コラム

インドの再生可能エネルギー市場~世界最大規模のプロジェクトが増加、グローバル市場でのプレゼンスが増加

Published on
Jan 11, 2024

人口増加や経済発展によるエネルギー需要の急激な伸びが予測されるインドでは、効率的かつ環境に優しいエネルギーインフラの拡充が急務となっている。モディ首相は、2021年に開催されたCOP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)において、2070年までにネット・ゼロ・エミッションを達成する、具体的な目標年を発表、再生可能エネルギー発電容量を500GWまで増やし、2030年までにインドのエネルギー需要の50%を再生可能エネルギーで賄うことを宣言した。実現に向け、国内外からの大規模な投資が相次ぐとともに、再生可能エネルギーのパイオニアとしての地位を確立しようとしている[i]。

 

国際再生可能エネルギー機関(IRENA)は2022年、インドの再生可能エネルギー導入促進への努力を称え、イノベーター・オブ・ザ・イヤーを授与した。国際エネルギー機関(IEA)によると、2022年時点でインドは再生可能エネルギー容量と風力発電容量で世界第4位、太陽光発電容量で第5位である。また、インドはCOP21での公約を9年近く前倒しで達成し、すでに発電能力の40%を非化石燃料で賄っており、インドのエネルギーミックスに占める太陽光と風力の割合は驚異的に伸びている。さらに、バイオエネルギーの世界最大の生産国のひとつとなっており、今後数年でカナダと中国を抜き、米国とブラジルに次ぐ世界第3位のエタノール市場になると予測している[ii]。

 

インドの再生可能エネルギー発電容量は過去数年間で急速に増加しており、FY16~FY23(2023年2月まで)の年平均成長率は14%を超える[iii]。

 その内訳は、太陽光と風力がほとんどを占めている状況だ。2019年時点では風力が主流だったが、現在は太陽光が53%を占め、次いで風力35%、両者を合わせ、88%に上る[iv]。

 【太陽光発電】

インドは一年を通して日照時間が長く、太陽光発電には好立地とされている。総容量40GWの全国59カ所のソーラーパークが承認されており、ラジャスタンで稼働するバドラ・ソーラーパークは14,000エーカーの広さに及び2,250MWの発電能力を持つ世界最大の太陽光発電所だ。

太陽光発電に必要な素材の国産化にも注力している。2021年11月に、インド政府は国内の太陽電池セル・モジュール製造に対するPLI(生産連動型インセンティブ)スキームへの資金を、既存の450億ルピーから2,400億ルピーと5倍以上増額した。これら製品の、グローバルへの輸出国となることを目指す。2022-23年度連邦予算では、政府は高効率太陽電池モジュールの製造を促進するためのPLIスキームに1,950億ルピーを割り当てた[v]。

 

【風力発電】

風力発電もネット・ゼロ・エミッション向けて再生可能エネルギーの1/3を賄う重要な技術だ。政府が電力コストを抑えるために導入した入札制度によりサプライチェーンが混乱し、プロジェクトの進捗が遅れる等の停滞時期があったが、制度の改定などにより、回復してきている。政府は2030年までに洋上から30GWの風力発電を達成するという目標を掲げており、3カ所の候補地を特定している。タミルナドゥ州で4年後の稼働を目指して近々最初の入札が行われる予定だ。業界への刺激になることには間違いないが、高度な技術を持った人材確保も含めた政府の安定した支援策が必要だと言われている[vi]。

 

【バイオ燃料】

バイオ燃料産業の活性化のために政府は数々の施策を行ってきたが、バイオ燃料の混合率目標は達成できていない。原因は非効率的な原料サプライチェーン、技術が未熟なことによる生産コストの高さ等、事業として成り立つためのハードルが高いことが影響している。一方、2023年までにインド全土で約5,000の圧縮バイオガスプラントが設置される等の計画もある。企業は投資を進めており、総合エネルギー大手IndianOilとインドで最も実績のある産業用バイオテクノロジー企業PrajIndustriesは、インドにおけるバイオ燃料生産能力を強化する覚書を交わした。IndianOil会長は、「インドは農業経済国であり、原料が十分に入手できるという利点がある。インド固有のバイオ燃料は、インドが脱炭素の道を歩む上で、ゲーム・チェンジャーとなるだろう」と述べている[vii]。

 

【インドへの海外直接投資】

これら非従来型エネルギー分野への海外直接投資(FDI)も大きな伸長を見せている。インド商工省によると、2000年4月から2023年3月までの同分野へのFDIは141.2億米ドルに上った。リサーチ企業British BusinessEnergyによると、2023年度第三四半期のFDI投資額は205億ルピー(2億5,100万米ドル)にのぼり、投資国の上位はシンガポール、モーリシャス、オランダ、日本という[viii]。日本企業では、オリックスが地場企業への投資、買収等で再生可能エネルギー事業の展開、三井物産も、2022年に地場再エネ最大手への出資で、インド再生可能エネルギー事業に参画するなど、様々な動きがみられる。

