インドでは二カ月以上に及んだロックダウンが6月1日に解除され、その間停滞した経済を復興させるための様々な活動が始まっている。
インド政府はウイルス救済パッケージ予算を2,650億米ドル、インドGDPの約10%と発表したものの、当措置のインパクトはGDPの1%にも満たない、という経済学者の試算も出ており[i]、十分に機能しているとは言えない状況にある、という見解もある。
しかしながら、インド政府は助成金や税金緩和などの措置を行うにとどまらず、COVID-19に立ち向かうスタートアップ企業支援策も打ち出している。2015年に発表された「Startup India」政策の一環として、インド政府はAction COVID-19 Team (ACT)を2020年3月に立ち上げ、総額10億ルピーの助成金を投資家などから募集すると発表[ii]。テーマを➀感染拡大の阻止、②検査規模の拡大、③家庭での疾病マネジメント、④病院・ヘルスケア関連従事者のサポート、⑤重症患者マネジメント、⑥メンタルヘルスサポート の6分野に分け投資案件を募集、1,500件以上の応募があったという[iii]。このプロジェクトには数多くの投資会社、個人投資家が名を連ね、当プロジェクトには総額9億5千万ルピーがスタートアップ36社(2020年5月25日現在)に投資された、という。
また、インド政府と米政府が立ち上げたUnited States–India Science & Technology Endowment Fund (USISTEF)においても、COVID-19 Ignition Grantsプログラムを発表、COVID-19に関連する新技術・ツール・システムの開発・実行を行うスタートアップの募集を開始した。プログラムは2ステージに分けられ、Ignition Stage IはアーリーステージのPOC開発もしくはプロトタイプ制作(最大融資額500万ルピー)、同Stage IIはすでに検証されたプロトタイプもしくは既存の革新的ソリューションの再利用(最大融資額1千万ルピー)とし、2020年4月15日から1カ月間募集された[iv]。
その他、インド科学技術省傘下の国家科学技術アントレプレナーシップ開発ボード(National Science & Technology Entrepreneurship Development Board:NSTEDB)が主催し、IITボンベイ校が運営するCAWACH (Center of Augmenting WAR with COVID-19 Health Crisis)の投資プログラム[v]、インド小企業開発銀行(Small Industries Development Bank of India:SIDBI)の提供するCOVID-19関連の事業を行う中小企業向け各種貸付助成金、個別投資銀行・VCからのエクイティ案件なども数多く実施されている。
また、My Gov.in主催の「COVID-19 Solution Challenge[vi]」、ハイデラバードのT-HUBの主催する「COVID-19 Innovation Challenge[vii]」、グジャラート州政府主催の「Student Open Innovation Challenge」などのCOVID-19関連のビジネスコンテストが様々な都市で開催されるなど、活動が活発に行われている。
一方、企業側でもワクチン開発をはじめとする取り組みが行われている。IBEF(インド・ブランド・エクイティ基金)の発表したレポートによると、インドはジェネリック医薬品だけでなく、ワクチン製造でも重要な位置を占めており、全世界への50%以上のワクチン供給国[viii]となっており、ユニセフが年間に購入するワクチンの60%はインドから、という[ix]。
現在インドでは6社が海外企業との協力の元、ワクチン開発に取り組んでおり、Zydus Cadilaが2種、Serum Institute, Bharat Biotech等がそれぞれ1種を開発中だという(ただしWHOのリストに掲載されているのは、Zydus CadilaとSerum Institute、Bharat Biotechの3社・機関のみ)[x-1] [x-2] 。その他、IITインドール校、IICTハイデラバード校などの学術・研究機関もワクチンプラットフォームの開発をコンソーシアムの一部として実施している、という[xi]。インド政府も、2020年3月に創立された、COVID-19と以降に発生しうるパンデミック発生に対抗するための基金「PM CARES Fund[xii]」からワクチン開発に10億ルピーの予算の拠出を決めている[xiii]。ワクチン開発には様々な段階でのテストや臨床試験など様々なステップを経る必要があり、時間がかかるものの、実用化後のサプライチェーンも非常に重要となってくる。インドは前述のように世界のワクチン製造国であり、国内需要だけでなく海外需要への対応も必要となってくる。その際に公正な供給への各国との合意の形成、ならびに国内および海外との需給バランスを調整するための供給とその時期についてのルール作りが重要となる、という。またワクチン輸送は決まった温度帯での厳正な管理が必要とされるため、状態のトラッキングも必要とされる。
そういった中、イギリスのバーミンガム大学およびエジンバラのヘリオット・ワット大学が、インドで統合的なワクチンデリバリープロジェクトを開始した[xiv]。当プロジェクトは2020年5月に、同大学とインドのShakti Sustainable Energy Foundationと、民間企業、非営利団体、学術研究機関等とのタイアップで行われ、コールドチェーンをベースとした、世界のあらゆる地域に到達するための持続可能で効率的なワクチン配送メカニズムを確立することを目指している。民間パートナーとして、英コールドチェーンSureChill、米社会企業Nexleaf、ダイキングループの伊冷凍冷蔵設備メーカーZanotti等が名を連ねている。