コラム

インドの交通マネジメント市場 ~ITS導入は一部大都市から始まりつつあり、スマートシティ構想とともに市場拡大への期待大~

Published on
Aug 17, 2018

市場規模

2017年6月にインド地場調査会社のMarketsandMarketsが発表したレポートによると、世界の交通マネジメント市場は2022年に594億8千万米ドルに到達すると見込まれている(注1)。インド単体の市場規模の数値は公開されておらず、インド国内には未だに信号システムのない農村地区なども多くあり、その需要は高い。

市場動向

世界ではよりITを駆使したインテリジェント交通システム(Intelligent Transportation System、以下ITS)が主流になってきており、インドにもまだ大都市圏中心に導入が始まっている。ITSとは、交通量やインフラ周りを、センサーやコミュニケーションシステム、GPSなどの技術を用いて管理するシステム。インドでは徐々にではあるが大都市圏からより規模の小さい都市にITSの導入が移行してきており、その内容は交通信号管理や駐車場管理、公共交通機関の各種管理や高速道路での料金徴収などの分野が挙げられる(注2)。下記に各都市で導入されているITSをはじめとする交通管理システムの事例を挙げる。

デリー

デリーのITS導入は10年以上前にさかのぼる。2006年4月に設立されたDIMTS(Delhi Integrated Multi-Modal Transit System)が、ITSをはじめとする交通システムを管理している(注3)。デリーの交通渋滞は深刻化しており、政府機関からの提言や投資も盛んだ。デリー警察は2014年頃からITSの導入を提言。これを受け2015年には中央政府から6億ルピーが拠出されており、特に渋滞のひどい50か所に電光掲示板の設置をすすめ、リアルタイムの情報共有を促進してきた。これとは別にデリー政府が信号機や方向指示器の導入に5千万ルピー、交通通信インフラ導入に4千万ルピーを拠出している(注4)

アンドラプラデシュ州ヴィジャヤワダ

2018年6月、ヴィジャヤワダ自治体(Vijayawada Municipal Corporation、以下VMC)は、東京で採用されている交通システムを市内に導入すると発表した。VMC職員が数か月前に東京を訪問し、交通システム導入のための研修を受講済みだという。市内には信号の故障で人手による交通管理が発生することも多く、渋滞につながっている。新システムでは、太陽光駆動の監視カメラとマイクを設置、中央管理センターに情報を集約し、交通量によって信号操作を管理する仕組み。近日中に州政府にプロポーザルが提出される予定だ(注5)

ウッタルプラデシュ州カンプール

2018年6月、Yogi州首相がカンプールでインテリジェント交通管理システムを発表、同システムを用い、自身で二輪運転の交通違反者に交通違反切符を発行した(注6)。IT産業が盛んな同州では、IT産業からはITを利用した交通管理システムはIT産業と競合するという見方もあったが、州政府がバスの電子チケット化、スマートカード導入による支払キャッシュレス化、特定ガソリンスタンドの自動化、GPSや監視システム導入、携帯アプリによる市民への交通情報配信などの政策でコスト削減が可能といった具体的な政策を提言している(注7)

企業動向

KELTON

1973年設立、ケララ州政府傘下の公営企業で、電子産業に特化している。設立から5年で5千人以上の雇用を創出(注8)。トリバンドラムを世界有数の電子産業の集積地とした立役者でもある。事業の一環として交通コントロールシステムも開発している。2012年にはケララ州初となる交通量によって作動する自動信号システム「Wi-Trac」をVellayambalam交差点に設置。ピーク時間には1時間に1万台の車両が通過する同州内でも最も交通量が多い交差点の1つ。交差点の各4つ角にカメラ付きの監視ユニットを設置。カメラ機器はベルギーからの輸入だ。ワイヤレスで交通状況をモニタリングし、信号を切り替え。「Wi-Trac」は太陽光で作動している(注9)。ほかにも、ケララ州内500か所に監視カメラを設置、州内の公道には100以上の速度制限測定器を導入している(注10)。2018年5月にはケララ州の交通局から交通管理業務を年間3,910万ルピーで受注。Ernakulam地区の管制センターで州内の交通状況を監視、交通ルール違反者の摘発、罰金収集、交通設備の維持管理を行う。州政府は1日あたり2,500~3千件の交通違反を摘発してきたが、同社が担当することによって5千件まで対応が可能だという(注11)

