コラム

インドグリーンビルディング市場~インドでも環境を意識した「グリーンビルディング」が浸透、商業施設から住宅へと拡大。インド独自の認証制度も登場し、環境保護・エネルギー保全だけでなく、WELL-BEINGも視野に~

Published on
Sep 5, 2019

市場規模

米国環境保護局(EPA)によると、グリーンビルディングとは、立地、設計、建築、運営、メンテナンス、改装、解体まで、建築物のライフサイクルを通して、環境に責任を持ち、資源効率の高い仕組みや建築プロセスで建てられた建築物を指す。人間の健康と自然環境に与える影響を減らすため、①エネルギー、水、その他資源を効率的に使い、②建物内で活動する人々の健康と生産性を高め、③廃棄物や汚染・環境劣化を削減するように、設計されるもの、とされている。アメリカでは1990年代から普及が始まり、その流れは世界各国に拡大している。[i]

グル―ンビルディングは米国グリーンビルディングカウンシル(USGBC)というNPO団体が開発した認証システム「LEED(The Leadership in Energy and Environmental Design)」を取得した建物を指す。LEEDは①ビル設計と建設方法、②インテリアデザインと建設方法、③ビル運営・メンテナンス、④エリア開発、⑤住宅の5種類の認証システムがあり、取得したポイントの合計によって認証レベルが決定される。当認証システムの運用は米グリーンビルディング評議会(GBCI)が運用している。[ii]

USGBCによると、グリーンビルディング資材マーケットは2019年には2,340億米ドルに到達するとみられている。デリーの不動産コンサルタントAnarockによると、インド単独の市場規模は、2022年には現在の2倍の350~500億米ドルに到達するという。[iii-1] [iii-2]

市場動向

USGBCの発表によると、アメリカは認証件数3万4,390件、総面積4億4,004万平方メートル強と群を抜いている(2019年7月22日時点)。アメリカを除くLEED認証トップ5国・地域のLEED認証件数は合計6,512件、総面積は6,512万平方メートルにおよぶ。アメリカ以外で最もLEED認証の建築物の総面積が最も広かったのは中国だった。次いでカナダ、インド、ブラジル、韓国と続いた。[iv]

LEED総敷地面積トップ5(2019年7月)[v]

インドはLEED認証取得ではアメリカ、中国、カナダに次ぐ世界4位となっている。その数は2019年7月22日時点で938件、うち55%を80ポイント以上のゴールドが占めている。またこの時点で登録数1,861件、認証取得済みと合わせ2,799件となっている。

インドのLEED認証取得件数[vi]

2018年12月末日時点での州別LEED認証数は、マハラシュトラ州がトップで334件、次いでカルナタカ州232件、タミルナドゥ州157件となった。[vii]

一方、インドも独自のグリーンビルディング認証を行っている。インドグリーンビルディング協会(IGBC)は、インド工業連盟(CII)下部の一組織であり、当協会への登録(申請)数は5,409件、総面積は69億2千万平方フィートとされている。[viii]

上記のほか、2007年にインドエネルギー資源研究所(TERI)の一組織として設立されたGRIHA[ix]、2018年にASSOCHAM(インド商工会議所連合会)が新たにGEM Rating(正式にはGEM Sustainability Certification Rating Program)の開始を発表[x]など、グリーンビルティング認証機関が複数登場している。

企業動向

下記にインドのグリーンビルディング市場に関連する企業を挙げる。

・TATA Housing Development [xi-1] [xi-2]

地場財閥大手タタグループ傘下の不動産開発企業。1984年創業、本社はムンバイ。同社が手掛ける不動産開発全件はIGBCの基準に則って設計されている。初めてLEEDゴールド認証を取得したベンガルールのITパークやグルガオンの高層マンションなど、手掛けた総面積は4,400万平方フィートに上る。グリーンビルディングにより消費電力20~30%、使用水量30~50%の削減を達成している。2016年7月にはインドにおける健康に配慮した住宅普及を目指し、USGBC、GBCIと戦略的提携し、2千万平方フィートの住宅に対し、LEED認証およびWELL 認証*取得を行う、と発表している。

*WELL認証とは、空間のデザイン・構築・運用に「人間の健康」という視点を加え、より良い住環境の創造を目指した評価システム。[xii]公益機関国際WELLビルディング協会(IWBI)により2014年よりスタート、実際の認証はLEEDと同じGBCIが担う。

・DLF [xiii-1] [xiii-2] [xiii-3]

