コラム

インドのフィンテック市場 ~スマホ普及や高額紙幣廃止で10倍以上の伸び~

Published on
Feb 14, 2018

市場規模

2016年に発表された、KPMGとインドNASSCOM(全国ソフトウェア・サービス企業協会)の共同レポートによると、全世界のフィンテック関連スタートアップ企業数は約1万2000社、2015年の1年間での投資額は190億米ドルに上り、全世界のフィンテック関連ソフトウエア市場は年間成長率7.1%で成長し、2020年には450億米ドル規模に到達する見込みだ。そういった中で、インドの同市場は2016年時点で12億米ドル規模と、まだ全世界の中ではわずかなものの、2020年には倍増し、24億米ドル規模に成長すると見込まれている。 (注1)

                                                                      【インドにおけるフィンテック関連ソフトウエア市場規模推移】 (注2)

市場動向

フィンテックを取り囲む市場環境の変化も、フィンテック市場の発展に貢献している。以前は現金取引を主流としていたインド経済は、2010年以降のスマートフォンの普及とeコマースの台頭に伴い、キャッシュレスエコノミーへの転換が進み、2016年の高額旧紙幣廃止以降、さらにその発展に拍車がかかっている。2018年1月にCity of London Corporationが発表したレポートでも、インドフィンテック発展の理由として高額紙幣廃止をあげており、この影響でデジタルトランザクションへの需要が10倍以上伸びた、としている。(注3)
将来もさらに拡大が見込まれ、フィンテック部門における取引額は2016年の330億米ドルから2020年には730億米ドルに到達することが予測されている。(注4)

                                                                                      【インドにおけるフィンテック取引額推移】

インドにおけるフィンテック関連投資額は、2014年の2億4,700万米ドルから2015年は15億米ドルと、大幅に増加している。その投資件数および投資額は大都市に集中しており、中でもベンガルル(旧バンガロール)は、2015年の投資件数は11件、投資総額は5,700万米ドルに上るなど、他都市を上回った。ベンガルルは世界の主要スタートアップ都市として15位にランクインしており、エコシステムなどの投資環境が整備されていることも投資が伸びる要因として挙げられる。また、インドにおけるエンジェル投資家の数は米国の30万人と比較すると1,800人と少ない中、エンジェル投資家によるフィンテック関連への投資件数は2014年の370件から2015年は691件に増加している。また、2016年前半に投資を受けたFintechスタートアップ数は、2015年に投資を受けた総スタートアップ数と同じ、という報道発表もあるなど、投資サイドからの関心の高まりもうかがえる。(注5)

インドのフィンテック市場は大きく分けて次の7分野に分類され、それぞれの特徴は以下のとおり。 (注6)
(1) 次世代ペイメント:同市場の46%が当分野にフォーカス
(2) ソーシャルレンディング:2015年には20社が当分野で起業
(3) バンク・イン・ボックス:地方銀行からの需要増、非金融からの技術ソリューション提供
(4) ファイナンシャルインクルージョン:政府主導の政策(2020年までにファイナンシャルエクスクルージョンを1ケタ台に減ずることを目指す)による需要増
(5) ブロックチェーン:研究施設を立ち上げ参入するIT企業が多い
(6) ロボアドバイザー:発展途上だが、個人資産管理の改革の契機となり得る
(7) セキュリティーと生体認証:銀行の生体認証システム、マイナンバーシステム「Aadhaar」の生体認証システムとの紐づけ等

企業動向

・PayTM (注7-1) (注7-2)
PayTMは、インド最大級のモバイル決済企業であり、ユーザー数は2億5千万人を超える。ユーザーは、クレジット・デビットカード情報をPayTMのアプリにひも付けすることによって、電気代の支払いから買い物までさまざまな決済を携帯電話から行うことが可能。なお、同社は中国のオンラインショッピング企業であるアリババグループから出資を受けており、2017年にPayTMがオンラインマーケットプレイスPayTM E-Commerceを新設した際、アリババグループは約2億米ドルの投資を実施した。

