コラム

インドの5G最新情報-2大大手テレコムがインド全土に拡充中。機器メーカーやITソリューションなどの企業の動きも活発に

Published on
Dec 11, 2023

インドの5Gサービスは、昨年8月にオークションが完了、商用利用が10月から開始された。1年強が経過した今、どういった状況にあるのだろうか。

 

第6回のIndiaMobile Congress 2022[i]で、モディ首相により5Gサービス開始が発表された当日の10月1日、BhartiAirtel (Airtel)はニューデリー、ムンバイなど大都市を含む8都市で5Gサービス「5GPlus」の提供を開始した。

一方のReliance Jio (Jio)を率いるMukeshAmbani氏は同会合において、2023年12月までに、インド全土に5Gを展開する、と宣言した。

Jioは、Airtelに遅れること約1ヶ月で、4都市における5Gサービス「True5G」を開始、その後計画を上回る勢いでサービスエリアを展開、今年の3月末までに、115,000を超える5Gサイト、約69万の5Gセルを展開した。Airtelは今年の4月時点で、約3,000の都市・街で5Gサービスが利用可能、と発表している[ii]。

インドテレコムの第三位であるVodafone Idea (VI)は今年11月にようやく5Gサービスを開始した。VIはオークションで取得したスペクトルの支払いを20分割で行っており、9月に第2回の支払いが完了する[iii]といった財政的に厳しい状況にあり、同様に赤字が12年続いている国営のBSNLは、今年6月に政府による9千億ルピー近い再生パッケージの承認と、4G/5G周波数の割り当てを行い[iv]、特に遠隔地など4Gの届いていない地域へのサービス提供を進めるということから、インドにおける5Gサービスは、主にJioとAirtelの2大テレコムによる激しい競争下にあると言っていいだろう。

 

2大テレコムのサービス展開

今年8月7日、Airtelは[v]5Gを使ったFWA(固定無線ブロードバンド)サービス「XstreamAirFiber」の、デリーとムンバイでの開始を発表した。近年の家庭でのWi-Fi需要の急増にもかかわらず、光ファイバーによるブロードバンド接続数はわずか3,400万戸という現状を打破するサービスとして、Wi-Fi6技術を内蔵したプラグ&プレイ端末で、最大64のデバイスを接続できる、という鳴り物入りで発表された。料金プランは月799ルピーで最大100Mbps。2,500ルピーのデポジットで初回6ヶ月間利用可能。

遅れること1ヶ月強の9月19日、Jioは同じくFWAサービス「JioAir Fiber」を開始した。対象都市はデリー、ムンバイ、プネ、バンガロール、チェンナイ、ハイデラバード、アーメダバード、コルカタの8都市で[vi]、月額599ルピー(最大30Mbps)から3,900ルピー(同1,000Mbps)の6プランが提供され、550 以上のデジタルチャネルや14のOTTアプリへのアクセスなどの特典がついており、月額1,199ルピー以上のプレミアムプランには、Netflix、Amazon Prime、JioCinemaPrimeのサブスクリプションも付属しており[vii]、Airtelとの差別化を図っている。

 

2大テレコムはユーザー数の増加も競っている。今年9月30日に、Airtelの5G契約者数が5千万人を超えた、と宣言した翌日の10月1日、Jioも5千万人を超えた、と言及、同時にインド全土の町の96%をカバーし、年末までに100万近くの基地局を配備する目標を明らかにした[viii]。

 

5Gインフラの展開状況と課題

2023年11月末現在、インドの5G基地局(BTS)設置台数は40万台近くに達した。インド電気通信庁(DoT)によると、11月30日時点に前月比12,351増の39万7,923台が設置された[ix]。2023年1月当初は42,964台[x]となっており、それと比較すると、10倍近くに拡大したこととなる。

 

【2023年11月30日時点の州・直轄市別5G基地局数(設置1万台以上州)】

 

5Gサービス当初は、様々な問題が生じた。5G展開に当たり、州による線路敷設権(Rightsof Way (RoW))の不一致による問題、5G対応スマートフォンのソフトウエアサポートの欠如などがあげられる。昨年10月に5Gサービスが開始されたものの、各社の5G対応スマートフォンのソフトウェアアップデートが行われず、大きな問題となった。これを受け、すぐさま電気情報技術省とDoTは主要メーカーと会談の上、各社端末がスタンドアロンと非スタンドアロンアーキテクチャの両方で、5Gをサポートできるようにするとともに、無線でソフトウェア・ファームウェアのアップデートをリリースするよう要請した[xi]。

RoWについては、国が統一プラットフォームを設け、不一致の是正に取り組んだ。

通信品質については、以前課題が残っているままだ。インド電気通信規制局(TRAI)には、5Gサービスの展開後、通話切断、ネットワーク関連の問題について契約者から多くの苦情を受けるようになり、TRAIは、テレコム会社に向け、通信品質、特に通話切断に関連する厳格なパフォーマンス状況のベンチマークをするよう提案している。この原因として、タワー密度の低さ、低電力でのモバイル信号の送信などがあげられる。

また、5Gサービス自体が開始されたばかりで、通信費など従来の金額での利用となっていることもあり、5Gによる収益化も課題となっている。テレコム2社の開始したFWAサービスはその一助となりうるか、今後の展開を注意深く見守る必要がありそうだ。

