コラム

インドの包装市場~大都市ではプラスチック禁止も、食品・製薬市場などがけん引~

Published on
Apr 10, 2018

市場規模

世界の包装市場規模は7,000億米ドル。方やインドの放送市場規模は2010年154億米ドル、2015年には318億米ドルに増加、2020年には727億米ドルに到達する見込みだ。内訳は包装用フィルム製品が2015年は233億米ドルと、市場規模の7割超を占めているが、カップやトレーなどの容器製品は、フィルム製品に比べ伸びが著しく、2020年には市場全体の36%、259億米ドルに達するとみられている。(注1)

市場動向

世界の包装市場に占めるインドの割合は4%。1人当たりの包装材消費量は4.3キログラムであり、ドイツの42キログラム(約1/10)、台湾の19キログラム(約1/4)と少なく、まだまだ伸長の余地がある市場といえる。

インドの包装市場の成長をけん引するものとして、(1)小売市場、(2)食品・飲料市場、(3)製薬市場の3つの市場規模の拡大が挙げられる。

(1) 小売市場の拡大

インドの小売市場規模は2015年時点で5,980億米ドルだが、2020年にはその倍強の1兆2560億米ドルに到達する見込みだ。従来のパパママストア(個人・家族経営店)をはじめとするトラディショナルリテールに加え、近年ではスーパーマーケットなどのモダンリテールや、EC経由の小売も増加しており、インド企業、ならびにヒンドゥスタン・ユニリーバやペプシコ、ネスレ、P&Gといったグローバル企業の食料品や日用消費財、化粧品などが販売されている。きちんとパッケージされた製品に対する消費者の信頼度は高く、所得の向上を背景に、様々な形態のパッケージ商品を求める消費者も、モダンリテールを中心に増加している。 (注2)

(2) 食品・飲料および加工食品市場の拡大

インドの食品・飲料市場規模は2015年時点で340億米ドル。2020年には780億米ドルに到達する見込みだ。小売市場の中では食品・飲料は売り上げが大きく伸びているカテゴリーの一つであり、その中でも特に所得向上、都市化、働く女性の増加で加工食品の需要が高まっている。

1人当たり可処分所得が増えると加工食品への支出も高くなるという調査結果があり、年間可処分所得500~1,000米ドルの世帯では加工食品への平均月間支出は10米ドル程度。これが1,000~2,000米ドル世帯では92米ドル、2,000~3,000米ドル世帯では203米ドル、3,000~5,000米ドル世帯では305米ドル、5,000米ドル以上世帯では350米ドルとなっている。 (注3)

AssochamとコンサルティングファームTech-Sci Researchの共同調査では、インドの食品・飲料包装市場は2020年に160億米ドルまで伸長する、と予測している。 様々な形態の加工食品の登場とともに、包装製品も多様化している。また、食の安全や品質担保、消費期限の長期化を目的とする、新たな機能を持つ包装製品の需要も高まっており、今後の食品関連包装材の需要は多様化・高機能化の方向で堅調に推移すると思われる。

(3) 製薬市場の拡大

製薬市場の拡大もインドの包装市場の成長をけん引している。市場規模は2015年時点で110億米ドル、2020年には210億米ドルに達する見込みだ。(注5) 製薬品の包装は製品輸送時に不可欠であるが、それだけでなく、自社製品・ブランドの認知度向上、患者の服薬コンプライアンス意識の向上、各新規制対応などで、メーカー各社は包装やラベルをより重視するようになってきている。また温度・湿度や水分などの外的要因から製品を守るといった機能性へのニーズも高く、こういった面からも製薬品の包装は需要が高まっている。

企業動向

ESSEL PROPACK

(注6)
地場コングロマリットのエッセルグループ傘下の包装素材メーカー、本社はムンバイ。2016年度の年間売上高は3億6800万米ドルだった。ラミネート加工プラスチック製チューブ(筒型パッケージ)を得意としており、日用消費財メーカーや製薬メーカーなど販路は多岐にわたる。従業員数は2,852人、生産拠点はインドを含む11カ国に19カ所を構える。1年間の販売本数は約70億本に上る。世界におけるオーラルケア用品の包装市場の36%を占めている。2016年度のインド国内売上高は90億680万ルピー、全世界で242億3,240万ルピー。

