コラム

インドEラーニング市場VOL.2~ロックダウンにより無償化やサービス拡大が相次ぐ。従来の暗記中心の教育システムを大きく変える可能性も~

Published on
Apr 13, 2020

インドのEラーニング市場概況については、2019年4月の「インドE-ラーニング市場」で紹介したが、新型コロナウィルスの影響とともに、昨今のインド事情を解説する。

Eラーニング市場は2016年~2021年にかけ、約8倍の規模になるという予測の他、2019年~24年は年平均伸長率44%、5年後には現在の9倍の規模になる、という予測も出ている[i]。2019年10月には中国TikTokがインドで教育プログラムサービスを開始、コンテンツについては、Vedantu, Topper, Made Easy, GradeupといったEdu-techのスタートアップと協力し、TikTok用の教育コンテンツを制作する他、社会企業のJosh Talks、Nudge Foundationとも連携している。同社セールス・提携担当ディレクターによると、教育分野への進出はユーザーの需要に応えるものであり、世界的に教育動画は人気およびエンゲージメントが高い、という。こういった中、インドでは低価格な通信費とアンドロイド端末の急増によるモバイル動画視聴のブームが来ており、そのブームに乗った格好となる[ii]

インド政府は2020年2月、2020年度の教育部門への国家予算を1兆230億ルピーと発表した[iii]。その内訳は教育に9,930億ルピー、スキル開発に300億ルピーとなっている。教育予算は前年度比4.7%増[iv]と、全体予算の9.2%増に対しては低い伸長率となったが、教育は当年度の大きな3つの柱、1) 農業、灌漑及び農村開発、2) ウェルネス・水・衛生、3) 教育及びスキル開発 のひとつとされた。その内容はオンライン活用に注力しており、国家教育機関ランキング100位以内の教育機関における学位レベルの本格的なオンライン教育プログラムの構築、Ind-SAT(Indian Scholastic Assessment)[v] – インド奨学金(SII-Study in India)獲得のための全国統一オンライン試験のアジア・アフリカ展開など、高等教育現場でのオンラインの活用から、より幅広い層への教育機会の提供を行い、将来的な人材開発・発掘の端緒にしようとしている[vi]

インドでは3月25日より最短21日間のロックダウンに突入[vii]、一部の緊急・必須サービス等を除いた機能は停止した状態が続いている。

そういった中、インドのEdu-tech企業らがオンラインを活用した教育サービスの新たな提供を開始し始めている。

E-ラーニング市場でも紹介したベンガルール拠点の12学年以下にEラーニングを提供するスタートアップByju’sは、ロックダウン以前の3月上旬に、自身の展開する教育アプリへのフリーアクセスの計画を発表[viii]、4月2日から無償提供を開始した[ix]

この発表直後から、同社アプリの利用者は急増、昨年末4000万人強だった利用者が2020年4月12日現在、4,200万人強となっている(同社サイト表記より)。過半数は大都市以外からのアクセスとなっており、Byju’sは現在の英語とヒンディー語の2言語対応から、他インドローカル言語への対応を開始、CEOのByju Raveendran氏は「これは単にオンライン教育の急速な伸長だけでなく、よりパーソナライズかつインタラクティブな学習法が可能であるオンライン教育は、インドの暗記中心の教育システムを大きく変える可能性を持つだろう」と語る。この無償化は、当面4月一杯を予定しているが、延長の可能性もあり、またこれを機会に、恵まれない農村部等の子供向けの無償プログラムモデルの創造も視野に入れている。同様の無償提供は、上述のVendantu、TopperやUnacademyといったEdu-techスタートアップも開始している。

MBA、キャンパスプレースメントや銀行、政府就職希望者への試験準備向けオンライン教育プラットフォームを提供するOliveboardも、提供サービスの無償化の開始準備を進めている[x]

これをきっかけに、迅速にオンライン授業への展開を果たした学校もある。ハリヤナ州Panipatに拠点を置くデザイン・アート分野の私立大学World University of Designは、継続的な指導学習プロセスを確保するためオンライン教育へ移行している[xi]。バーチャルラーニングを行うため、AIやスーパービジョン技術、ビデオ会議システムを活用、米オンライン教育プラットフォームCoursera、英出版社Bloomsbury、米図書館リソース提供のEBSCOなどと提携、パフォーマンス評価もAIプラットフォームで実施している。同大学のオンラインへの取り組みはここ数年継続しており、すでに過去3年間、世界の他大学やNGOとの持続可能性開発ソリューションの合同研究をオンライン上で行ってきた、という実績を持つ。

ムンバイの私立学校the Cathedral and John Connon Schoolは、3月13日に休校を決定、その4日後の17日に最初のオンライン授業が開始された。同校は補講などの補助授業にGoogle Classroomを使用していたが、授業全体は今回が初めてであり、その短期間に教師陣は授業計画の変更、課題の調整等を行ったという。教師とはオンラインでコミュニケーション可能で、課題などもアプリを通じて提出・返信される。同校は授業だけでなく、子供たちがクラスメートと交流できるよう、低学年へのZoomを使った交流会を企画する予定だ、という。[xii]

しかしながら、学校によりオンライン活用への知識・ノウハウのギャップが大きく、また一部の裕福な学校は問題ないとしても、一般ではまだタブレットなどの端末が普及しておらず、また家族全員が一つの部屋で過ごすなど、家庭環境にも課題がある、としている。

いくつかの大学では、通信環境や通信費負担の問題から、遠隔地からの学生や貧しい学生などのため、教師自らが重いファイルの軽量化、WhatsAppやメールを介した伝達などの手間をかけ、学生を支援しているのが実情であり、これら対応も教師によりばらつきがあり、さらに教師側のデジタル技術への知識レベルによっても格差が生じている[xiii]

シンガポールに拠点を持つ初等教育の普及を目指すXSEEDはそういったハードルを持つ生徒を多く抱える初等教育を行う学校のオンライン転換への支援準備を行っており、オンラインモジュールならびに教師へのトレーニングプログラムなどで構成される予定[xiv]

こういった現状を受け、政府は5Gの迅速な普及、オンライン教育とその評価システムの標準化への早急な取り組みを望む声もきかれる。

E-ラーニングだけでなく、在宅勤務や外出禁止の影響で急速に増大している通信トラフィックの負荷を緩和する措置を促進するため、通信会社はインド通信局・内務省に働きかけ、Netflix、Amazon Prime、Hotstar、ZEE5などのネットストリーミング提供会社に対し、一時的なHDからSDへのダウンサイジング、ならびに帯域幅を多く使う広告・ポップアップの削減を要求している。これはグローバルと同様の動きであり、各ストリーミング提供会社はすでに新技術の活用などによる容量減への取り組みを行っているという[xv]

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