コラム

インドEラーニング市場~ ネット普及に伴い拡大・多様化が進行、教育機会をより 広く提供するため国も注力。世界の財団や投資家からも 注目を集める ~

Published on
Apr 8, 2019

市場概況

インドのEラーニング市場規模は2016年時点で2億4,700万米ドル。2021年には19億6,400万米ドルに到達する見込みだ[i]

Eラーニング市場は1.初等・中等教育補助、2.試験対策、3.再教育とオンライン資格取得、4.高等教育、5.言語と趣味の5つに分けられる。それぞれの2016年度の市場規模と2021年の市場規模予測値は下記の通り[ii]

分野別で、2016年~2021年の平均成長率が最も高いのは試験対策で64%。市場の伸びをけん引するのはエンジニアリング分野や政府系サービスの試験対策分野の伸びと、競争社会激化による受験者増など。次いで初等・中等教育補助が60%で、試験合格だけでなく科目に対するより深い知識探究や中小都市へのインターネット普及が背景にある。次いで言語と趣味が42%、英語学習利用が最も多く、多様なカテゴリが増えているものの、1人あたりの支払額が少ないのが特徴的だ。高等教育の伸長率は41%、オンラインMBAが最もよく利用されている。再教育とオンライン資格の伸びは38%で、技術分野での利用が多い[iii]

インドのEラーニング市場の利用者は、学生と有職者に分けられる。学校教育に関するサービスは学生利用が中心だが、再教育とオンライン資格はIT業界の有職者が大半を占めており、試験対策は学生と有識者の半々となっている。

市場をけん引しているのはインターネットおよびスマホの普及だ。インターネットの普及率は2016年時点で31%、4億900万人。2021年には7億3,500万人まで増える見込みだ。またスマホの利用人数は2016年時点で2億9千万人に到達している。これらを背景に、有料のEラーニング利用者数は2016年時点で157万人、2021年には960万人まで伸びるとされている[iv]

人材開発省(MHRD)は2003年、国立技術向上プログラム(NPTEL)を開始した[v]。世界でも有数の大規模な政策で、インド工科大学(IITs)とインド理科大学(IISc)の授業をインターネット上で無料配信する国家プロジェクトである。IITとIIT以外の工科系大学の教育格差を埋めることが目的。インドが誇る優秀な大学であるIITは合格率が非常に低く、狭き門となっている。一方IIT以外の工科系大学の教育環境はその質がばらばらのため、こうした取り組みが始まった。土木工学、コンピュータ科学・工学、電気工学、電子通信工学、機械工学の5分野で235のWeb/ビデオコースが開発された。2014年にはサーティフィケーションコースも開講。航空宇宙工学、自動車エンジニアリング、電気工学、環境科学、数学など27の分野で、2018年7月には269コースが開講。コース期間は4週間、8週間、12週間。コース終了後には有料の試験に合格すれば修了証(サティフィケート)を発行する。4億6千万人の聴講者の大半はインドの学生だが、アメリカなど諸外国からのアクセスも増えているという。Youtubeチャンネルの登録者数は1,300万人、視聴者数は3億千万人に上る。2014年3月~2018年4月の間で、修了したコースは740、3,600万人が受講し、269万人が試験を受験した。2018年6月にはIBMと提携し12週間のブロックチェーンに特化した学生向けコースを開始している[vi]

企業動向

下記にインドのEラーニング会社を幾つか挙げる。

・Byju’s[vii]

2011年創業、ベンガルール拠点の数学のeラーニング企業。2015年に学生向けのeラーニングアプリケーション(アプリ)をローンチ、2016年にはアジア企業として初めてフェイスブック最高経営責任者(CEO)のザッカーバーグ氏と妻プリシラ氏が設立した財団「チャン・ザッカーバーグ・イニシアチブ(CZI)」から資金援助を受けている。2018年にユニコーンとなった。クラス4~5(初等学校高学年向け)、クラス6~10(上級初等学校および中学校向け)、クラス11~12(高校向け)の3コースを展開している。登録生徒数は2,000万人、有料サービス利用者数は126万人に及ぶ。1人当たりの平均アプリ学習時間は1時間程度だという。2015年以降の3年間は年間売上高が前年比100%増で伸びており、2018年度は140億ルピーを目標に掲げている。同社はサービスを米国、英国、オーストラリアといった英語圏にも拡大する計画で、2018年7月にはさらなる増資のためにソフトバンクをはじめとする投資家と協議中と報道されている。2億~2億5000万米ドルを調達するとみられており、この増資が実現すれば、同社の総資産額は20億米ドルとなる見込み。インド国内事業も強化しており、600人を新規雇用、特に中小都市圏に注力する計画[viii]

