コラム

インドのエレベーター市場~スマートシティ構想・住宅の高層化により需要に追い風~

Published on
May 9, 2018

市場規模

2016年にインド現地紙Economic Timesが報じたところによると、インドのエレベーター市場は2020年度には16億米ドルに到達する見込みだ(注1)。2016~2021年の年平均成長率は8%と予想されている。年間販売台数は2015年時点で約4万8千台と、中国に次ぐ世界2位の市場となっている。

市場動向

ショッピングモール・高層ホテルの建設ラッシュ、空港や鉄道駅のインフラ近代化、不足する住宅事情解消のための住宅高層化、また、政府が提唱する国内100都市のスマートシティ構想の実現化に後押しされ、インドのエレベーター需要は高く、市場は成長を続けている。フィンランドの大手エレベーターメーカーKONE CorporationのCEO、Henrik Ehrnrooth氏がEconomic Times紙に語ったところによると、インドの市場は発展途上ではあるものの、大都市を中心に地価の高騰を背景として建物の階数は増加傾向にある。今年のインドのエレベーター市場はひとケタ成長、今後数年は新規販売と共にサービス事業からも旺盛な需要が期待できる、としている(注2)。こういった中、省エネ性能が高く、かつ安全性および快適性を向上させるエレベーター技術への需要も高まっている。行き先フロアのセレクション制御 (Destination Selection Control、DSC) システムがその一例で、このような最先端システムを導入することにより、エレベーターの待ち時間が従来よりも3割程度削減できるという。また、太陽光発電で運転するエレベーターも市場に出回っており、年間電力消費量の最大50%削減が可能だ。ほかにもリニアモーター技術を用いたロープフリーエレベーター、電力消費量を最大60%削減できるマシンルームレスエレベーターなど、各社は他社との差別化を図るため、こうした独自技術を搭載した製品開発をすすめている。日系メーカーのインド進出が進む背景には、中国・東南アジアの成長鈍化がある。 中国は年間販売台数約64万台(2015年度)、世界販売の6割という圧倒的なシェアトップを握っているが、その市場成長率はインドを下回るとの見方もある。東南アジア最大級の市場、タイも日本勢は1970年代から参入しており、頭打ち感が強い。販売台数が一巡した日系メーカーは、新規販売からサービス、保守業務に注力している(注3)。内需が旺盛なインドにマーケットを求めて、外資メーカーの参入相次いでいる状況だ。

企業動向

JOHNSON LIFTS

インドチェンナイ拠点、創業50年以上。エレベーターとエスカレーターを製造しており、市場シェア20%を握るトップメーカー。納入累計台数は5万5千台。エレベーター工場はチェンナイとナグプールの2か所、エスカレーターの工場はオラガダムにある。国内47か所にオフィスがあり、従業員数は5千人超。国内販売だけでなく輸出も手掛けており、スリランカ、モルディブ、ネパール、タンザニアに輸出実績がある(注4)

TOSHIBA JOHNSON ELEVATORS

東芝エレベーターのインド現地法人。2011年4月設立、2012年10月に上述のJohnson Liftsと資本提携、合弁企業となった。納入累計台数は1千台。グルガオンの高級マンション「The Camellias」に毎分180mの高速エレベーター8台を含む40台のエレベーターを(注5)、ハイデラバードのオフィスビル「Meenakshi IT Campus at Gachibowli」に、乗り場側行き先階登録システムを搭載した70台のエレベーターを受注している(注6)。プレミアムセグメント(高速・高級機種ゾーン)を強みとしてきたが、2016年7月には普及型グローバル機種をインド市場向けに改良したミドルセグメント向け商品を発売。両セグメントで2020年までに年間販売台数2千台を目指している(注7)

MITSUBISHI ELEVATOR INDIA

三菱エレベーターのインド現地法人。2012年8月設立で、従業員数は約1千名(2016年3月末時点)。2014年4月から中低層建物向けエレベーター「NEXIEZ-LITE」を輸入販売していたが、2016年9月にベンガルルに工場を設立、現地生産を開始している(注8)。年間生産は5千台、2020年までにインド国内での販売台数5千台を目標に掲げている。

OTIS INDIA

米エレベーターメーカー大手Otisのインド現地法人。ベンガルルに生産拠点を構える。Otis自体は200か国で事業を展開しており、従業員数は2,600人(注9) 。ベンガルル工場は2015年に10億ルピーを投資して生産台数を倍増。年間生産台数は5千台で、さらに1万台まで引き上げることも可能だという。インド国内の販売台数は年間6,500台で、秒速1.7メートルの製品が主流だ。インドで高級カテゴリとして販売されている秒速6メートルのエレベーターは輸入販売を続けるものの、それ以外の分野での現地調達率を現在の45%から70%への引き上げを目標に、さらにインドに投資していく計画(注10)

