コラム

インドの小売市場最新動向~パンデミックから完全脱却、短期間で収益化を実現する企業も~

Published on
Nov 8, 2022

インドの小売業が好調の波に乗っている。インド小売協会(RAI)によると、今年7月の売上はパンデミック前の2019年の同月比18%増となり[i]、続く8月も2019年同月比15%増[ii]、9月は21%増を記録した[iii]

インドの正月にあたるといわれるディワリ祭(今年は10月24日)は、ギフト需要も含め、年間で特に売上が上昇する時期であり、通常約1ヶ月前からその商戦は盛り上がりを見せる。今年はこの商戦が始まったNavratri(同9月26日)から、ディワリの初日に当たるDhanteras(同10月22日)までに、1兆2,500億ルピーもの売上を記録、最終的には1兆5,000億ルピーを超えるのではないか、と予想されている[iv]。この金額は2019年の9,000億ルピー[v]を遙かに超える。

ECも好調で、First Festive Weekの始まった9月22日~24日のわずか4日間で2,450億ルピーに到達した[vi]

インドの小売業界は、昨年頃から積極的な動きを見せている。特に目立っているのが財閥系RelianceグループのReliance Retailだ。昨年10月に、セブン・イレブンと組み、その1号店をムンバイに開店、今年5月の報道では、今後数か月でムンバイに50店舗まで拡大する、と強気の発言をしている[vii]

同社は様々な業態に拡大中であり、セブン・イレブン出店と同時期に、同じくムンバイに「Freshpick」という高級食料品店を開店した。当店舗は、親会社であるReliance Industriesが手掛けるインド初の高級モール「Jio World Drive」[viii]内に位置しており、高品質の野菜や果物、イタリア料理、タイ料理、日本料理、韓国料理などの外国料理の食材、パン、チーズ、チョコレート、フローズンデザートなどを取りそろえている[ix]

取扱製品も拡大中であり、玩具では2019年に英Hamleysを買収し、プレミアム玩具に参入、今年10月には国内玩具ブランドRowanを買収、マスセグメントの玩具にも参入した[x]。Rowanは今年度第1四半期にグルガオンのモール内に1,400平方フィートの店舗をオープン[xi]、それまでは500~1,000平方フィートの小規模店舗の展開であり、当店舗は旗艦店的な位置づけといえる。

このほかに、インドの伝統的な菓子ミターイーのメーカー50余りと流通パートナーシップを結び、大量生産で、近代化されたパッケージによる賞味期限をより長くした商品の開発を行い、インド全土に流通させるといった取り組みや[xii]、来年頭の、美容・パーソナルケア部門への進出計画が進行中である[xiii]など、枚挙にいとまがない。

日本企業も積極的な動きを見せている。

DAISOは今年9月に、北部のチャンディガルのモール内にインド第1号店をオープンした。売り場面積は101坪で、日本と同じ商品を取りそろえ、日本の良さを伝える。製品価格は99ルピーからとなっている[xiv]

ユニクロの現地法人であるユニクロ・インディアは2021年度に初めて黒字を達成した。インド進出は2016年、生産管理事務所のベンガルール設置が始まりだが、店舗は2019年10月に1号店をオープン、同年に計2店舗、翌年に計4店舗、今年は首都圏外であるラクナウ(ウッタルプラデシュ州)、チャンディガルに各1店舗、計2店舗を開設した。

インドの小売業界には、現地調達率を金額ベースで3割という規制があり、店舗オープンに先んじて、生産管理事務所を通じインド生産パートナーからの調達に取り組み、競合であるZARA、H&Mよりも2割程度高い強気な価格戦略などが利益確保につながったという。

東南アジア等に比べ、インド事業の黒字化は難しく、進出から5~10年かかるともいわれている。そういった中、3年での黒字達成は快挙といえる。

ECも、小売店のチャネル化・組織化に積極的だ。Reliance傘下のJio Martは、キラナと呼ばれる小規模商店をデジタルで組織化することで拡大を続け、昨年度末には2,000を超える店舗ネットワークに拡大。新たな収益源として、キラナに設置したモニター画面を通じて、ブランドやサプライヤーの広告・割引プロモーションを流しているが、これが非常に好調で、Jio Martおよびキラナ両者の収益増につながっているという。モニター画面は今年5月時点で1,000以上のパートナー店舗に設置されており、今後さらに拡大を計画している[xv]

Amazon.inも、キラナの組織化を積極的に行っており、今年5月、キラナや小規模事業者をデジタルでスマート化する、というコンセプトの「Digital Dukaans(Dukaan=小売店)」による、スマートコマースサービスを開始した。Amazon.inは2年前にインド固有のプログラムである「Smart Store」をローンチ、店舗用在庫管理ソフトウェアとQRコードを提供することで、Amazonアプリを通じて実店舗でのECが可能となる仕組み[xvi]だが、「Digital Dukaans」はこの「Smart Store」上に構築されている。店舗が独自のオンラインストアフロントを構築するとともに、デジタルペイメント、ロジスティックサポートも提供することで、現状のオフライン業務の全デジタル化を実現する[xvii]

このほかに、ECの拡大やクイックコマースの展開に伴うラストマイル輸送の仕組みの進化、EV化など、インドの小売・流通を取り巻く環境は大きく変化している。三井物産[xviii]、双日[xix]は、インドの食品輸送の拡大と輸送品質の高度化に貢献すべく、地場企業への出資を行い、食品物流に参入している。小売りだけでなくそれらを取り巻く周辺ビジネスの拡大が進む中、次の一手を誰がどう進めるか、非常に興味深い。

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