・Khan Academy

2008年創業のNPO、受講料完全無料のEラーニングシステムを展開している。本社はカリフォルニアで従業員数は90人、2004年に創業者のサルマン・カーン氏がいとこにYoutube動画を使って数学の家庭教師を始めたのがきっかけで、教材ビデオの制作とYoutubeへの投稿を開始。開始から6年で独自教材の数は2千以上、1日あたりの動画再生回数は10万回に[ix]。ビルゲイツ、グーグル、タタグループなどの財団が協賛している。インドのユーザー数は5番目に多く、2012年からは視聴回数が年間45%で伸びている。ユーザーの40%が高校生または大学生だという。2016年時点で190か国に展開、登録生徒数は3,100万人、登録教師数は100万人、月間サイトアクセス件数は1,500万件に上る。インド国内では100万人が利用しており、インドの教育カリキュラムに対応しているのは数学と物理のみで、2科目だけで5,500の動画、2万以上の問題がアップデートされている。その他の社会科学などの科目に対してもインドカリキュラムをローンチする計画。また動画の言語は英語のみだが、2018年内にグジャラート語、ベンガル語、ヒンディー語のバージョンも展開するという。2017年11月にはカルナタカ州政府と提携、州内の公立校にカンナダ語の教育コンテンツを提供する[x]

・Edureka

2011年創業、ベンガルール拠点のEラーニング企業。ビッグデータ、クラウドコンピューティング、AI、ブロックチェーン、データサイエンスといった分野のコースを展開している。100か国以上に展開。2018年6月にはインドの投資会社Leo Capital Indiaから200万米ドルを調達している[xi]

・Microsoft

2018年6月、マイクロソフトのインド現地法人が無料オンラインコースを開設した。法律のオンライン資格サービスを提供するMylawと提携し、2フェーズにわけたコースとなる。対象は学生、有職者、法律業界関係者と幅広い。第1フェーズは「クラウドコンピューティング・データ保護規制」の動画配信コースで、プライバシー、データ保護、クラウド経由のデータ転送やデータセキュリティなどを学ぶ。第2フェーズは「クラウドコンピューティング・データ保護コンプライアンス」で、EU一般データ保護規則(GDPR)やインドIT法などに基づく枠組みを学ぶカリキュラムで、今年9月の開講が予定されている。受講時間は2~3時間となっている[xii]。また2019年3月には都市開発省と提携、衛星環境向上政策「クリーンインディア(Swachh Bharat)」のEラーニング教育を発表。クラウドベースのポータルサイト「Sangamプラットフォーム」経由で、全国4千都市以上で行われている事業に関わる公務員、エンジニア、現場監督、現場スタッフなどを教育する。各事業ごとにカスタマイズされた教育コース、低帯域地域のためのオフライン教育用ビデオ動画などを提供する。第2弾として、市民への公衆衛生概念のEラーニングも計画されている。[xiii]

現地消費トレンド

・人事研修庁(Department of Personal and Training)によると、州政府公務員に対するEラーニング実施人数で、テランガナ州が2年連続で国内トップとなった。州内の教育機関MCR HRD が実行主体で、2018年度のEラーニング実施人数は2万人超、2017年度と合わせて4万人が受講した。内容はソフトスキル研修12コースと、情報開示制度(RTI)、オフィス業務、財務経理の専門研修3コースがある。MCR HRDは他にもパンジャブ州、マディヤプラデシュ州、ジャム&カシミール、オディシャ州、ウッタラカンド州、グジャラート州のEラーニング教育者の養成、地域言語でのコース開発を行っている。政府系シンクタンクのNITI Aayogの養成により、持続可能な開発(SDG)に関する全国的Eラーニング

プログラムの開発実績もある[xiv]

無料メールマガジン登録
市場調査レポート、コラム、セミナー情報をお届けします。
個人情報の取扱についてプライバシーポリシー
無料メールマガジンの登録を受け付けました。
Oops! Something went wrong while submitting the form.

← 前の記事へ

これより前の記事はありません

次の記事へ →

これより新しい記事はありません

CONTACT

サービスに関するお問い合わせ、
ご相談はこちらからご連絡ください。

サービスに関するお問い合わせ、ご相談はこちらからご連絡ください。

Top