UFLEX

(注7)
1985年創業、本社はノイダ。生産拠点はインドの他にアラブ首長国連邦(UAE)、メキシコ、ポーランド、エジプト、米国にある。包装用フィルム製品が主力商品で、世界140カ国に納入実績がある。P&Gやペプシコ、ロレアル、ブリタニア・インダストリーズ、ネスレ、コカ・コーラなどインド大手と外資大手の日用消費財メーカーおよび食品メーカーに納入実績がある。2016年度のインド国内売上高は302億4,900万ルピー、全世界で624億9,900万ルピー。

ESTER INDUSTRIES

(注8)
1985年創業、本社はグルガオン。包装用に用いられるハイバリアフィルムなどの高付加価値ポリエステルフィルム、容器パッケージに使用される特殊ポリマーを製造。包装用製品以外にも、車・家電製品向けプラスチック製品や建材製品も取り扱う。2016年度の純売上高は70億6,896万ルピー。

DOW INDIA

(注9-1)(注9-2)
1957年創業、本社はムンバイ。米ダウ・ケミカルの子会社。製造拠点3ヵ所を含むインド全土に9拠点を持つ。エンジニアリングセンターをチェンナイに、アプリケーション開発ラボをムンバイに保有。従業員数は約800人。2017年1月に、リサイクル可能なPEラミネートパッケージのソリューションをインドで発表。インド環境・森林・気候変動省の「プラスチック廃棄物管理規則2016」を遵守するためのソリューション、という。

現地消費トレンド

インド政府、食品輸出に関する先進国に準じた新包装基準を制定する方向へ

(注10)
2017年10月、インド政府は、食品輸出に関する新しい包装基準を制定する方向だ。インドからの輸出食品は、安全性と健康基準に対する懸念のため、これまでに先進国で輸入を拒否された経緯がある。商工省が中心となり委員会を設置、果実や野菜、スパイス、紅茶、コーヒーなど500品目に対し、米国、ベトナム、欧州連合(EU)、日本など先進国の規制に対応する新たな基準を策定する。委員会はインド包装研究所(IIP)、農産物輸出開発局(APEDA)、紅茶局、コーヒー局といった業界団体から構成される。新しい包装素材の研究開発や各種セミナーを開催し、製造業者への啓もうを図る活動も行う。また、包装に関する適切な教育のための学位課程も新設される見通しだ。

米包装大手、インドでの現地生産を開始

(注11-1)(注11-2)
米国の包装大手Scholle IPNは、2017年4月、インドでの現地生産を本格稼働した。今までインド国内では輸入で事業を展開してきたが、2015年後半に現地生産を決定。工場設立地はマハラシュトラ州パラーで敷地面積は6万4,600平方フィート。無菌のバッグ・イン・ボックスパッケージを生産するための自動製袋機および射出成形機計25台が設置され、2016年12月にソフトオープン。パッケージ製品の生産拠点設立には多額の投資が必要で、かつ生産過程には専門技能を有する人材が必要だが、それを考慮しても、現地生産の需要があると工場設立に踏み切った。フルーツジュースやソフトドリンクシロップの包装素材に強みを持ち、相手先ブランド生産(OEM)も展開する予定だという。

NGT、デリー首都圏での50ミクロン未満ビニール袋の使用を禁止

(注12-1)(注12-2)
2017年1月、インドで環境関連事件を管轄する裁判所「国家グリーン裁判所(NGT)」はデリー首都圏において50ミクロンより薄いビニール袋の使用を禁止した。この薄いビニール袋は市場の約25%を占め、日常の買い物時に頻繁に使用されているが、下水道の詰まりや環境汚染、誤飲による動物の死亡といった問題を引き起こしている。違反した場合は罰金5,000ルピーが科される。インドでは環境破壊を食い止めるために、中央政府が2012年10月にビニール袋の製造、輸入、輸送、保管、販売を全て禁止する方針を発表。2016年12月にはNGTがプラスチック容器などの全面禁止を定める判決を出しているものの、小規模製造者が多くを占める業界であるため、実際にはいまだに市場に出回っている、という現状もある。しかしながら、環境保護や有害物質排除などの観点から、禁止の動きは止まらず、2018年3月23日には、マハラシュトラ州政府もビニール袋および発泡スチロール製品の禁止を発表(注13)。同州の商工会議所など業界関係者らは、この影響でパッケージ業界だけでなく、ユーザー側である食品・服飾業界などにも影響を与え、30万人近くの雇用に影響を与える、と、州政府に向け嘆願を行うなど(注14)、様々な波紋を起こしている。その一方で、UflexやCosmo Filmといった幾つかの大手包装用フィルムメーカーはNGTの方針に準じた環境に配慮した素材の開発を始めており、今後の業界全体の動きから目が離せない。 (注15)

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