コラム

インドR&D市場~世界7位の投資額に従事者数は1.5倍増。日系企業も開発拠点を続々新設、官民連携がより強化~

Published on
Nov 5, 2019

市場規模

ユネスコが2017年に発表した「UIS 2017 R&D Statistics Survey」[i]によると、世界161か国・テリトリーにおける研究開発投資額(購買力平価PPP換算)において、インドは7位となった。その総額は480.63億米ドル、その内訳は政府支出が60.5%、産業支出が35.5%、学術支出が4%を占めた。

                                                                       【UIS 2017 R&D支出国別ランキング】(単位:10億米ドル ー PPP換算)[ii-1] [ii-2]

市場動向

多国籍企業(Multinational Corporation:MNC)がインド国内に保有する研究開発施設数は順調に伸びており、2010年の721施設から2015年は928施設に増加。2018年には1,000施設を突破した。従業者数も施設数を上回る伸びで伸長、1施設あたりの従業者数は2010年の282.9人から2018年には432.8人と1.5倍増となった。

                                                                        【多国籍企業の保有するインド国内の研究開発施設数・従業者数の推移】[iii-1] [iii-2] [iii-3]

2015年における研究開発の従業者数内訳で、業界別で最も多いのはソフトウェア・インターネット業界で、121,650人と全従業者数の38%を占める。次いで電気・電子機器業界、通信・ネットワーク業界、自動車業界がそれぞれ約3万人と横並びの状態にある。都市ではバンガロールが圧倒的であり、全体の半数近くを占める。

【業界別・都市別研究開発従業者数(2015年】

企業動向
前出の「2016年EU産業研究開発投資スコアボード」によると、2015年度の世界トップ2,500社のランキングに含まれるインド企業10社の中で、最も支出額が多かったのは自動車業界のTata Motorsで1,944億4千万ルピー(JSR除いても239.8億ルピーでインド1位)、次いで製薬・バイオテックのSun Pharmaが223.4億ルピーとなっている。下記に当該インド企業10社と、上位2社の概要を挙げる。

                                                                                                    【インドR&D投資トップ10企業】[iv]

Tata Motors[v-1] [v-2] [v-3]
地場財閥タタ・グループ傘下の自動車メーカー。創業は1945年で従業員数は8万人を超える。2018年度の年間売上高は437億米ドル、同年度世界累計販売台数は127万台を超え、グループ全体で175カ国以上に拠点を持つ。研究開発・設計施設をインドのプネ、ジャムシェドプル、ラクナウの3か所に置く他、英国、イタリアに構えており、5千人以上の設計者・技術者・科学者を抱える。排ガス規制Bharat Stage 6 (BS6)開発のための多層階ソーク室、アジア初の電波暗室、インド発のフルビークルクラッシュテスト施設、インド唯一の全天候テスト施設など、最新設備にアップグレードされたエンドツーエンドのパワートレイン開発施設を誇り、新コンセプトカーやエンジン開発、安全性能向上など、多様な研究開発を行っている。

・Sun Pharmaceutical Industries [vi-1] [vi-2] [vi-3] [vi-4]
1983年創業、本社はムンバイ。米国、中国、欧州、アフリカなど世界各地で企業買収を行っており、2014年にインド地場の製薬企業Ranbaxy Laboratoriesを買収、世界5位のジェネリック医薬品メーカーとなった。2016年にはNovartisが日本で販売する14ブランドを取得し、日本市場に参入している。研究開発センターは1991年に最初の研究所が設立された。その後拠点を増やし、現在ではインドに4カ所(うちバドダラの1か所は今年8月に閉鎖を発表)、米国に4カ所、イスラエルに1カ所、カナダに1カ所の計10カ所に置き、ジェネリック、医薬品原料(Active Pharmaceutical Ingredients)、新ドラッグデリバリーシステム(Novel Drug Delivery Systems)、新規化合物(New Chemical Entity)などの開発に2,000人の科学者が従事している。研究開発に対する投資額は年間売り上げの7~8%を占めるという。

現地消費トレンド

日本企業もインドにおけるR&D拠点開設・強化を進めている。

パナソニック[vii-1] [vii-2] [vii-3]

2017年4月、カルナタカ州ベンガルルで世界市場向けの商品開発を担うR&Dセンターを開設した。地場大手財閥タタ・グループ傘下のTata Elxsiと連携し、人工知能(AI)やロボティクス分野で家電に搭載できる技術開発を進める。パナソニックは遡ること2011年5月にインド初のR&D拠点「パナソニックR&Dセンターインド」をハリヤナ州グルガオンに開設、2016年12月には、上記世界市場向けR&Dセンター設立の発表とともに、現地密着商品の開発加速のため、インド市場向けの商品設計を行う設計部門の強化を発表している。

NEC[viii-1] [viii-2]

2018年7月、新興国向けソリューション及び技術のR&D拠点「NEC Laboratories India」をムンバイに開設。NEC現地法人のNEC Technologies India Private Limited(NECTI)内に設置。NECTI傘下のNECTI Center of Excellenceとともに新興国向け社会ソリューションの開発・事業化を推進する。当拠点は2019年10月現在、ムンバイ、ベンガルルの2か所となり、AIベースのソリューションに注力、またIITボンベイ校との連携で運輸関連の共同研究も実施している。

楽天[ix]

2018年11月30日、楽天は自社研究機関「楽天技術研究所」の新規海外拠点として、カルナタカ州ベンガルルに「楽天技術研究所Bengaluru」を開設。世界で6拠点目となる当研究所では、ディープラーニングやディープラーニングや、コンピュータビジョンのほか、物流倉庫業務における無人ロボット運用に関する領域を中心に、先進技術を使った革新的なサービスにつながる新しい研究を推進する計画。

朝日電装[x]

2019年1月、バンガロールに研究開発拠点「ASAHIDENSO R&D INDIA PVT. LTD」を設立。インド市場のニーズ把握と開発現地化を進めていくとともに、最新のIT技術を取り入れた新しい製品についても開発を行い、世界に発信していく、という。

マルチスズキ[xi]

2018年5月、R&D予算を15億米ドルと発表。より激しくなる競合状況の中、トップシェアを維持すること、2020年4月に開始される排ガス規制Bharat VIへの対応、ならびにトヨタ自動車とともに実施するハイブリッド開発に向けた取り組みに投資する、という。

インドに進出するグローバル企業も、さらなるR&D投資に意欲を見せており、インド政府に対し、インド政府にR&D投資をより促進するための手続きのシングルウインドウ化を提案[xii-1] [xii-2]。2019年7月16日に開催された、インド政府の第4回科学技術革新諮問委員会(PM-STIAC)において、他産業分野からの35社近くのMNCの意見を取りまとめて行われた。これにより、R&Dへのさらなる投資促進の他、研究およびイノベーションパートナーシップの官民連携がより強化される、とも提言されている。

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