 

5Gの商用・プライベートネットワーク利用の動向

 

昨年の5Gオークションで、財閥系Adaniグループの通信事業者AdaniData Networks Ltd (ADNL)も、22のテレコムサークルのうち、ラジャスタン州、グジャラート州、ムンバイ、タミルナド州、カルナタカ州、アンドラ・プラデシュ州を含む6つのテレコムサークルで周波数を獲得している[xii]。獲得した周波数により、B2Cアプリの立ち上げ、データセンターのネットワーク拡大、産業用クラウド機能の構築に投資する、と産業用5G分野への進出を宣言していたものの[xiii]、今年5月には、政府に定められた利用開始の期限延長の申請を行っていることが報道され、8月の時点ではまだサービス開始がされていない[xiv]。以降のニュースも見当たらないことから、まだ具体的なサービスへの展開に至っていないことがうかがえる。

 

一方、国内のプライベートネットワーク設置のため、5G周波数帯の確保を申請している企業も20社以上みられるようだ。現状、企業はテレコム会社からスペクトルを借りて、プライベートネットワークを確立できるが、それを自社で確保したい、という考えだ。関心のある企業としてあげられているのは、Infosys,Capgemini, Larsen & Toubro, GMR, Tata Communications, Tata Power TejasNetworksなどグローバル大手ITや地場大手だ。インド政府は需要を評価した後、これらプライベートネットワークに周波数を割り当てるかどうか、またその価格を決定する予定だという[xv]。

 

5Gの利用可能性を拡大させる研究も進められている。

Airtelと通信資材プロバイダーのEricssonは、今年10月、Airtelの5Gネットワーク上でのRedCapソフトウエアの商用利用前の実験が成功したと発表した。当実験はインド初のRedCapの実証実験と位置づけられ、QualcommTechnologiesの5G RedCapテストモジュールを使用して行われた[xvi]。

RedCapのメリットは、シンプルな構造のデバイスで5Gが利用可能となることで[xvii]、これにより、5G向けデバイスの開発が促進されることが期待されるそうだ[xviii]。インドでもこの実証実験の成功が、5Gの展開を促進する材料のひとつとなるのではないだろうか。

 


[i]https://indianembassyrome.gov.in/event_detail.php?eventid=504

[ii] https://telecom.economictimes.indiatimes.com/news/industry/a-year-of-5g-in-india-jio-airtel-make-steady-progress-even-as-question-of-monetisation-looms/104078393

[iii]https://economictimes.indiatimes.com/industry/telecom/telecom-news/vi-pays-rs-1701-crore-to-dot-for-5g-spectrum-acquired-in-2022/articleshow/103719009.cms

[iv]https://jp.reuters.com/article/idUSKBN2XT0G6/

[v]https://www.airtel.in/press-release/08-2023/airtel-launches-xstream-airfiber-india-1st-wireless-home-wi-fi-service-powered-by-5g-plus

[vi]https://inc42.com/buzz/jio-launches-jioairfiber-in-8-cities-to-expand-broadband-coverage/

[vii]https://www.businessinsider.in/business/telecom/news/jioairfiber-launched-in-metros-plans-and-benefits-versus-the-airtel-xstream-airfiber/articleshow/103804858.cms

[viii]https://www.mobileworldlive.com/reliance/jio-finally-reveals-5g-user-numbers/

[ix]https://www.voicendata.com/use-of-5g-bts-and-indias-5g-bts-count-at-the-end-of-nov-2023/

[x]https://www.counterpointresearch.com/insights_tag/5g-base-station/

[xi]https://indianexpress.com/article/technology/tech-news-technology/india-to-press-apple-samsung-for-faster-5g-software-upgrades-in-phones-8202483/

[xii] https://www.thehindubusinessline.com/info-tech/dot-grants-adani-group-with-license-for-telecom-services-in-6-circles/article66001501.ece

[xiii]https://www.adanienterprises.com/newsroom/media-releases/adani-enters-industrial-5g-space

[xiv]https://economictimes.indiatimes.com/industry/telecom/telecom-news/vi-adani-data-networks-may-not-get-exemptions-over-5g-rollout/articleshow/102547031.cms

[xv]https://www.rcrwireless.com/20230501/5g/indian-conglomerate-adani-group-seeks-more-time-deploy-5g

[xvi]https://www.ericsson.com/en/press-releases/2/2023/10/airtel-in-partnership-with-ericsson-successfully-tests-indias-first-redcap-technology-on-its-5g-network

[xvii]https://businessnetwork.jp/article/8081/

[xviii]https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2109/03/news063.html

無料メールマガジン登録
市場調査レポート、コラム、セミナー情報をお届けします。
個人情報の取扱についてプライバシーポリシー
無料メールマガジンの登録を受け付けました。
Oops! Something went wrong while submitting the form.

← 前の記事へ

これより前の記事はありません

次の記事へ →

これより新しい記事はありません

CONTACT

サービスに関するお問い合わせ、
ご相談はこちらからご連絡ください。

サービスに関するお問い合わせ、ご相談はこちらからご連絡ください。

Top