コラム

インドのアグリテック投資~農業課題をテクノロジーで解決、累計投資額は16億米ドル超

Published on
Sep 7, 2022

国連によると、世界人口は、2022年11月に80億人に達し、2058年には約100億人に到達するという[i]。増え続ける人口に加え、昨今では温暖化の影響と考えられる極端な気候現象が世界各地で増加、それによる農業への悪影響などから、食料安全保障への関心は世界的に上昇しつつあり、農業をテクノロジーにより、効率化・最適化するアグリテックへの投資は世界的に進んでいる[ii]。2020年の調達金額は261億米ドルにのぼり、前年比35.4%の成長を見せている[iii]

世界最大級の人口を抱え、2023年には中国を超え1位となると予測されているインドにとって、農業は重要な産業の一つである。農業の対GDP比は約18%だが、労働人口の半数以上が農業で生計を立て、今後も増え続ける人口を支えるためにも、今後一層の産業強化が必要となる[iv]。その一方で、インドの農業は、その多くを零細農家が占め、栽培技術から市場流通まで、生産及びサプライチェーンの各段階における非効率性が課題とされており、それらを解決する保有資本の少なさから、これをテクノロジーで解決しようとするアグリテックへの投資が進んでいる。

インドのアグリテックは2019年頃から大きく成長し、2021年までの同分野のスタートアップ企業への累計投資額は16億米ドルに上り、2021 年は前年比2倍を超え、8億8,900万ドルにまで増加した。累計16億米ドルのうち、約3億500万ドル、全体の20%近くが、農業と市場をつなぐプラットフォーム等のソリューションに投資された。このカテゴリーには、農家への農業資材へのアクセスを改善するマーケットプレイスも含まれる。一方で、2021年の「インドインパクト投資トレンドレポート」によると、資金調達全体のうち、レイトステージへの投資が64%を占めており[v]、アーリーステージへの投資は今一つ進んでいないようだ。

インドのアグリテック関連スタートアップは、2022年4月時点で1,300社を超え、これらへの投資金額も世界第3位である。アグリテックの分野と代表的なインドスタートアップは以下のように整理される。なお、市場ポテンシャルについては、EYによる2025年予測である。

アグリテックの分野と代表的なインドスタートアップ
出典:IBEF「Promising Investment Prospects in Agritech」、2022/6/16

これらアグリテックスタートアップの多くはAI、ML、IoT等の最新技術を採用しており、栽培においては気候予測、土壌・水分量分析による適切な施肥や水やりの指導などにより、農作業の効率化が図られ、サプライチェーンでは、市場価格動向から、価格や需要予測につなげ、農家の収入アップに貢献している。また、農家の収量や実績データに基づき、融資審査を行う仕組みもある。エネルギー方面では、太陽光発電を備えた水くみ上げポンプなどの資材や低温倉庫などの提供を行い、エネルギーの低コスト化+品質保持ソリューションを提供するスタートアップもみられる。

技術の採用、という観点からは、農業へのドローン活用も進んでいる。ドローンの主な用途として、肥料や農薬散布が挙げられるが、インドにおいてもここ数年で、州政府や研究機関などによる農薬散布の実証実験やデモンストレーションが数多く実施されている[vi-1] [vi-2]。インド農業省もこれらを受け、2021年12月に、農薬散布のための標準作業手順書を発表した。運用にあたってのドローン登録・認可や、実際の運用にあたっての事前通知から完了までの工程の規定、運航可能な高さ、気候条件などの具体的な手順が記載され[vii]、普及に一役買っている。

また、ドローンを活用した作物保険の請求評価への展開も検討されている。国の農産物に関する保険を手掛ける国営インド農作物保険会社(AIC)は、災害の状況を、確認困難な地域や災害により人の入れなくなった場所などへドローンを飛ばし、撮影・解析を行うことにより、請求評価精度の向上、および保険対象地域の拡大につながるとし、対象地域・作物を限定して実験を開始、徐々に拡大をしていく計画だ[viii]

農産物を収穫したのちの農業残渣を、肥料や燃料として再利用するための技術・ソリューションを提供するスタートアップも登場している。農業残渣を発酵技術で家畜の飼料に転換する研究を実施しているFermentech Labs[ix]、バイオマスを使った土壌改良剤の製造・販売、燃料用バイオペレットの研究開発を手掛けるFarm 2 Energy[x]などである。Farm 2 Energyは、製造・開発だけでなく、これら農業残渣を原料として調達できる仕組みを、カスタマイズで構築している。また、クラウドベースのマーケットプレイス・プラットフォームを構築し、サプライヤーとバイヤーをつなぐことで、農業残渣の売買の効率化を図るBiofuel Circle[xi]は、取引量に応じたサブスクリプションモデルを導入することで、安定したマネタイズも実現している。

農業廃棄物というと、つい最近、スズキがインド政府関係機関である全国酪農開発機構(NDDB)と、牛の糞尿を活用したバイオガス実証実験の実施で覚書を締結した[xii]。これは、人為的に発生させたバイオガスより自動車用燃料を精製、発生後の残渣は有機肥料として利用させる、というもの。JETROが推進する「日印スタートアップハブ」の第一号として採択された、人工衛星や農業データを駆使した情報提供事業を展開するサグリ株式会社も、インドの農村部で実証実験を続けている。

最近の世界的な気候変動による、食糧安全保障への将来的な懸念から、インドに投資をしようとする動きもある。2022年7月に開催された、西アジア版クアッドと呼ばれる「I2U2」(インド・イスラエル、UAE、USの頭文字をとったもの)において、UAEがインドの農業パーク構築へ20億米ドルを投資しを発表した。当農業パークは、最先端のスマート気候技術を含む一連の統合フードパーク構想であり、食品の廃棄・腐敗の減少、水の節約、再生可能エネルギーの活用などの技術を投入するという。

このように、テック・ソリューションがより幅広い分野でインドの農業に貢献し、さらに気候変動や地球温暖化対策にも貢献していく可能性は大きく、今後、さらなる日本企業のインド農業との連携・展開が進むことを期待したい。

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