コラム

インドのコワーキングスペース事情~ハイブリッドで柔軟な働き方の浸透で需要が高騰

Published on
Oct 6, 2022

大都市部を中心に、コワーキングスペースが活況を呈している。不動産コンサルタントのAnarock Groupの分析によると、インドの7大都市におけるコワーキングスペースの需要は、オフィスセグメントの中で最も伸長し、純床吸収量*のシェアは2020年度上半期の6%から2021年度には20%にまで増加した[i]。パンデミックによりハイブリッドなワークモデルが急激に浸透し、それにより、ロケーションや広さ、用途などにより多様な選択肢を提供するコワーキングスペースの需要が高まっている、と解説している[ii]

* 純床吸収量:新規契約床面積から解約床面積を差し引いた床需要の契約床面積の純増量[iii]

コワーキングスペースの立地も多様化が進んでいる。以前は大都市中心部のモール内やホテル内などに限られていたが、最近では中心部から外れたオフィスパークや、Tier2, Tier3と呼ばれる中小規模都市にも拡大している。現状は75%が大都市部に存在しており、この需要は高まり続けると同時に、中小規模の都市で大幅な成長が見込めるという。

不動産コンサルのJLLとコワーキングスペースを提供するAwfisの共同調査によると、コワーキングスペースの需要が特に伸びているのはアーメダバード(グジャラート州)の他、人口100-400万人のインドール(マディヤ・プラデシュ州)、ジャイプール(ラジャスタン州)、チャンディーガル、ラクナウ(ウッタル・プラデシュ州)、コチ(ケララ州)、ブバネシュワル(オディシャ州)で、今後急速に伸びていく可能性が高いという[iv]。また、これよりさらに規模の小さい都市にも、コワーキングスペースが登場している。

不動産コンサルタント CBRE のレポートにおいても、インドのフレキシブル・スペースの在庫は、現在の 4,700 万平方フィートから 2025 年までに 8,000 万平方フィートを超えると予想されており、この多くはTier2, Tier3都市での拡大によるものとされている。

中小規模の都市に増加していく要因として、以下があげられる。

リバースミグレーションへの対応

パンデミックによるロックダウンにより、リバースミグレーション(大都市部で働いていた人々が故郷に戻るなどの動き。従来は農村部から都市部への移動が主であったが、逆方向への移動となることから名付けられた)、大きな人口流動が起きた。その結果労働力が分散し、オフィスワーク中心の業務についてはリモートワークの一般化でそのまま中小都市を拠点として働く人が増えた。ロックダウンが解消され、出社を求めたい企業が、大都市への回帰ではなく、地方都市のコワーキングやフレキシブル・スペースを利用するケースもみられる。在宅勤務に限定せず、コワーキングスペースでのチームミーティングの場の設定、レクリエーションスペースの活用による他社員との交流など、職場環境をより豊かにし、働く意欲の醸成にもつながる。

地域を超えた人材確保への注力

コワーキングスペースの需要の急増は、大企業や多国籍企業に加え、スタートアップ、ITおよびサービス業に多くみられるという。従業員に柔軟な勤務オプションを提供し、職場環境の選択の自由を与えることで、企業側がより優秀な人材を獲得する方策のひとつとして有効である。それに加え、特定地域に縛られず、幅広く求人・雇用が可能となる。

コストの削減

大都市部を中心に、家賃が年々上昇しており、2021年上期、特に家賃上昇の大きかった都市はグルガオンなどのNCR、ハイデラバードとなっており、その上昇率は5%にものぼる。賃貸の場合、一般的に契約が3-4年縛りと長く、また企業自身が内装やオフィスレイアウトなどを考え、構築する必要があるため、そういった手間や制約の少ないコワーキングスペースに人気が集まっているようだ。また、生活コストのより安価な都市からの雇用により、人件費などの削減にも貢献が可能だ。

Tier2以下都市でコワーキングスペースの利用・導入を積極的に進める企業もみられる。デリー本社のソフトウェア会社Wingifyは、今年の初めに従業員がいつでもどこでもコワーキングスペースで仕事ができるという、柔軟な勤務方針を導入した。Wingify はインドの 65 都市に存在し、従業員の半数以上が Tier2,3都市を拠点としているという。この導入にあたり、ワークスペース検索支援プラットフォームGoFloatersと提携、インド全土で800を超えるコワーキングスペースの利用を実現させた。同プラットフォームでは、大都市だけでなく、Tier2,3都市に160以上のスペースを取り扱っている。

米国とバンガロールを拠点とするAIヘルステック企業Nference は、タミルナドゥ州コインバトールにサテライトオフィスを設立、ハイブリッドワークモデルに移行するために、コワーキングセンター内に設置した。このサテライトオフィスにより、自宅で一人で仕事をする単調さの打破、チームのコラボレーションの醸成などにも貢献しているという。

コワーキングスペースを展開する企業も、Tier2, 3都市への進出に積極的だ。Awfisの現在のポートフォリオは大都市が85%を占めるものの、今後は大都市以外への拡大を目指しており、2022年末までに、新たに18都市・200のセンターの設立を計画している。

グジャラート州のコワーキングスペーススタートアップDevX は、最近、チャンディーガルとインドールに進出、席数も現在の 11,500席から、来年までに 25,000 席以上に増やすとしている。ノイダを拠点とする Akasa Coworking は、2022年末までにブバネシュワールに拡大、他の中小都市への拡大も計画中である。

バンガロール拠点のIndiQubeも、今年1月にコインバトールに進出、10万平方フィート規模の物件が即時満室になり、その後、マドゥライ、コチ、ジャイプールなどのTier2都市に拠点を拡大している。同じくノイダに拠点を置くSmartworksは、22~23年度の拡大計画の中に、Tier2都市を含めており、ここ数カ月の大手コンサルやデリバリー会社との契約の中には、Tier2都市を希望する企業もあるという。

企業を誘致しようとする州政府の助成金を得た企業が、その都市にあるコワーキングスペースに高い関心を示すケースもあるようだ。体験型生活兼共同作業コミュニティを展開するHyphenは、ケララ州ティルバナンタプラム、カルナタカ州グルバルガ、それぞれへの企業誘致のため、州政府が提供する助成金およびそれに伴う標準的運用基準(SOP―該当都市で雇用を行うのと引き換えに、州政府が一定期間の免税、無料オフィススペース、メンタリングやインキュベーションの機会を与えるもの)を受け取った企業から、高い関心を集めている、と語っている。

様々な成長要因に支えられ、拡大しつつあるコワーキングスペース。WeWorkやRegusといったグローバルプレイヤーに加え、前出のインド資本のAwfis、OYOに買収されたInnov8など、数多くのプレイヤーが登場し、そのエリア範囲を拡大しつつある。働き方の変化をさらに加速するものとして、今後の動向にも注目していきたい。

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