コラム

インドの気候テックスタートアップ~気候変動が深刻な影響を及ぼす中、それらに対抗するソリューションを提供するスタートアップが登場~

Published on
Feb 12, 2024

昨今、気候変動の影響で、重大な被害を及ぼすサイクロンや洪水などのニュースが世界各国で見られ、日本でも線状降水帯など、今まで耳にしなかったような気象用語が登場することが多くなっているが、インドも、気候変動によって多大な影響を受けている。

世界銀行によると、多様な気候帯を抱える広大で変化に富んだ地形をもつインドは、特に気候変動の影響を受けやすく、インド国民の80%以上が、気候変動による災害の危機にさらされている地域に住んでいる、という[1]。また、インドの干ばつが発生しやすい地域は 1997年以来57%増加しており、大雨の発生件数は2012年以来ほぼ85%増加した[2]。インドの気候脆弱性の高さは様々なところでとりあげられており、英金融機関HSBCが2018年に発表したレポートでは、インドは気候変動の影響を最も受けやすい国とされた(調査対象67か国中1位)[3]。

すでに1950年代以降、インドの雨季(モンスーン)降水量の変動が始まっており、豪雨の頻度も増加している。世界の平均気温が2℃上昇することで、インドの雨季は予測不可能になるといい、インドの多くの地域での干ばつの頻発、大規模な洪水のリスクも高まっている[4]。

過去10年間だけでも、異常気象によるインドの経済損失は2倍になった、という発表もある[5]。

昨年も例外なく、異常気象による被害の報道はインド各地でされている。インド北部の山岳地帯に位置するヒマーチャル・プラデシュ州、ウッタラカンド州では、8月の第3~第4週にかけて、数回の豪雨が発生した影響で、洪水が発生、鉄砲水や地滑りにより家屋やインフラが流され、多大な人命損失をもたらしたうえ、農作物や家畜にも大きな被害を及ぼした[6]。これら被害は一度で収まらず、長期化する雨季と豪雨で数回にわたる被害が、さらなるダメージにつながった。

南部に位置するタミルナド州でも、洪水で大きな被害が出ている。昨年12月頭には、サイクロン・ミチャウンが同州を襲い、その約3週間後には、州の一部で集中豪雨に見舞われ、鉄砲水によりかなりの範囲で水没し、家屋の破壊などが起きたという[i]。雨量はたった2日間で400ミリ以上に到達、この雨量は通常1年間の降雨量の約半分に相当する。

一方、干ばつも問題となっており、昨年夏にはインドが歴史的な干ばつに見舞われ、砂糖や綿花などの農産物の生産量が低下、世界供給への悪影響、ならびに食料価格のインフレが長期化する懸念が高まっていると報道された[ii]。

 

気候変動に対抗しようとする、インドの気候テック企業への投資は進んでおり、Bloomberg NEFのレポートによると、2021年には1,650億米ドルの資金調達を実現したという[iii]。しかしその内訳をみると685億米ドルがエネルギー関連、673億米ドルがクリーンモビリティ(EV関連)と、これら2分野で8割以上を占める[iv]。投資関係者によると、最近の投資の焦点は、クリーンモビリティから別の分野に関心が移っていく兆しがあるという[v]。しかしながら、気候変動に関連する技術開発には時間を要するため、この動きが本格化するには時間がかかるのではと、投資関係者は見ている。

 

こういった中、革新的なアイデアや技術を持つ気候テックのスタートアップが登場している。以下に、近年登場したインドスタートアップをいくつか紹介する。

 

水インフラの自動清掃・予測メンテナンスのSonalias[vi]

2018年創業。IITマドラス校から生まれたディープテックと気候技術のスタートアップ。水と衛生部門の変革に特化したインドのユニークな資産管理ベンチャーを標榜している。

同社の中核となるのは、水に関するパイプラインや浄化槽、マンホールなどの資産管理・メンテナンスを自動で行うことが可能な安価なロボットソリューションであり、掘削等を必要とせずにパイプラインにアクセスできるよう開発・設計されている。直径90-1500mmのあらゆる材質の上下水道パイプラインに対応しており、センサー・カメラを搭載して検査・診断結果をデータとして送信、同じく同社の開発したクラウドベースのダッシュボードSwasth AIを経由し、予測メンテナンスレポートを提供する。インド初の浄化槽・マンホール清掃ロボットHomosepも開発、清掃の自動化を実現した。

創業からわずか2年間で、インド15州、30以上の都市にソリューションを提供、より小径のパイプラインにも使用できる、さらに小型のロボットソリューションを開発することで、より幅広い需要に対応している。

これら取り組みは注目され、Economic Times 紙による2022年のBest on Campus Startup、YourStory紙による2022年有望スタートアップ トップ30など、複数の賞を受賞している[vii]。

