コラム

インドレポート:インドの最新医療とCOVID-19対策

Published on
Jul 9, 2020

インド政府はオンラインヘルスケアおよびヘルスケアのデジタル化を振興・推進してきているが、改めて遠隔医療の強化が6月1日、モディ首相により発表された。元々インドは国民一人当たりの医師の少なさ、農村部・遠隔地の医療格差が大きな課題となっており、それらを補うためにテクノロジーの導入が様々なヘルスケア関連企業・スタートアップ等により推進されているが、Covid-19の影響下、グローバル展開や日本企業との取り組みなど、その規模とスピードが拡大しつつある。

2020年6月のコラムでは、COVID-19に取り組むスタートアップ支援を取り上げたが、すでにAI・機械学習などを用いたソリューションを提供する企業・スタートアップの動きを紹介する。

2020年5月、インド・パンジャブ州のLovely Professional Universityの研究チームが、肺のCT画像やX線画像によるCOVID-19診断を、AIを用いたクラウドベースのウェブインターフェースで可能にする技術を開発した、と発表[i]。インターネット接続とWebブラウザを備えたデバイスがあれば、撮影した画像をアップロードすることで、中央サーバのAIモデルに接続され、短時間で解析・診断される、という。また、医療画像AIを手掛けるZebra Medical Visionは、インド大手病院グループApollo Hospitalsと提携、胸部CT画像からCOVID-19識別ソリューションをインド全土に展開、と発表した[ii]

US本社、インド・プネに開発拠点を置くDeepTekは、医療用画像の診断支援AIを活用した遠隔画像診断クラウドプラットフォーム事業を手がけるスタートアップ。NTTデータからも出資を受けている[iii]。NTTデータと同社は2020年5月、プネの大規模総合病院Ruby Hall Clinicで、AIを搭載した画像診断支援ソリューションをCOVID-19診断の支援に活用する活動を開始した、と発表。既存技術を拡張し、同様の診断プロセスでCOVID-19の診断支援を可能とした。同サービスはインド,およびアジアパシフィック各国で提供が始まっており、日本への展開も検討しているという[iv]

バンガロール本社の2019年に創業したAIkenist[v]も、AI技術(ディープラーニング、マシンラーニング)を活用したMRI、CT等の画像解析クラウドプラットフォームの開発を行うスタートアップ。腫瘍診断をドメインとしていたが、2020年にAIkenist QuickDiag COVID 19と呼ばれるクラウドホスト型のAIソリューションを開発。胸部X線とCTスキャンの画像をクラウド上で解析し、肺異常の診断とCOVID-19患者のスクリーニングが可能。5月には1カ月間の実験が終了[vi]

この背景としてあるのがインドにおける結核撲滅活動である。世界では特に新興国における結核患者の減少が進まず、薬剤耐性の結核患者の1/3はインドにいるとされている[vii]。かねてからインド政府は結核対策を行っているものの、その成果はなかなか見えず、2017年に実施された研究では、インドの民間医療機関の多くが結核の兆候を見逃し、不適切な治療を提供という結果も発表されている[viii]。2018年3月、インド政府は2025年までの結核撲滅を目標に掲げ、2020年1月には従来の「全国結核対策プログラム(RNTCP)」から「全国結核根絶プログラム(NTEP)に改名と、その注力度は増している[ix]。この解決の肝となるテクノロジーとしてAIが注目され、AI技術を持つ様々な企業・スタートアップが開発に乗り出した、という経緯がある。2016年創業のQure.aiはその草分け的な企業であり、同社の提供する胸部X線解析ソリューション「qXR」は、COVID-19の進行監視ツールとして利用可能であり、またCOVID-19用に開発した「qScout」は、アプリを通じて自宅療養患者等を登録、経過を定期的にチャット等で確認するツール[x]。これらは英国、インド、イタリア、メキシコをはじめ世界およそ 50 拠点に展開済という[xi]

ムンバイに拠点を置くWadohwani AIは、AIによる咳音診断ツールを開発。現在プロトタイプの試験中[xii]、またCOVID-19データサイエンスコンソーシアムを立ち上げ、COVID-19の感染状況の分析・モデリングを実施、中央・州政府等と共有し今後の感染予測・対策等に役立てる[xiii]。会員はインド科学研究所(IIsC)、DataScienceIndiaVsCovid(データサイエンティスト、エンジニアのCOVID-19対策のボランティアフォーラム)、IIITデリー校の他、ビル&メリンダゲイツ財団、Stanford Centre for Population Health Sciences、ユニセフといったグローバル団体なども参加している。

2016年創業の肺疾患AI診断アプリを手掛けるDocturnal[xiv]も、咳音により結核診断を行うモバイルアプリ「TimBre」を応用し、COVID-19の疑いのある患者にCPRテストを行うかどうかの判断を行うスクリーニングツール「coVawe」の開発を開始[xv]。バンガロール拠点のC-CAMPの主催するアクセラレーションプログラムC-CIDA(Camp Covid-19 Innovations Deployment Accelerator)の参加スタートアップとして選定された[xvi]

上記に限らず、構築されつつあるAIを活用した診断サポートソリューションを、Covid-19に応用するといった動きは各所に見られ、政府の後押しを追い風に、インド国内はもちろんのこと、グローバルをにらんだ展開へ拡大を続けている。

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