コラム

インドアグリテック市場~小規模農家が9割弱、効率化による収穫量増加で急速に拡大~

Published on
Jul 3, 2019

市場規模・動向

インドの農家世帯は2010年度の1億3,800万から2015年度には5.33%増の1億4,600万に増加している。州別で最も多いのはウッタルプラデシュ州で2,382万、次いでビハール州1,641万、マハラシュトラ州1,471万、マディヤプラデシュ州1千万、カルナタカ州868万、アンドラプラデシュ州852万、タミルナド州794万、ラジャスタン州765万、西ベンガル州724万となっている[i]

一方、農家1世帯あたりの平均耕作面積は2010年度の1.15ヘクタールから2015年度は1.08ヘクタールに縮小している。小規模農家(耕地面積2ヘクタール未満)、中規模農家(同2~10ヘクタール未満)、大規模農家(10ヘクタール以上)の世帯別および保有面積別割合は下記の通りである[ii]

また、インドでは農産物の収量の低さ・不安定さも問題となっており、OECD-FAOの発表によると、例えば米は1ヘクタール当たり2.4トンと47か国中27位、小麦は同3.15トン、41か国中19位[iii]。半数以上が非灌漑と天候に頼る農業であることも収量変動の要因とされている[iv]

インド政府は2022年までに農家世帯の収入を2倍にする政策を掲げている。具体的には「Soil Health Cards」、「Kisan Credit Cards」、ニーム(インドセンダン、センダン科の植物で害虫忌避効果を持つといわれる)で加工された尿素入りの高品質農薬・穀物保険の提供、灌がいインフラの整備などが挙げられる[v]。「Soil Health Card」は2014年4月に施行された継続可能農業国家ミッション(NMSA)のひとつである土壌健康マネジメント政策であり、全国の農村を対象に耕作地の土壌サンプルを回収、その土壌の性質を分析し農薬の配合や量を調整する政策[vi]。現在はCycleII(2017-19)が進行中であり、2019年度の予算は33億3,950万ルピー。「Kisan Credit Cards」は、農民のインフォーマル金融の依存削減を目指すもので、インド準備銀行(RBI)と全国農業農村開発銀行(NABRAD)の主導の下、民間大手銀行および地域農村銀行が、農民に対しローンをはじめとする様々な金融商品を提供する政策。小規模農家が大半を占める農業において、近代技術を導入した農業政策で産業改革を主導している[vii]

2014年にモディ首相率いる現政権に交代してからの4年間で、農業に関わる予算額は前政権の1兆2,100億ルピーから2兆1,200億ルピーに増えている。これに伴い牛乳の収穫量は24%増、水産品の漁獲量は26%増、穀物は2014年の2億5,500万トンから2017年は2億7,900万トンに増えた[viii]

地場調査会社のBIS Researchによると、精密農業(precision agriculture、以下PA)の世界市場規模は2022年には63億4千万米ドルに到達する見込みで、2015年~2022年の年平均成長率(CAGR)は13.09%と予測されている。中国、インドを含むアジア太平洋市場のCAGRは世界平均を上回る18.29%だという[ix]

IT業界団体NASSCOMによると、インド政府はスタートアップ振興政策「Startup India」において、アグリテックのスタートアップへの支援を明記している。2016年、世界では350社のアグリテックスタートアップが総額は3億米ドルの投資を獲得している。うちインドが占める割合は10%だという。IBMは今後5年間でアグリテック市場は500億ルピーに到達する、としている[x]

インドにおけるアグリテックスタートアップへの投資額は2014年から順調に伸びており、2017年には9件、3,400万米ドルに到達している[xi]

また、2019年1月のYourStory Research発表によると、2018年には少なくとも13社のアグリテックスタートアップが、開示額ベースで約6,560万米ドルを資金調達、前年度18社への総投資額5,400万を21%上回る数字となった、という報道もある[xii]

企業動向

下記にインドの農業市場におけるPAや最新アグリテックの主要企業を挙げる。

・Aibono[xiii]

