コラム

グローバルでパンデミックの影響を受けた観光業、現在のインドの状況は?~国内旅行が人気、自然や解放された地域での体験型旅行へ~

観光業は新型コロナウイルスの影響で、世界各国で大きな打撃を受けたが、インドの現状はどうなっているのだろうか。日本では7月に入り、夏休みの計画などを久しぶりに立て、楽しみにしている人も多いのではないだろうか。そんな中、インド国内の旅行の状況がどうなっているのか、少し調べたものをご紹介していこうと思う。‍

Published on
Jul 7, 2022

2020年のロックダウンにより、観光業は大きく落ち込んだが、人流制限などが緩和されるに従い、北東や東ヒマラヤなどの山岳・高地へのツーリズムが一次ブームとなった。その後またオミクロンの影響もあり、若干落ち込んだもののその後回復基調が続いているようだ[i]。また、別の記事では、2021年のオミクロン株の流行で、再度大きく落ち込むかと思われたが、自動車を使った旅行、週末の休暇やステイケーションへの需要は堅調だったという[ii]。2021年の6月の国内避暑地への旅行者も大きく増加した。ヒマラヤ山脈を擁し、数多くの避暑地があるヒマーチャルプラデシュ州は、6月から1か月足らずで60-70万人の観光客が訪れ、旅行サイトからの申し込みや問い合わせも非常に増加したという。この時期に同州内で新たなホテルを開業した高級ホテルチェーンITCも好調な推移を見せた[iii]

その一方で、海外旅行への懸念は、オミクロン株の流行以降まだ続いており、2021年12月のThe Printにおけるインド旅行業連盟(TAFI)の東部地域チェアマンの発言によると、通常期であれば、IPLリーグの開催国への観戦ツアーやモルジブ、モーリシャスなどのリゾートへの海外旅行の時期であるところ、海外旅行への懸念のため、通常の海外:国内が4:6の比率から2:8と国内への志向が高まったという。

同時期に、ホテルオンライン予約のOYOが実施したTravelopedia調査によると、2022年の旅行先として、61%が国内を、25%が国内旅行同様に海外旅行も考えたい、と回答しており、こちらもまだ国内旅行志向がいまだ高いことを物語っている。

国内旅行が依然人気の中、どのような観光地が特に人気なのだろうか。前出のOYOの行った調査結果でトップになった旅行先は、インド有数の観光地のゴアで、回答者の1/3を占め、次いでヒマラヤの高地リゾート、ヒマーチャルプラデシュ州Manali、同州の避暑地Shimlaが続き、また南のビーチやバックウォーター、自然保護区などが充実するケララ州が人気だという。このラインナップを見ても、自然に触れ、開放的な場所で過ごしたい、という思いが表れているようだ。

夏季休暇の行き先としても、国内がいまだ人気のようだ。今年4月に実施されたオンライン旅行会社の調査によると、夏季休暇の予定者61%のうち、94%は国内旅行を想定しており、海外の代替となる国内観光地を選択している。スイスの代わりにカシミール地方の避暑地のGulmarg、同じく山岳地に位置するスキーの名所ともいわれるウッタラカンド州Auli、インドのスコットランドとして知られているカルナタカ州Coorgなどがあげられている。ホテルに次いで、ヴィラやホームステイなども人気で、1-3日間の短期間旅行も人気だという[iv]

ケララ州への旅行者も増加しており、2022年の第1四半期(4-6月)の旅行者数は昨年の220万人を大幅に上回る380万人を記録した。新たな旅行商品の投入や、新たな観光地の創出などが奏功した。コチの繁華街エルナクラムが81万人強と最大の観光客となったほか、Idukki, Malappuramなどの5地区が過去最多の観光客数を記録した[v-1] [v-2] 。

国内観光・ツーリズムにおいても、新型コロナによる意識の変化が大きく影響している。旅行先の選定に特に重要となるのが、健康や安全性における透明性だという。旅行予約サイトBooking.comの調査によると、回答者の77%が健康・衛生ポリシーをしっかりと提示した施設を予約したい、と回答し、71%が安全性に不安のある旅行先を避ける、と回答した。上記のOYOの調査でも、回答者の80%がパンデミック下では、旅行における安全性が重要、と回答した。

関連施設についてもコンタクトレスへの要望が高まっており、感染防止や感染の恐れを軽減するため、空港やホテルのコンタクトレスチェックイン、食事のコンタクトレスオーダー、コンタクトレスなコンシェルジュサービスなどが、特に高級セグメントにおいては標準化されてくることが考えられる。

この志向の変化は、滞在先への選択にも影響を与えているようだ。安全・衛生プロトコルの確立された高級ホテルの需要も高まっているが、より安心できる別荘やサービスアパートメント、ホームステイ(部屋の間借りではなく、家ごと貸し出す形態)などの需要が増加、この需要に対応するために、MakeMyTripは、提携するホームステイ先を2022年度末までに15,000件増加する計画を発表している[vi]

体験型旅行への需要も増加している。以前のような観光地から観光地に忙しく移動する、行程表に縛られた旅行から、よりゆったりしたペースの旅行を楽しむような傾向もみられるようである。また、旅行先の自然やコミュニティに触れるといった体験への志向も高まっている。ロックダウン等で制限された、家族や親せき、友人など、人とのつながりを再構築するためにも、体験を共有し、共感を培える体験型旅行を志向する人が増えていることが推測される。

インドのAmexカード会員の旅行申し込みについても、家族旅行、特に複合家族(三親等や親せきを含めた大家族)での旅行への関心が高くなっているという。目的については、新しい体験へのモチベーション(48%)、リラックス(46%)が同等に上げられており、Amexによると、ここからインド人の旅行に対する考え方の変化が見て取れる、とのことだ[vii]

国際的な人流が徐々に回復し、海外旅行への機運も今後高まっていくと思われるが、比較的短時間で訪れることのできるインド国内の観光地が再発見され、また新たなブームを呼ぶ可能性も多いと思われる。前出のケララ州政府は、新たな観光資源開発にも積極的であり、地方自治体とともに「新たな目的地チャレンジ」イニシアティブを今年6月に開始した。このイニシアティブの始動により、今後4年間で少なくとも500の観光地開発を計画する、と同州の観光大臣は主張している。費用は1自治体に対し観光局が60%あるいは最大500万ルピーを負担、残りの投資は自己資金またはスポンサーによる資金などで賄うことになる。

インド政府も実は2020年1月に国内観光振興のため、Dekho Apna Desh(See Your Country)と呼ばれる新たなオンラインキャンペーンを開始していた。2022年末までに指定するインドの15観光地をすべて訪問、旅行先の写真やビデオと登録、インフルエンサーとしての活動などを行うと、入賞者にその旅行費などがプレゼントされるキャンペーンとなっている。開始後まもなくパンデミックとなったものの、ワークショップやセミナーなどを地道に続け、着実にエントリー数を増加している。インド国内といえどもかなりの広範囲にわたるため、15カ所を訪問するのはかなり大変ではないかと思うのだが、現在のエントリー数は24万人を超えている[viii-1] [viii-2] [viii-3]。あと残すところ半年の中、どういった成果につながるのか、結果の発表を待ちたいと思う。

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