コラム

インド再生可能エネルギー市場~世界4位を誇る風力、農村地区やオフグリッドでの重要な役割を担うバイオマスなど太陽光以外にも商機あり~

インド政府は2022年までに再生可能エネルギーの発電容量を227GWまで増やす目標を掲げている。目標は順調に達成されており、昨今の対中国政策から、太陽光関連の装置等の輸入を大きく中国に頼っているインドでは、その推進にブレーキがかかる可能性も大きい。そういった中、太陽光以外の再生エネルギーに着目すると、実は世界4位を誇る風力発電であったり、産業政策の改正で比重を高めた水力発電、農村地区やオフグリッドでの重要な役割を担うバイオマス発電など、注目すべきポイントが数多くある

Published on
Aug 7, 2020

再生可能エネルギー市場への投資額推移インドの再生可能エネルギー市場への投資額は、2011年に138億米ドルに到達。以降はその額を下回っているものの、政府系機関や民間企業からの投資が続いている。2018年は75億米ドルだった[i]

下記に主要なインド企業への投資案件を挙げる。外資系企業によるインド企業への出資も多く、2017年の電力業界におけるM&A 28件のうち、再生可能エネルギーが占める割合は27%、金額は44億米ドル相当に上った[ii]


市場動向
インドの再生可能エネルギーの発電量は、全世界の4.43%を占めている。その発電容量は、2015年の45.9GWから2018年には約1.7倍の77.6GWに増加。2019年は、9月時点で81.3GWに到達し、2018年の数字を超えている[iii]

インドの再生可能エネルギー発電容量の内訳は、風力がトップ、次いで太陽光、バイオマス、小型水力(小水力)と続いた[iv]


風力発電

インドの風力発電容量は、世界4位を誇る。その累計発電容量は2019年3月時点で35.5GWに到達している。グジャラート州、タミルナド州、アンドラプラデシュ州といった海に面している州での発電が活発だ[v]

インドの水力発電ポテンシャルは145GWで、水力発電と小水力発電の2つに分類される。主体は水力発電だが、再生エネルギーに分類される小水力発電の伸びが著しい。2008年からの10年間で、水力発電容量は10GW弱の増加に対し、小水力発電は4倍以上に増加している。インド政府は小水力発電を推奨する政策「新水力発電政策2018」を制定しており、今後10年間でさらなる伸びが期待されている[vi]


バイオマス発電
インドのバイオマス発電市場は、特に農村部や都市部における分散型発電のソリューションとして重要な役割を担っている。その投資額は年間92億米ドルに上り、50億ユニット相当を発電しているという。バイオ発電のポテンシャルは18GW。現在の発電容量は5GWに満たないが、再生可能エネルギー省は2022年までに10GWまでの引き上げを目標に掲げている。マハラシュトラ州、ウッタルプラデシュ州、カルナタカ州などが年間発電量1GWを超えており、他にもパンジャブ州、ビハール州などもポテンシャルの高い州とされている[vii]


企業動向
下記にインドの再生可能エネルギー市場に関わる企業を数社挙げる。
・Suzlon Energy[viii]
1995年創業の再生可能エネルギー事業者で、風力発電を強みとする。累計発電量は、18カ国にて18.8GWに上る。インド国内の発電容量は12.5GW。グジャラート、ラジャスタン、マハラシュトラ、タミルナドといった9州に、アジアでも最大規模の発電容量を誇る発電所を100カ所以上運営している。研究開発にも注力しており、世界各国で稼働している1万個以上の風力タービンは独自の監視制御(SCADA)システムで管理。本社のプネ拠点は、グリーンビルディング認証であるLEEDの最高評価であるプラチナを取得している。

・NHPC(National Hydroelectric Power Corporation)[ix]
1975年設立の水力発電公社。ジャム・カシミール州やアルナーチャルプラデシュ州など、水源が豊富な遠隔地における建設計画を進め、国内24カ所の発電所(合弁事業や太陽光、風力発電も含む)からの発電容量は7GWに到達。2019年の発電量は261億2100万ユニットだった。さらに現在6カ所の発電施設建設を進めている。電力販売による2018年度の年間売上は830億1000万ルピー、利益は300億7000万ルピーだった。

・SGEL(Shalivahana Green Energy Limited)[x-1] [x-2] [x-3] [x-4]
ハイデラバード拠点の再生可能エネルギー発電業者で、農業残渣を使用したバイオマス発電容量はインド最大級の88MW。2002年12月に稼働した第1バイオマス発電所の発電容量は6MW。国内5カ所の発電所を稼働、さらに5カ所の発電所を建設中だ。豪AMPキャピタル、地場の再生可能エネルギー事業者IL&FS Renewable Energy、世界銀行グループの国際金融公社(IFC)などが投資している。

