コラム

インドのEV普及促進のカギとなるか―交換式バッテリーの可能性が注目

Published on
Dec 13, 2021

COP26において、モディ首相は、2070年までにカーボンネットゼロを目指すことを宣言した。さらに、2030年までに非化石エネルギー量の目標値を従来掲げていた450GWから500GWへの引き上げ、再生可能エネルギーをエネルギー必要量の50%へ(COP21宣言では40%)、二酸化炭素排出量10億トン削減、二酸化炭素排出原単位(Carbon Intensity)の45%削減[i]といった、今後10年以内に設定した具体的な目標も提示し、インドの気候変動への取り組みへの覚悟を示した[ii]

排出量削減には、エネルギーを非化石燃料に置き換えることに加え、排出ガス自体の抑制が必要となる。排出ガス抑制に関する政策は多岐にわたるが、交通・運輸については、EV普及政策が中心となっている。インドにおけるEV(二輪・三輪含む)登録台数は、2021年7月19日時点で51万7,322台、2021年以降の登録台数は10万台を超え[iii]、急速に伸長はしているものの、登録台数全体で2億を超えるインドではまだほんのわずかな割合である。

インドでEV普及の妨げになっている原因のひとつが価格といわれており、インドのEV二輪の価格は、従来の内燃機関系車両と比較して、1.5~3倍程度のコスト高になっており、価格差で約3万ルピー(日本円で約4.5万円)の格差を生んでいるという[iv]。この価格差を埋めるため、2015年から開始された「FAME」は、EV普及のための補助金政策であり、購入補助金として49億5千万ルピー、全体予算の6割強をあてたものの、その成果は28万台にとどまった[v]

2019年4月から開始されたFAME2では、補助金対象を二輪乗用車、三輪・四輪商用車に限定した[vi]。二輪はインドのモビリティの多くを占めており、2020年度の自動車全体の売上台数約1,860万台のうち、約1,512万台が二輪と、その割合は8割以上にのぼる。

インド政府は、FAME2の目標として、2022年3月のFAME2施行期限までのEV二輪普及を100万台、三輪を50万台と設定し、中央政府のEV政策に倣い、19州・直轄市では独自のEV政策を策定(草案レベルも含め)[vii]、FAME2の補助金に加え、州からの購入補助金も加えることで、購入のハードルを下げようとしている。

中央政府は、さらにEV普及を促進するため、2021年6月、FAME2の内容を修正。EV二輪に対する補助金額をバッテリーの容量1キロワット時当たり1万ルピーから、1万5,000ルピーへと引き上げ、補助金上限も、従来の「車両価格の20%」から「同40%」に改定した[viii]。加えて、2021年11月には、FAME2の適用期間を2024年3月末まで2年間延長することを決め[ix]、普及拡大へのさらなる注力を行っている。

購入者の負担軽減を図る政策は他にもとられており、2019年8月より、EV車両にかかるGSTは12%から5%に削減され[x]、2021年8月には、道路交通省はバッテリー駆動車両の登録料を無料にすると発表している[xi]

最近では、この車両コスト自体の負担を軽減しようとする動きが始まっている。車両コストに大きく影響しているのがバッテリー価格であり、車両コストまたは価格の30-40%を占める、といわれている。この点に注目し、中央政府は2020年8月には、バッテリーをプレインストールしていないEVの車両登録を可能にした[xii-1] [xii-2]

この政策の実行を可能にしたのは、交換式バッテリーの存在だ。バッテリーをプレインストールしていないことで、車両本体の購入価格を抑えることが可能であり、またバッテリー自体も、車両オーナーが別途購入する形ではなく、バッテリー交換ステーションの定期利用により、使った分だけを支払う、といった仕組みが可能となる。

この仕組みを導入しているのが、2017年バンガロールで創業したMaaSスタートアップのSun Mobilityだ。Sun Mobilityが提供する二輪・三輪EV向けバッテリー交換サービスは、Microsoft Cloud上で実行される、従量課金制のサブスクリプションモデルであり、EVオーナー若しくはドライバーは、Sun Mobilityが14都市、50か所に展開するバッテリーステーションで交換が可能となる。クラウド上で管理されていることから、料金の支払いだけでなく、バッテリー残量の確認、最寄りのバッテリーステーションの探索等もアプリから可能である。

このような仕組みを提供するスタートアップは、Sun Mobility以外にも複数登場しており、Okaya Power[xiii]、Amara Raja[xiv]といった、地場バッテリー大手も交換ステーションを展開し始めている。最近では大手ガソリンスタンド運営企業との連携もみられる。交換バッテリーソリューションスタートアップのVoltUpは、ガソリンスタンドを展開する国営企業HPCLと提携し、HPCLの展開するガソリンスタンドへのバッテリー交換ステーションの設置を開始[xv]、同じくエネルギー小売のReliance BP(Jio BPでガソリンスタンドを展開)とMahindraグループが、2021年12月にEV関連の包括的なMoUを交わし、Jio BPへの充電ステーションならびに二輪・三輪向けバッテリー交換ステーションの設置も視野に入れている[xvi]

バイク・自動車メーカーも例外ではない。2021年4月、インドバイク大手のHero MotoCorpは、台湾の交換バッテリーで稼働するEV二輪を手掛けるGogoroとの戦略的提携を発表した。Hero MotoCorpはインド以外40か国に展開するが、まずはインド市場に注力し、インドにバッテリー交換ネットワークを構築する合弁会社を設立、Gogoroの持つ技術を採用したバッテリー交換型EVバイクを、Hero MotoCorpブランドで立ち上げる予定だ。

ホンダもこの市場に注目しており、2021年10月、EV三輪タクシー向けのバッテリーシェアリングサービスを2022年前半に開始することを発表した。EV三輪メーカーと協力し運用を行い、限定都市から順次エリアを拡大していく予定という。

バッテリー交換は、主にEV三輪や商用利用のEV二輪(ラストマイル配送など)が中心に始められたが、市販のバッテリー非搭載のスクーターも登場した。EVバイクシェアリングサービスを展開するBounceは、12月に新たなEVスクーターInfinitiを発表。バッテリー非搭載のモデルもあり、Bounceの展開するバッテリー交換ステーションで交換可能なサブスクリプションモデルとなっている。金額はバッテリーありが68,999ルピー、なしが45,099ルピー(いずれもデリーショールーム価格)という[xix]。配車開始は2022年1月を予定している[xx]

このような仕組みが民間にも登場してくると、EV普及への大きな一歩の手掛かりになる。Ola Electric社の提供するモデルは、現在バッテリー搭載モデルのみとなっているようだが、Olaの創業者であるBhavish Aggarwal氏は、「インドでのEV二輪ローンチには、バッテリー交換が主な中核・差別化ポイントになるだろう」と以前語っており[xxi]、今後バッテリー非搭載モデルへどういった取り組みをしていくかが注目される。

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