1946年創業、本社デリーの不動産地場開発大手。太陽光発電のヒーターやストリートライト、オゾン層を破壊する媒体を使用しない水蒸気吸収機(VAM)による冷水製造など、自社独自の環境に配慮した技術開発などをすすめている。ハイデラバードの商業施設開発はIGBCがグリーンビルディングに認定している。2017年11月には、ノイダのショッピングモールと主要都市31件のオフィスビル、総面積2,850万平方フィートのプロジェクトがLEED認証を取得している。レベルの内訳はゴールドが1,780万平方フィート、プラチナが1,070万平方フィート。また、賃貸部門がUSGBCの「2017 Greenbuild Leadership Award」を受賞。同部門の商業用施設の開発実績は3千万~3,100万平方フィートで、賃貸収入は300億ルピーに上る。グリーンビルディング以外にも、従来エネルギーを30%削減できる商業施設向け天然ガス発電システムなど、独自の取り組みも行っている。

・PEC Greening India[xiv]

2010年創業、ムンバイ拠点のグリーンビルディングに特化した設計コンサルタント企業。すでに100以上のグリーンビルディング認証・認証待ち物件を手掛けており、国内建築物に対するIGBCやLEED認証や格付け、エネルギーマネジメントや水質管理といった汚染管理局の基準に対するコンサルタントサービスなども手掛ける。ムンバイ、プネといったマハラシュトラ州の高層マンション、ホテル、商業施設などの設計実績がある。

・GreenTree Global [xv-1]  [xv-2]

2009年創業、ノイダ拠点の設計コンサルタント企業。インド国内3都市とバングラデシュにも支店を構え、従業員は50人以上。グリーンビルディングの設計・認証コンサルの他、オフィス・倉庫等のEPC事業、電力メーターおよびオンライン請求ソリューションなども展開。グリーンビルディングでは、空港や病院、教育機関、高層マンションなどを手掛け、インド国内だけでなくクウェートやネパール、韓国、ニュージーランドなどで250件以上の実績がある。

・Surmount Energy Solutions[xvi]

2008年創業、ムンバイ拠点のグリーンビルディング関連のコンサルタント企業。ハイデラバードとアメリカにも支社を構える。ナビムンバイの築40年以上の本社ビルがLEEDプラチナ認証を取得している。そのほか自社の開発した「BuildTrack」ブランドの省電力センサー・スマートオートメーション等も取り扱う。

・Ecologikol[xvii]

2009年創業のグリーンビルディング関連設計コンサルタント企業。インドとシンガポールに拠点を構える。インドの他にも欧州や中東、東南アジアにも実績があり、手掛けた総敷地面積は1億平方フィート以上。電力3万1,504メガワットアワー、水量7万7,835キロリットル、二酸化炭素排出量218万96トンの削減を実現した。

現地消費トレンド

・ デリーメトロ公社は、IGBCのグリーンビルディング認証を取得した。メトロ公社が同認証を取得するのは世界初。Phase3の各駅と車両基地、10か所の官舎がプラチナレベルに認定された。加えて、2017年には太陽光発電容量を2.6MW増強し、太陽光の累計発電容量が20MWに到達。インド国内の電力消費量は40年間で700%増え、2030年にはさらに3倍になると予想されている。デリーメトロは今後も世界発の「グリーンメトロ」として環境にやさしい政策を推進していく方針だ。[xviii]

・2017年11月、チェンナイのアメリカンスクールがLEEDゴールド認証を取得した。①教室に人感センサーを設置し無駄な電力を削減、②食品廃棄物・プラスチック・ガラス・紙くず・金属の5分類のごみ箱を設置し分別を徹底、③課外学習センター・体育館には再利用のポリウレタン素材を活用、④学校の屋上に太陽光パネル958枚を設置、⑤150万リットル容量の雨水貯蔵施設の設置、の取り組みが評価された。現在インドでは2,500件のグリーンビルディングが建設中であり、その多くが教育機関や病院、住宅、ITパーク、モールなどの商業施設だという。[xix]

・2017年7月、民間企業が主導する世界銀行グループのInternational Finance Corporation(IFC)が招集した、EUが支援するエコシティプログラム「SHLC」は、インドにおいてGreenhomes のキャンペーンを開始。目標は2022年までにインドの20%の新築住宅を “Green” にすること。SHLCはインド政府の住宅都市省(the Ministry of Housing and Urban Affairsの支援も受けており、メンバー企業はIFCの他、Godrej Properties、Mahindra Lifespace Developers、Tata Housing Development Company他インドのデベロッパー、住宅ファイナンス会社等、下位8社となっている。この目標達成により、インドは約20万トンのCO2削減が可能となる、という。

・2018年6月、CIIはIGBCの新しいレーティングとして、IGBC Health and Well-beingを発表した。目的は人々の健康とより良い生活を実現するため、建物を「ヒト」中心に据えて運用することであり、‘Whole Body Mind(心身全体)’アプローチを通じ、商業施設において「健康ビル」というコンセプトを達成する、としている。[xx]

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