・MobiKwik (注8-1)(注8-2)(注8-3)(注8-4)
MobiKwikは、PayTMに並ぶインドの大手モバイル決済企業である。同社の提供するモバイルアプリでは、携帯電話番号を使った銀行送金および決済が可能。オンライン決済のみならず、店頭決済にも注力している。MobiKwikのモバイルアプリを経由した銀行送金の限度額は1,000ルピーに設定されているが、特定の書類を提出したユーザーは5,000ルピーまでの送金が可能となる。2017年4月、国営通信会社であるBSNLとパートナーシップを結び、MobiKwikウォレットのサービス提供を開始した。このことにより、BSNLの約1億の登録利用者は、等ウォレットを使用した各種支払いが手軽に携帯で可能となり、さらに150万を超えるMobKwik加盟店舗の利用も可能になった。

・FreeCharge (注9-1)(注9-2)
FreeChargeはインドの大手オンラインショッピング会社であるSnapdealが2015年4月に買収し、子会社化したモバイル決済企業だったが、2018年1月、インド主要の一つであるAxis Bankに総額37億3千万ルピーにて買収され、Axis Bank傘下となった。この買収により、Axis Bankは5,200万の動モバイルウォレット利用者への直接アクセスが可能となった、という。

・Faircent (注10)
2013年設立、グルグラム拠点。ソーシャルレンディングのマーケットプレイスを展開している。借り手と貸し手が最新オンラインツールで直接やりとりすることで、最適なレートでの取引と取引時間の削減を実現している。対象者はインドに居住する個人および企業のみ。

・CustomerXPs Software (注11)
2006年設立、ベンガルル拠点のセキュリティソフトウェア開発会社。金融機関、小売業界に向け商品を開発・販売。設立から現在まで5億件の銀行口座管理、60億件のトランザクションの実績があり、全世界取引量の4%を管理している。商品の一つである「Clari5」とは金融犯罪および不正取引防止のためのビッグデータを用いたリアルタイムソリューションであり、世界の名だたる銀行に導入されている。

現地消費トレンド

・インドの主要銀行はフィンテック企業との連携を強化している。 (注12-1) (注12-2)ムンバイ拠点のRBL銀行はスタートアップ企業90社以上との提携により、顧客280万人のうちの30%を獲得できたという。ベンガルル拠点、アプリベースの個人融資向けスタートアップ企業MoneyTapはRBL銀行との提携で20万人の顧客を提供した。同社のターゲットは月収2万ルピー以上の会社員や自営業者。顧客の大半は月収3万~4万ルピーの28~32歳で、RBL銀行との提携で即座に融資の可否判断を行い、24時間いつでも借り入れを可能にした。
Yes銀行は従業員給与および経費管理を行うスタートアップNiYOと提携し、リインバースメントカード(従業員向け経費決済用プリペイドカード)を3万5千枚発行、月間取引数が6万7千件以上に増えた。また、スタートアップPhonePeとの提携で、次世代決済システムUPIの市場シェア30%を獲得したという。各スタートアップにとって、すでに数十万件の口座情報を持っている銀行と提携することで、新規営業に予算をかけずに顧客を獲得できることが強みとなっている。

・インド準備銀行(RBI)は、2017年10月4日、民間各社が提供する電子ウォレットの相互運用を可能にすると発表した。 (注13)相互運用は発表後6か月以内に、顧客基準(KYC)をクリアしたユーザーから順次適用される。この仕組みは現状、インド決済公社NPCI(The National Payments Corporation of India)が提供する統合決済インタフェース(UPI)のプラットフォーム上に構築された電子ウォレットにしか適用されないが、RBIが相互運用を推進することで、現在適応していない電子ウォレット含めた相互運用が可能になる、とされている。PayTM、MobKwikといった主要モバイル決済企業らはこの動きを歓迎しており、ユーザー側の利便性が増すだけでなく、銀行間だけで実現していた簡易な送金の仕組みを、UPIプラットフォームを使用することで、決済企業各社が取り入れられる可能性についても期待されている。

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