現地消費トレンド

風力発電
・2019年度の風力発電の設置は2.07GWであり、前年度ノ1.58GWから31%の伸びを示した。これにより2020年第1四半期の風力発電のインド全体の発電量に占める割合は10.1%となった[xi]

タミルナド州はインド国内で最も風力発電量が多い州であり、2020年3月末日現在、インド全体の35%を占める。2014年は101億4700万ユニットを発電、2015年には落ち込んだものの、2016年は119億ユニットを発電した。発電容量は十分なものの、市場成長は停滞している。阻害要因として、不安定な天候と政策の欠如が挙げられている[xii]

不安定な天候は時期的なものであり、最新技術による予測や予測に基づいた対策ができる。一方の政策の欠如が問題視されており、中でも政府による風力発電事業者(Wind Energy Generators: WEG)への支払遅延とパワーバンキング制度の変更による影響が深刻だ。

タミルナド州の風力発電は、WEGが発電した電力を州政府の配電会社(Tamil Nadu Generation and Distribution Corporation: TANGEDCO)が購入し、各家庭に配電、電力料金を徴収してWEGに支払いを行っている。パワーバンキング制度とは、WEGが消費分を超過して発電した電力をいったんグリッドに貯蔵し、一定期間内であれば貯蔵した電力を必要に応じてグリッドから再度利用するという制度。この制度がWEGの自家消費に利用されているため、電力不足時にパワーバンキングに電力が残っておらず、TANGEDCOが高額な料金で他ソースから電力を購入、配電しているのが現状だ。また、この制度自体がTANGEDCOの負担増となり、WEGへの支払遅延が常態化。20カ月も支払いが遅れているケースもある。

タミルナド州電力規制委員会(Tamil Nadu Energy Regulatory Commission: TNERC)は2018年、新設のWEG(2018年4月以降創業)に対し、パワーバンキングの利用可能期間を12カ月から1カ月に短縮。既存のWEGに対しては、電力利用率を88%から86%に減らした。発電コストが下がり続けている太陽光も台頭してきたため、2017年度以降はWEGへの税制優遇が減らされた。こうした制度変更を受け、ここ2~3年で多くのWEGが風力発電事業を中止しており、産業活性化のための環境整備が急務となっている。

水力発電
・2019年3月、2018年に引き続き水力発電産業に対する政策「新水力発電政策(New Hydroelectricity Policy)」が閣議承認された。以前の政策では25MWの小型水力発電のみを再生可能エネルギーとしていたが、今回の政策ではそれ以上の水力発電も対象に。これに伴い、再生可能エネルギー発電容量に占める水力発電の割合は6%から41%となり、風力、太陽光を抑えシェアトップとなった。政府が目標として定める「2022年までに227GW」の達成を容易にするための再定義だという意見もあるものの、業界には好意的にとられている[xiii]。再生エネルギーとしての水力発電の重要度はインドにおいて増しており、新・再生エネルギー省は、2030年までにその発電キャパシティを現在の45,700MWから70,000MWに引き上げることを発表した[xiv]

バイオマス発電
・バイオマス発電の1つである産業廃棄物発電が台頭している。国内の発電施設は186、累計発電力は317MWとなっている(2019年12月時点)。186施設のうち、5カ所が自治体の固形廃棄物による発電で、その発電容量は66.5MW。181施設は農業残渣や都市および産業廃棄物による発電で、うち94カ所はオフグリッドのバイオガス・バイオ圧縮天然ガス(CNG)生産を行っている。バイオガス事業はタミルナド州が最も多く、28事業で1日15万7320立方メートルのバイオガスを生成している。次いでマハラシュトラ州11万580立方メートル、アンドラプラデシュ州6万240立方メートルと続く。中央政府も補助金を拠出するなどして州政府のバイオ発電事業を支援している[xv]

・2019年12月、石油・天然ガス省は高まる環境保護の世論と深刻化する大気汚染への対策として、天然ガスと同様に高いポテンシャルがあるバイオエネルギー事業にも注力すると発表した。インドは25~30年間、石油に依存してきた産業体系を見直し、ガスインフラの整備に600億米ドルを投資。都市ガスや液化天然ガス(LNG)拠点の整備の他、さまざまな普及促進を行っており、現在ではエネルギー供給におけるガスの重要性も高くなっているという[xvi]

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