 

低温廃熱をエネルギーに転換 Hrimtron Energy[viii]

2022年と創業間もないスタートアップ。製造業においてそのプロセスで使用される炉、ヒーター、ボイラー、釜などを加熱する際のエネルギーは、30-40%が排気として大気中に廃棄されるという。300℃以上の高温排ガスについては、CHP技術を使用した予熱またはコージェネレーションのプロセスですでに利用されているが、まだ採用されていない300℃未満の排ガスを活用する装置を開発。同装置は70℃~250℃の廃熱に対応しており、さらに酸素燃料使用ソリューションにより、システム内で物理的な炭素回収装置を設置し、廃熱をエネルギーに転換するだけでなく、炭素回収も実現した[ix]。

 

気候変動リスクを定量化、投資判断へ活用 Blue SkyAnalytics[x]

2018年グルグラム創業。AIを搭載したインフラストラクチャを使用して、暑さ指数、大気質、洪水リスクなどの気候に関する衛星データを収集・分析する。気候リスクを定量化し、持続可能な投資判断を行う材料を提供する[xi]。2020年7月、ビーネクストが主導するシードファンディングラウンドで120万米ドルを獲得している。

エココインを獲得し、環境に気軽に貢献できるアプリ SUP-Eco[xii]

気候変動に対する個人の社会的責任に注目したスタートアップ。様々なエコ活動の実施や、エコ製品の購入、友人への推奨やクイズへの回答など、ゲーム感覚でエココインを獲得し、貯めることができる。貯まったエココインは、苗木の植樹や慈善団体への寄付、気候変動や持続可能性に取り組む企業の提供する製品・サービスへ引き換えることが可能[xiii]。

ここに取り上げたものはほんの一部に過ぎないが、新しい・今までにない視点から、気候変動に対抗するビジネスが日々生まれている。開発に長期間かかるものでも、まずは可能なところから開始し、徐々に可能性を広げていく、といったやり方もみられる。どんな小さなアイデアでも生かせるヒントを、インドのスタートアップから得るのも一つの

[1] https://www.worldbank.org/en/country/india/brief/advancing-climate-adaptation-building-resilience-to-climate-change-in-india

[2]https://www.worldbank.org/en/news/feature/2023/08/17/india-managing-the-complex-problem-of-floods-and-droughts

[3] https://www.reuters.com/article/climatechange-hsbc-idJPKBN1GW0UD

[4]https://www.worldbank.org/en/news/feature/2013/06/19/india-climate-change-impacts

[5]https://www.unicef.org/india/what-we-do/climate-change

[6] https://reliefweb.int/report/india/india-flood-2023-dref-operation-no-mdrin028

[i]https://edition.cnn.com/2023/12/22/india/india-tamil-nadu-flood-rain-weather-intl-hnk/index.html

[ii]https://asia.nikkei.com/Business/Markets/Commodities/India-s-historic-droughts-drive-up-sugar-and-cotton-prices

[iii]https://economictimes.indiatimes.com/small-biz/entrepreneurship/climate-tech-saw-165-billion-investment-but-there-is-need-for-more-entrepreneurial-efforts/articleshow/90582916.cms?from=mdr

[iv]https://economictimes.indiatimes.com/small-biz/entrepreneurship/climate-tech-saw-165-billion-investment-but-there-is-need-for-more-entrepreneurial-efforts/articleshow/90582916.cms?from=mdr

[v]https://inc42.com/features/6-climate-tech-predictions-for-2024/

[vi]https://www.solinas.in/endobot/

[vii]https://www.linkedin.com/company/solinasin/?originalSubdomain=in

[viii] https://www.hrimtronenergy.com/

[ix] https://www.f6s.com/company/hrimtron-energy

[x]https://blueskyhq.io/

[xi]https://www.invc.news/ja/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%89%E3%82%92%E6%8B%A0%E7%82%B9%E3%81%A8%E3%81%99%E3%82%8B%E6%B0%97%E5%80%99%E6%8A%80%E8%A1%93%E3%81%AE%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%88%E3%82%A2%E3%83%83%E3%83%97%E3%80%81bl/

[xii] https://supapp.in/

[xiii] https://www.f6s.com/company/sup-ecoapp

無料メールマガジン登録
市場調査レポート、コラム、セミナー情報をお届けします。
個人情報の取扱についてプライバシーポリシー
無料メールマガジンの登録を受け付けました。
Oops! Something went wrong while submitting the form.

← 前の記事へ

これより前の記事はありません

次の記事へ →

これより新しい記事はありません

CONTACT

サービスに関するお問い合わせ、
ご相談はこちらからご連絡ください。

サービスに関するお問い合わせ、ご相談はこちらからご連絡ください。

Top