(MMRDA)を設立し、急速に整備を進めてきた新都心エリアであり、住友不動産はこの土地において東京グレードの最新鋭オフィスビル開発を行い、長期保有の賃貸事業に取り組む計画。ムンバイでは近年新オフィスビル供給が非常に少なく、特にオフィス需給がひっ迫している中心部への大規模なオフィス供給につながる、としている。[xi]

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