 

【現状と課題】

投資・開発が進むと同時にコストは順調に下がっており、Institutefor Energy Economics and Financial Analysis (IEEFA)の報告書によると、インドの太陽光発電のコストは2010年以降84%低下しており、国内のほとんどの地域で石炭火力発電よりも安くなっている。同様に、同様に、風力発電のコストは過去10年間で49%低下しており、インドで最も費用対効果の高いエネルギー源のひとつとなっている[ix]。

 

しかし、共通した課題もある。送電網のインフラが整っておらず、蓄電容量も限られているため、再生可能エネルギーを送電網に統合するのに苦戦しており、風力発電や太陽光発電プロジェクトで発電された電力が無駄に消費され、再生可能エネルギーの出力抑制につながっている。こうした課題に対処するため、政府は送電網のインフラ整備と蓄電能力の向上を目指した数々のイニシアチブを打ち出しており、「国家エネルギー貯蔵ミッション」では2025年までに40GWの貯蔵容量を導入する目標を掲げている。政府はまた、送電網の需要に応じて電力消費を調整するデマンドレスポンスなどの革新的技術の利用も推進している[x]。

 

これら課題を、国際協力による技術革新で解決しようという動きもみられる。2021年6月、インドは、加盟国間にインキュベーター・ネットワークを構築するミッション・イノベーション・クリーンテクノロジー・エクスチェンジ(MissionInnovation Clean Technology Exchange)を立ち上げ、科学技術協力関係を強化している。今後10年以内にクリーンエネルギーを安価で誰もが利用できるようにするための研究開発および行動促進キャンペーンを行う。さらに、2022年11月には、スウェーデンとのエネルギー分野における相互支援のため、インド・スウェーデン・グリーン・トランジション・パートナーシップ(India-SwedenGreen Transition Partnership)を締結した。日本も科学技術振興機構(JST)や日本学術振興会(JSPS)などによる科学技術分野でのインドとの連携・協力関係が構築されてきている[xi]。

 


[i] https://economictimes.indiatimes.com/industry/renewables/how-india-became-a-frontrunner-in-the-global-renewable-energy-market/articleshow/100271905.cms?from=mdr

[ii] https://www.iea.org/commentaries/india-s-clean-energy-transition-is-rapidly-underway-benefiting-the-entire-world

[iii] https://www.ibef.org/download/1683620023_Renewable-Energy-Feb2023.pdf(8ページ)

[iv] https://www.ibef.org/download/1683620023_Renewable-Energy-Feb2023.pdf(8ページ)

https://www.ibef.org/download/Renewable-Energy-October-2019.pdf(8ページ)

[v] https://www.ibef.org/download/1683620023_Renewable-Energy-Feb2023.pdf(10ページ、19ページ)

[vi] https://economictimes.indiatimes.com/industry/renewables/will-indias-new-wind-energy-push-make-green-jobs-fly/articleshow/100993990.cms?from=mdr

https://www.ibef.org/industry/renewable-energy

[vii] https://energy.economictimes.indiatimes.com/news/oil-and-gas/union-budget-2023-an-accelerator-for-biofuels/97248561

https://www.ibef.org/download/1683620023_Renewable-Energy-Feb2023.pdf(25ページ)

https://www.greencarcongress.com/2023/07/20230708-india.html

[viii] https://www.ibef.org/industry/renewable-energy

https://economictimes.indiatimes.com/industry/renewables/how-india-became-a-frontrunner-in-the-global-renewable-energy-market/articleshow/100271905.cms?from=mdr

[ix] https://economictimes.indiatimes.com/industry/renewables/how-india-became-a-frontrunner-in-the-global-renewable-energy-market/articleshow/100271905.cms?from=mdr

[x] https://economictimes.indiatimes.com/industry/renewables/how-india-became-a-frontrunner-in-the-global-renewable-energy-market/articleshow/100271905.cms?from=mdr

[xi] https://www.ibef.org/download/1683620023_Renewable-Energy-Feb2023.pdf(18ページ)

https://www.ibef.org/blogs/mission-innovation-clean-tech-exchange

https://www.financialexpress.com/lifestyle/science/green-transition-partnership-india-

https://spap.jst.go.jp/india/news/230305/topic_ni_04.html

 

無料メールマガジン登録
市場調査レポート、コラム、セミナー情報をお届けします。
個人情報の取扱についてプライバシーポリシー
無料メールマガジンの登録を受け付けました。
Oops! Something went wrong while submitting the form.

← 前の記事へ

これより前の記事はありません

次の記事へ →

これより新しい記事はありません

CONTACT

サービスに関するお問い合わせ、
ご相談はこちらからご連絡ください。

サービスに関するお問い合わせ、ご相談はこちらからご連絡ください。

Top