METRO INFRASYS

デリー拠点の交通システム開発会社。創業15年以上。料金所や駐車場、高速道路や公道における各交通管理システムなどを開発しており、国際基準の開発拠点をハリヤナ州マネサールに構える(注12)。従業員数は100人超、アメリカにも拠点を構える。同社の交通システムを通過する車両数は1日あたり10億台、料金所での累計回収額は年間1億米ドル以上に上る。2016年12月にはインド初となる料金所における携帯アプリの支払システムを発売。カナダのフィンテック企業First Global Dataのインド子会社MSEWA Software Solutionとの提携によるもので、アプリ名は「Highway Saathi」。銀行口座や電子決済口座とリンクしており、料金所に設置してあるタグにかざして支払う仕組み。国内50か所の料金所にタグが設置されており(2016年12月末時点)、料金所の渋滞解消にもつながっている(注13)

NIPPON SIGNAL INDIA

日本信号のインド現地法人。2011年にチェンナイの都市高速鉄道計画で自動改札機システムを受注している(注14)。その後2015年11月にニューデリーに現地法人を設立、資本金は4億ルピーで、鉄道信号、交通情報システム、AFC、制御機器等の製造及び販売を手掛けている(注15)。2013年にはデリー・メトロの新線向け鉄道信号システムを約37億円で受注。インドのメトロで日系企業が信号システムを受注する初の事例となった。2017年5月にはアーメダバード・メトロの信号プロジェクトも受注(注16)。運行管理装置、電子連動装置、自動列車防護装置といったシステム一式を納入する。2018年3月にはバンガロール拠点、インド国鉄向け事業が主力で、鉄道信号システムの設計や製造、保守などを手掛けるGG Tronics Indiaと資本業務提携、株式を34%取得。提携でインド国内の信号システムの拡販につなげたい考えだ(注17)

KYOSAN INDIA

京三製作所のインド現地法人。2013年1月にニューデリーに現地法人を設立、資本金は3億5千万ルピー(注18)。鉄道の新線建設計画や信号設備の近代化などの需要を見込み、鉄道信号機器などの販売を行っている。2017年11月にはハイデラバードメトロの電子連動装置が稼働開始。同装置はインド鉄道省の研究開発機関Research Designs and Standards Organization(RDSO)から日系信号メーカーとして初めて型式認証を受けた信号システム(注19)。インド国鉄150駅以上に受注実績がある(2017年12月末時点)。2018年6月には「西回廊」と呼ばれる貨物専用鉄道のうちラジャスタン州Rewari~ウッタルプラデシュ州Dadri間の125km区間の信号設備を受注。既に受注済のグジャラート州Vadodara~マハラシュトラ州Mumbai間と合わせ、総延長547kmの信号設備を納入する。完成予定は2020年(注20)

現地消費トレンド

・インド政府系のシンクタンクNITI Aayogは、インド国内のスマートモビリティを促進するため、ITSの専門家委員会を設立した。委員会は中央政府、州政府、外資系ITS企業やインド企業など様々な分野から構成されている。交通管理、駐車場管理、交通ルールの電子化、車両監視・管理システム、ITSの技術基準の策定といった分野でのワーキンググループが予定されており、将来的には国としてのITSポリシーの策定も検討しているという。これに先立ち、NITI Aayogはジュネーブの国際団体機関である国際道路連盟(IRF)とインドのITS分野において協力する意向表明書に署名を行った(注21)

・2017年11月、住宅都市開発省が各都市の交通システムを表彰した。ハイデラバードの「H-TRIM」が最優秀イニシアティブ賞を受賞。ハイデラバードの登録車両数は390万台以上、1日600台超のスピードで増加を続けている。車両密度は1kmあたり723台と国内で2番目に密度の高い都市となっている。しかし交通システムは20年以上使い古されている信号が散見されるなど、近代化とは程遠かった。「H-TRIM」は2012年に導入された24時間の信号管理システム。221か所の交差点の車両交通量を分析し、データに基づいた信号運営を展開。その情報は市民にSMSで通達される仕組み。このシステムにより、信号待ちの時間が約33%削減されたという。このほか、最優秀市バスシステム賞をスーラト自治公社のバスサービスが受賞、マイソールのサイクルシェアリングが最優秀非動力輸送賞を受賞した。ほかにもコチのメトロ、ボパールのサイクルシェアリング、アンダマンの女性専用バスサービスなども選出された(注22)

・車を運転しているインド人の25%が運転中に携帯電話を使用し、10%が信号を無視しているという。2018年4~5月の1か月間、デリー、グルガオン、ジャイプール、フェロズプール(パンジャブ州)の4都市の公立学校17校の生徒1万人を対象に、米フォードとIITの生徒たちの組織IRSC(India Road Safety Collaboration)が調査を行ったもの。ドライブ中の親の運転行動を聴取したもので、自分の家族が同乗していても交通ルールを違反する親が多いことが浮き彫りになった。政府発表によると、2016年には運転中の携帯電話使用で2,100人が死亡しており、規制・管理強化が期待されている。

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