SCHINDLER INDIA

スイスのエレベーターメーカー大手Schindlerグループのインド現地法人。本社はムンバイでインド国内13都市に支店を、42都市にサービス拠点を構えている(注11)。世界レベルのトレーニングセンターをムンバイ、ベンガルル、ノイダ、プネの4都市に展開している。インド4番目のトレーニングセンターであるプネセンターには3台のエレベーターシャフトや電気制御シミュレータなどが設置され、実地体験による製品の点検整備及びトラブルシューティング等のエンジニアの育成が行われている(注12)

KONE INDIA

フィンランドのエレベーターメーカー大手KONE Corporationのインド現地法人。本社はチェンナイで、インド国内とネパールに41拠点、チェンナイ近郊に8.75エーカー、年間生産台数5万台の工場を構えている(注13)。従業員数は4,300人超。2019年半ばには同じくチェンナイ近郊の第2工場の操業開始が予定されている。また、世界11か国で発売を開始しているIBMのIoTプラットフォームを採用した「ワトソン」による24時間の管理システム搭載エレベーターを、インドでも2019年内に発売する計画。同社はIBM以外にもスタートアップ企業や中小企業とデジタルソリューションの開発で提携を進めている。インドでもハッカソンを行い、24時間管理のデジタルソリューション管理システムに関するアイデアを集めるなどしている(注14)。また同社が開発したカーボンファイバーの超軽量ロープ「KONE Ultra rope」は従来のスチールケーブルよりも90%も軽く、消費電力量を15%カットできる。同社はインド市場の中でも住宅市場、特にミッドセグメントの伸びが一番大きいとし、製品開発に注力してく方針だ(注15)

HITACHI LIFTS INDIA

日立製作所傘下で、インドには2008年に参入。本社はデリー。2015年にはチェンナイの大手ディベロッパーOlympia Groupが手掛けた市内の高級マンションOlympia Opalineに主要モデルのひとつであるギアレスエレベーター(HGP)を納入。同モデルはスペース容量を最大56%削減、電力消費量を最大30%の削減が可能(注16)。2017年9月には営業拠点数の拡大および生産体制の強化を発表(注17)。2016年にマンションやオフィスビルなどに対応した戦略機種を投入しており、営業拠点を8拠点に増やし営業力を高める。生産面では、インド向け製品はタイ工場での生産だが、2018年度中に汎用的な部品であるドアや人が乗り込むカゴ枠などの生産をインド企業に委託。戦略機種を中心に、委託数は年間数百台とみられている。販売動向により、インドで自社工場の建設も検討するという。

現地最新トレンド

・インド初のエコ住宅「Supra Eco Homes」に太陽光で作動するエレベーターが導入される。建設予定地はハイデラバード、4階建て16室の集合住宅だ。インバーター(蓄電池)やジェネレーター(発電機)も設置せず、全ての電力は太陽光発電で賄われ、月間電気料金は250ルピー以下を実現するという 。ディベロッパーはハイデラバード本社のSupra Builders。手掛ける物件は全て太陽光発電が導入されており、4階建て8室の「Pride Supra Homes」は完売、5階建て50室の「Supra Super Studio」が建設中、予約販売を受付中だ。同社は電力だけでなく、建築資材の木材使用量を減らすことで森林資材を減量化。建設材料であるセメント使用量の最小化や雨水再利用施設などの導入により、水の使用量も抑える設計で、従来の住宅と比較すると最大で50%、水の使用量を削減できるという 。環境にやさしい建築基準「グリーンビルディング」のインドにおける適用物件は、新築物件のわずか2%にすぎない。しかしインド国内の電力消費量の40%を建物内消費が占めており、うち住宅物件は過半数の60%。さらに、インドの二酸化炭素排出量の22%は住宅からであり、住宅物件の省エネ化が急務となっている。

・ナグプールメトロにグリーンエレベーターが設置される予定だ。「Khapri」、「Airport South」、「New Airport」の3駅はインドグリーンビルディング協会の最高レベル「プラチナ」を取得しており、環境に配慮した技術が多く採用されている。構内のエスカレーターおよびエレベーターは可変電圧可変周波数制御(VVVF制御)で管理、運転速度を調節できる。ピーク時は運転速度を速め輸送人数を増やし、それ以外の時間帯は速度を遅くして消費電力を削減する。ほかにも、消費電力の65%はソーラー発電で賄う(3駅のソーラーシステムによる発電容量は308kW)、インドで初めて駅施設にバイオ発電システムを導入(廃棄物処理量1万リットル)、自然光の取り入れや建設資材にもリサイクル材料を多用するなど、「グリーンメトロ」として注目を浴びている(注18)

・スタートアップが盛んなインドでは、稼動しているエレベーターの中でピッチを行うという変わったプログラムも行われている。ムンバイ拠点のスタートアップアクセラレーター「Zone Startups」は、2017年11月に「エレベーターピッチ」を発表。同社が入居している南ムンバイのビルのエレベーター内で、スタートアップ企業と投資家が1対1でピッチを行うというもの。時間は1階から18階までの移動時間45秒。ピッチの様子は撮影され、Youtubeで公開される。地場大手HDFC銀行、地場ソフトウェア企業Vidoolyなどが同プログラムを支援している(注19)

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