コラム

インドのEV市場 ―政府のさらなる優遇策を後押しに投資が活発化

Published on
Apr 8, 2022

インドにおけるEVへの取り組みが本格化したのは、2015年に開始されたEV生産・普及促進政策FAME(Faster Adoption and Manufacturing of Electric Vehicles in India)以降である。FAMEは、2020年4月よりFAME2に移行し、総予算はFAMEの10倍以上の1千億ルピー、その多くは購入補助金と充電インフラに割り当てられた。

FAME施行後、EVの販売台数は伸長傾向ではあったものの、その伸びは緩やかで、2015年度~16年度は2万台強で推移、2017年度に5万台を、2018年には10万台を超えたものの、パンデミックの影響もあり、その後数年間は、10万台前半と停滞していた。

しかしながら、2021年にその売り上げは大きく躍進し、30万台を超えた。2022年4月6日時点ですでに19万台に達しており、2018~20年の各年登録台数をすでに上回っている。

                                                                                                  【EV(BOV)登録台数の推移】[i]

出典:Vahan Dashboardより抽出

販売台数が急伸したのは21年7月である。EV二輪は1万3千台以上を記録し、その後順調に右肩上がりに増加、インドで売り上げが伸びるといわれる祝祭日、年末シーズンを超えてもその勢いは止まっていない。

この急伸の背景にはいくつか要因がある。まずは同年6月に、インド政府がFAME2の2年間の延長とともに発表した、EV二輪への補助金の増額がある。EV二輪への補助金は、FAME2施行時には、1Kwhあたり1万ルピー、上限は車両購入価格の20%だったものが、1Kwhあたり1万5千ルピーとなり、上限も40%まで引き上げられている。

                                                                           【EV販売の内訳推移(2021年2月~2022年2月)】[ii]

出典:EVreporter.comがVahan Dashboardに基づき作成したデータをインフォブリッジ加工

政府政策はこれだけにとどまらない。同年8月には、道路交通省がバッテリー駆動車両の登録料の無償化を発表し、州政府に対し、EVへの道路税免税を通知した。多くの州政府がこれに倣い、道路税の100%免税を発表している。また、20近くの州政府が、州独自のEV振興政策を発表しており、それらの多くは州独自の補助金制度を設けている。様々な補助金や減免制度が、高額といわれるEVの購入費用の大幅な軽減になり、購買促進につながっている。

新規参入による競争の激化も、市場活性化に影響している。同年8月には、Ola ElectricがEV二輪の販売を開始した[iii]。Olaは元々Uberのような配車サービスを提供する企業だったが、2019年の資金調達により、Ola Electric Mobility社を通じてEV全般に本格参入[iv]、EV二輪製造工場をタミルナド州に設置し、2021年頭から製造を開始している。当工場の年間生産能力は、2021年6月時点で200万台、2022年末までには1,000万台に拡大が予定されている[v]

Ola ElectricはEV車両だけでなく、バッテリーや自社サービスへのEV導入など、モビリティ全般でのEVの拡充を念頭にビジネスを展開している。EV二輪の市場投入のタイミングで、四輪への進出の意向も表明[vi]、自動車および自動車部品の生産連動型インセンティブ(PLI)スキームの投資企業としても、今年3月に認定を受けた[vii]。バッテリー関連にも注力しており、先端化学セル電池分野でのPLIスキームへの応募申請を実施、今年3月には、韓国の大手バッテリーメーカーLG Chem Powerの元CEOを取締役会に迎え[viii]、超高速充電技術を持つイスラエルのStoreDotに戦略的出資を行う[ix]など、自社開発・製造をにらんだ展開を行っている他、充電ステーションの設置・拡充にも取り組んでおり[x]、自社による急速充電ステーションの展開に加え、国営石油会社であるBPCLとの提携による公共充電ステーション事業も視野に入れている[xi]

外資系企業もインド市場への可能性を見出しており、四輪メーカーも例外ではない。MG MotorsやHyundai、Kiaはすでにインド市場にEV四輪を投入しており、米Teslaも2021年1月にインド法人を設立[xii]、テランガナ州など、すでに6州が工場設立の誘致で競合している[xiii]。中国のBYDなど、新たなEV四輪モデルの投入可能性[xiv]や、一度インドを撤退したFordが、最近EV製造と輸出拠点としてインドを再度視野に入れている[xv]、といった報道がされるなど、枚挙にいとまがない。

日系企業もインドにおけるEVへの取り組みの強化を始めている。

日系四輪メーカーは、インド政府のEV政策が開始されてからしばらく様子見の状態が続いていたが、スズキは2021年の株主総会において、2025年までにインドにEVとSHVを投入する方針を発表。また、2022年3月にニューデリーで開催された日印経済フォーラムの中で、カーボンニュートラルの実現に向けて電気自動車(BEV)及びBEV向け車載用電池の現地生産に約1,500億円を投資する旨の覚書を、グジャラート州と締結した。グジャラート州の乗用車工場の隣接地にEVと車載用電池の工場を建設する。EVは25年、電池は26年に生産を開始する予定だ。21~25年度の5年間でハイブリッド車なども含むEVの研究開発に1兆円を投じる計画も表明している[xvi]

ホンダは、二輪を手掛けるインド法人HMSIにおいて、来年度の発売を視野に入れEV二輪の実験を進めており[xvii]、また、EV三輪向けスワップバッテリーサービス事業を、新たなインド法人設立の元、2022年前半に開始する予定である[xviii]

半導体を手掛けるルネサスエレクトロニクスも、TataグループのIT・ソフトウェア系企業Tata Elxsiとの協業を3月に発表した。EV向けソリューションを開発する、最先端の次世代EVイノベーションセンタ「NEVIC」をバンガロールに設立し、当イノベーションセンタにおいて、インドをはじめとする新興市場向けの、EV二輪および小型車EV向けの、主要なサブシステムの設計・ソリューション開発に共同で取り組む[xix]、という。

今、各企業はインド国内のEV市場だけでなく、世界のEV供給拠点としてのインドの可能性にも着目しており、今後さらにEVを軸とした技術開発や製造、サービス展開が拡大・促進されることが期待されよう。

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