インドの不動産市場は、パンデミック当初は主要都市で厳格な封鎖措置が実施されたことから、住宅登録の停止や、住宅ローンの実行などが滞り、住宅販売にマイナス影響を与えた。しかしながら、徐々に在宅勤務やリモート学習などが日常化してきたことにより、2020年後半より、住宅によりよい環境を求める需要が高まった。また、パンデミック収束とともにオフィス回帰が進む中、フレキシブルな働き方の浸透で、コワーキングスペースが増加、また大手グローバル企業を中心に、従業員の健康や働きやすさをより重視する考え方が始まり、より快適な職場の提供目的で、不動産需要が高まった。その結果、不動産市場全体は回復し、さらにその勢いを伸ばしている。
政府系シンクタンクIBEFのレポートによると、不動産セクターの市場規模は今後急激に拡大し、2017年の1,200億米ドルから2030年には1兆米ドルに達し、2025年には同国のGDPに13%寄与すると予想されている[i]。
不動産市場は、大きく住宅、商業、小売、ホスピタリティの4つのサブセクターで構成されているが、住宅セクターについては、2021年に在宅勤務が急ピッチで導入されたため、400万~500万ルピー以下の手頃な価格の住宅に対する需要がTier2 Tier 3都市で高まった。その結果、2022年の住宅用不動産市場は前年比68%増と大きく伸長した。現在、都市部で不足している住宅は1,000万戸と推計されており、今後の都市人口増加に対応するには、2030年までにさらに2,500万戸の手頃な価格の住宅が必要とされる[ii]。
2022会計年度の住宅不動産市場は大きく成長、7大都市圏(デリーNCR、ムンバイ、コルカタ、チェンナイ、ベンガルール、プネー、ハイデラバード)における住宅販売戸数は前年比36%増、金額にして48%増となり、数・金額ともに過去最高値を樹立した[iii]。
商業用不動産セクターについては、これまではITが主要顧客であったが、BFSI(銀行、金融サービス、保険)、エンジニアリング、製造、eコマース、コワーキングといった他のセクターからの賃貸も増加しており、その結果、空室率が低い状態が続いている。Tier1、Tier2都市におけるオフィスや商業スペースの高い需要のほか、コワーキングスペースは2023年に前年比15%増、データセンターの不動産需要は2025年までに1,500万~1,800万平方フィート増加などが予想されており、全般的に好調の波が今後も続くと予想されている。
インド政府も、様々な不動産開発政策や、開発・販売に関する規制や制度の整備にも注力してきた。2015年に立ち上げた低所得者層、中所得者層、経済的弱者層向けの住宅開発促進や購入補助等を行うスキームPradhanMantri Awas Yojana(PMAY)や、低・中所得者向け住宅プロジェクト竣工のための特別窓口SWAMIHの設置、不動産の開発・販売規制に関する法律(RERA)、不動産投資信託(REIT)の導入などの様々な不動産支援策をとっている。
FDI(海外直接投資)については、2020年統合版FDI政策により、建設開発プロジェクト(タウンシップ開発、住宅/商業施設建設、道路または橋、ホテル、リゾート、病院、教育機関、レクリエーション施設、都市および地域レベルのインフラが含まれる)は、政府のガイドラインに従うことを条件に、自動認可で100%まで出資が可能だ[iv]。
日本の大手商社も、大都市を中心に、商業施設や住宅開発に乗り出している。住友不動産は2022年11月、ムンバイで11,885平方メートルの土地を取得し、2028年3月までにオフィスビルの竣工を目指すと発表した。2019年に取得した物件に続き第2号案件となり、80年借地権の土地を351億円で取得した。海外で同社単独でのオフィスビル開発は初だが、今後もインドで5,000億円程度を目標に長期保有資産を開発する方針だ。インドは開発行為に関する外資規制がないため、自ら土地取得をし、東京グレードの最新鋭オフィスビル開発を行い、長期保有の賃貸事業に取り組む[v]。
丸紅は、マハラシュトラ州プネーの住宅開発・分譲事業への参画を2021年11月に発表した。34階建て3棟、約340戸の計画だ。事業を実施する大手不動産会社Kolte-PatilDevelopers Ltd.の非転換社債を引き受ける方式での参画となる。2020年のムンバイプロジェクトへの参画に次ぎ第2号案件となる。ターゲットをアッパーミドル層とするムンバイの第1号案件は、47階建て3棟で約800戸、平均坪単価が100万~120万円で、すでに約8割が成約済みという。今後は、インド市場を海外不動産開発事業の一つの柱として育てるべく、不動産開発にとどまらず、社会インフラ整備や、そこから生まれる複層的な事業展開を視野に入れている[vi]。
東急不動産も、分譲住宅開発プロジェクトに参画している。2022年4月、チェンナイ及びムンバイの分譲住宅開発プロジェクトへの投資を発表した。日本生命保険相互会社のインド子会社Nippon Life India AIF Management Limited および株式会社玄海キャピタルマネジメントと連携し、インドAlternativeInvestment Fundを通じて行う。2021年のチェンナイでの第1号案件に次ぎ、ムンバイでは第2~4号案件となる。チェンナイでは複数のIT関連施設、大規模な病院や研究所を近接する地区の大型分譲住宅事業(808戸)、ムンバイでは、国立公園に近接し安全で優良な住宅地の大型分譲住宅事業(875戸)、金融街や空港にアクセスしやすく複数の病院や優秀な教育機関も近接した優良な立地の大型分譲住宅事業(805戸)、ビジネスパーク・ITパークに近接した公共住宅の建て替え事業(370戸)だ[vii]。いずれも第1号案件の成功から、第2号案件へと展開しており、今後も有力な不動産・住宅開発へ積極的な投資をおこなう姿勢が見て取れる。
インドの不動産セクター全体への外国に住むインド人(NRI)からの投資も増える見込みで、ベンガルール、アーメダバード、プネー、チェンナイ、ゴア、デリー、デヘラードゥーンの順に人気だ[viii]。この動きは中長期的にも継続が予測されている。
また、前出のREIT導入により、より小規模投資家が、不動産への投資をしやすくなったことも、投資が集まりやすい環境を醸成している。これを受け、不動産投資プラットフォームも、より手頃な価格で不動産投資ができる仕組みを提供し、投資促進に貢献している[ix]。こういった国内外からの不動産投資により、インド不動産市場はさらに活気づくことが予想される。
[i] https://www.ibef.org/industry/real-estate-india
[ii] https://www.livemint.com/money/personal-finance/future-of-real-estate-market-in-india-in-2023-11676368024008.html
https://timesofindia.indiatimes.com/blogs/voices/exploring-the-evolving-landscape-of-real-estate-in-india-a-comprehensive-look-at-the-latest-trends-and-developments/
[iii]https://www.asiapropertyawards.com/en/2023-witnessed-record-growth-in-indias-residential-real-estate-market/
[iv] https://www.jetro.go.jp/world/asia/in/invest_02.html
[v] https://www.jetro.go.jp/world/asia/in/invest_02.html
[vi] https://www.marubeni.com/jp/news/2022/release/00088.html
https://fk-online.jp/archives/16927
[vii] https://www.tokyu-land.co.jp/news/2022/000738.html
https://www.jutaku-s.com/news/id/0000029612
[viii] https://www.mordorintelligence.com/industry-reports/real-estate-industry-in-india
[ix]https://economictimes.indiatimes.com/wealth/real-estate/exploring-the-potential-of-commercial-real-estate-investment-insights-from-property-share-ceo/articleshow/103252860.cms