2014年創業、ベンガルール拠点。創始者のVivek Rajkumar氏はIITマドラス校卒業後、4エーカーの農地を購入、米とバナナの栽培を開始した。近隣農家は小規模農家ばかりで、農業に関するアドバイスはローカルの専門家が担っている状況だった。そのアドバイスには根拠がなく、Vivek氏の農地の収穫量も芳しくなかった。テクノロジーを融合した農業への転換を図り、農産品の状態確認のための撮影ドローンを開発。リアルタイムのPAサービス企業となった。天候や土壌の状況を把握して、日ごとに農作業の内容は見直されるべきであるのに対し、小規模農家はインターネットではなくローカル専門家による決められた作業しか行っておらず、収穫量も低迷していた。Aibonoは土壌の状況を25項目で管理、他にも葉の色、有害生物閾値、天候といった様々なデータを収集し、日ごとに作業を指示。1人のサポーターで40世帯の農家管理が可能だという。システム登録農家は400世帯で、そのうちアクティブユーザーは200世帯。Aibonoの導入で平均1.8~2倍の収穫量増加が実現する。現在60人の従業員を2018年末までに100人に増やす計画だ。2019年3月、プレシリーズAとして総額250万米ドルの投資を受けた。投資はインドのMenterra Venture Advisors、3one4 Capitalの他、シリコンバレーのMilliways Ventures、日本のRebright Partnersも名を連ねている[xiv]

・Ninjacart[xv]

2015年創業、ベンガルール拠点。日系投資企業のMistletoeも出資しており、2018年12月には米Accel、スイスSyngentaベンチャーズから3,500万米ドルの投資を受けている。農家から店頭に並ぶまでの商流には数多くの仲買人が存在し、その分の手数料が上乗せ、農家への利益は低いものの店頭では高値での販売が常態化していた。この非効率を改善するため、農家が直接小売企業やレストランに農産品を販売するプラットフォームを開発。ベンガルール、チェンナイ、ハイデラバードの3都市に展開しており、農産品収穫から店頭に並ぶまでの時間は12時間。1日あたり300トン(うち200トンをベンガルールが占める)の農産品を取り扱っており、従業員数は800人に上る。提携農家は4,500世帯、1か月あたり約1,100世帯と取引、買い手は4千店舗程度。同社によると、ベンガルールだけでも1日あたりの野菜収穫量は1万5千トンでNinjacartが対応できているのはわずか220トン、さらなるアグリテックの参入を期待しているという[xvi]

・CropIn Technology Solutions[xvii]

ベンガルール拠点のアグリテックスタートアップ。農家から店頭まで、全行程をモニタリング管理している。主要プロダクトである「Smartfarm」では、農家へは天気予報や害虫予測といった情報提供(インターネット通信環境のない農家世帯に対してはショートメールで情報を配信している)、食品企業や政府団体には農家からの農産品のトレース情報を提供、管理しておりサービスの対象国は世界29か国となっている。インド国内では中央政府と穀物保険政策「Pradhan Mantri Suraksha Bima Yojana」で協働、他にもカルナタカ州、マディヤプラデシュ州、ビハール州などの州政府との提携も始まっている。2018年11月には地場投資企業Chiratae Venturesと米ビル&メリンダ・ゲイツ財団から800万米ドルの投資を受けている。

現地消費トレンド

・2018年12月、マハラシュトラ州政府は農業改革政策State of Maharashtra Agribusiness and Rural Transformation (SMART)を発表した[xviii]。世界銀行との提携で、今後3年間で1万か所の農村地区を改革する。同州には4万913か所の農村地区があり、4分の1が該当する。リライアンス・リテール、アマゾン、ウォルマート、ペプシコ、ビッグバスケットなどの大手関連企業と50以上の覚書を締結。特に小規模農家のポストハーベスト分野のバリューチェーンの創出を狙い、PPP事業で民間大手と農家を繋ぐプラットフォームを活用した農業ビジネスの活性化と新市場へのリーチ拡大を図る。

・点滴灌がいの世界大手Netafimは、2018年12月、本国イスラエルに続きインドでも灌がい管理システム「NetBeat」を発表した[xix]。同システムでは農作物や土壌などから収集した情報をリアルタイムで収集し、同社の50年間にわたる実績に基づき独自に開発されたダイナミック作物モデルをクラウド上で分析、水や肥料の量を世界のどこにいてもスマートフォンで調整できる仕組み。インドではさらに小規模農家向けの同様のシステム「NetBeat One」も発表された。

・インドのアグリテック市場では海外との提携も始まっている。オーストラリアのアグリテック企業MoooFarmは、2020年までにインド国内の20万の酪農家を教育すると発表。対象地域はハリヤナ州、ラジャスタン州、ウッタルプラデシュ州、マディヤプラデシュ州、アンドラプラデシュ州、オディシャ州。政府の発表によると、インド国内で販売されている乳製品の68.7%がインド食品安全基準局(FSSAI)の基準値に満たないという。基本的な農業技術の教育や近代技術の導入で、酪農家の収入を最低でも20%以上向上させる目標を掲げている[xx]

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