コラム

インドの物流市場~急成長する市場を、テクノロジーの導入で効率化・環境対応へ大きく転換

Published on
Mar 11, 2024

インドの物流業界は、大きく伸長を続けている。調査会社Researchand Markets社によると、インドの物流市場は2023年には4,354億米ドルに達し、2028年には6,505億米ドルと、約1.5倍に拡大することが予測されている[i]。

物流市場が拡大する背景の一つに、人口の増加や所得増による消費の拡大、および小売市場の成長がある。さらに、パンデミックによる外出制限などを後押しに、eコマースが急伸、今や日用品もオンラインで購入され、商品カテゴリーの拡大も配送需要の増加に寄与している。小売市場は2019年からCAGR 9%で拡大を続け、2030年には1兆8000億米ドルを超えると予測されている。また、政府による国内製造業振興のための生産連動型奨励金(Production Linked Incentive:PLI)政策が奏功した結果、グローバル企業がインドに製造拠点を移し、それに伴い倉庫や物流サービスの需要も増加している。一方、インドの物流業界は細分化されており、地元の大手企業、グローバル企業、政府の郵便事業、eコマースのデリバリーに注力する新興企業等、1,000社以上が参入している状況だ[ii]。

このような状況下、インドの物流業界にはテクノロジー主導のソリューションの導入が進み、近年、目覚ましい発展を遂げている。その分野は輸送、倉庫管理や梱包・ラベリング・在庫管理などを総合した、包括的な輸送・倉庫管理システムとして採用されるなど、大きな技術革新が進んでいる。

倉庫市場においても近代的な倉庫への転換のための投資が進められており、その市場規模は2022年から2027年にかけてCAGR 15.6%で拡大すると予測されている。いまだデリー首都圏(NCR)、ムンバイ、バンガロールの三大都市が倉庫在庫の半分以上を占めているものの、倉庫需要の多くを占めるサードパーティ・ロジスティクス(Third Party Logistics:3PL)とeコマース企業は、物流需要の拡大とともに、Tier 2(人口100万人以上400万人未満)やTier 3(人口50万人以上100万人未満)の都市にも進出し始めている。彼らはテクノロジーを活用したハブ・アンド・スポーク・モデル(大規模拠点(ハブ)に貨物を集約し、そこから各拠点(スポーク)に分散させる輸送方式)への移行を進め、簡便性、効率性、持続可能性を追求している。

複雑な市場を最適化する物流マネジメントは、投資家のインドへの関心を高めている。スタートアップデータベースTracxnが共有したデータによると、インドの物流テックスタートアップへの投資は、2022年第3四半期の6,050万米ドルから2023年第2四半期には1億8080万米ドルと、200%近く急増した。2023年第3四半期にはすでに4,240万米ドルの投資が行われている[iii]。

企業動向

・Locus[iv]
ラストワンマイルの物流を最適化するプラットフォームを提供するスタートアップ。高度な最適化アルゴリズムと自動フルフィルメントシステムにより、ルートの最適化、ライブトラッキング、複数の効率的なリソースの活用を可能にし、ラストワンマイルにおけるエンド・ツー・エンドの意思決定を強化する。同社のプラットフォームは、インドの400以上の都市にまたがる多数のさまざまな企業の物流コストを1億米ドル削減することに成功しているという。また、効率化によるコスト削減だけでなく、二酸化炭素(CO2)排出の削減にも貢献している。

インド国内のみならず、UnileverやNestle等のグローバル企業を顧客に持ち、日本を含む30カ国以上でも事業を展開中だ。2017年にはリクルートホールディングスが投資子会社を通じて出資している。

・Kale Logistics Solutions[v]
Vertical SaaSプラットフォームを提供するスタートアップで、貿易や物流に関する複雑な業務を簡素化するため、サプライチェーン管理、在庫・歩留まり管理、輸送管理システム、顧客管理、物流会計システム、コミュニティ・コラボレーション・プラットフォームなどの分野を網羅したソリューションを提供する。

同社はインドで事業を開始し、地場コングロマリットのアダニ・グループ、インフラ開発のGMRグループ、ベンガルル国際空港(BIAL)など、著名なインフラ企業と契約を結び、事業を確立した。インドでの成功の後、中東とアフリカに事業を拡大、アメリカとヨーロッパ市場にも進出している。世界の100以上の空港と港に拠点を置き、36カ国の顧客にサービスを提供している。

・ElasticRun[vi]
企業とオンデマンド・ロジスティクス・パートナーをつなぎ、サプライチェーンの効率的な運営を支援するテクノロジー・プラットフォームを提供するスタートアップ。企業が登録した情報(配送する商品の種類、配送場所、配送スケジュールなど)を機械学習と人工知能(AI)のアルゴリズムを使って分析し、距離、キャパシティなどの要素に基づいて、最も効率的な物流パートナーに注文を自動的に割り当てる。通知を受けた企業から発注が成立すると、パートナーは企業から商品を受け取り、目的地まで配送する。その際、同社はGPS追跡機能を使って配送状況をリアルタイムで追跡し、配送状況についての最新情報を発注企業に定時的に知らせる。また、配送完了後は物流パートナーへの支払いが処理され、物流オペレーションに関する分析も提供される。

同社はトラック所有者、小規模配送会社、地元小売業者(キラナなど、家族経営の零細店舗を含む)など、インド全土で10万を超える物流パートナーとネットワークを構築しており、このプラットフォームを利用して物流業務を管理する企業も拡大している。大手企業からローカルの小売業者まで幅広い顧客を持つことも特徴だ。2022年、ソフトバンクのビジョンファンド2の主導で3億米ドルを調達し、評価額が15億米ドルとなり、ユニコーン企業となった。

・Yamato Logistics India[vii]
インドのマネサール、バンガロール、アーメダバードの3地域にヤマトグループ初のロジスティクスセンターを開設、2023年7月25日から稼働を開始した。これまでは主に自動車メーカー向けのインハウスサービスを提供していたが、工場地帯近くにロジスティクスセンターを設立することで、ジャストインタイム納品(必要な物を、必要な時に、必要なだけ供給することで、在庫(経費)を削減し、効率化する)に対応する。また、国内外のサプライヤーと生産工場間の輸送や、国内外への部品輸送に事業を拡大する。インド国内外のメーカーが完成車や部品のインドでの生産量を拡大するとともに、アフリカや中東への輸出を増やしているためだ。さらに、今後は物流コスト削減などを含む、国内外のサプライチェーン全体の最適化を提案していく方向だ。

 

[i] https://www.researchandmarkets.com/reports/5567003/india-logistics-market-2023-2028-by-transport

[ii] https://www.ibef.org/blogs/warehousing-and-logistics-sector-in-india

[iii] https://techcrunch.com/2023/09/11/kale-logistics-solutions-funding/

[iv] https://locus.sh/
https://www.clickpost.ai/blog/top-10-ecommerce-logistics-startups-in-india
https://techblitz.com/locus-sh/

[v] https://techcrunch.com/2023/09/11/kale-logistics-solutions-funding/
https://kalelogistics.com/global-logistics-solutions/

[vi] https://thebrandhopper.com/2023/03/24/elasticrun-founders-business-model-growth-funding-future-more/
https://www.elastic.run/
https://forbesjapan.com/articles/detail/45754

[vii] https://www.lnews.jp/2023/08/p0807506.html
https://www.financialexpress.com/business/express-mobility-yamato-logistics-india-establishes-three-logistics-centres-3204643/

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