インドのEV政策は、第一次モディ政権の2015年から開始[i]、すでに10年近くが経とうとしている。JMKResearchのレポートによると、2023年度のEV(二輪・三輪含む)累計販売台数は413万4,077台[ii]、前年の累計販売台数233万7,761台[iii]と1年間で倍近くの増加となっている。
インド政府は今年3月末に終了したEV振興政策「FAMEII」に次ぐ、購入振興策「EMPS2024」を4月1日から開始(7月末日終了予定)、主に二輪・三輪の購入促進のため、50億ルピーを投じて二輪には最大1万ルピー、三輪には最大2万5千ルピー(一部大型には最大5万ルピー)の補助金が提供される。
EV全体に占める四輪車の割合はまだ少数であり、自動車全体に占める割合は小さいものの、Counterpointによると、2023年の全乗用車に占めるEVの割合は2%から24年は前年比66%で伸長し、4%に達する、と予測されている[iv]。
これらEVの普及に伴い、充電にともなう様々なソリューションが必要となる。バッテリー価格の低減や、充電ステーションの充実など、行うべきことは数多くある。そういった中、ユニークな技術やソリューションを提供するスタートアップが登場している。
【高速充電+ドアステップ充電などで、利便性と電池長寿命化をアップ】
Exponent Energy[v]
2020年、バンガロール創業の高速充電バッテリー開発スタートアップ。創業者の一人は元AtherEnergyの創業パートナー兼最高製品責任者のArunVinayak氏であり、15分以内にどんなEV車両でも0%から100%に急速充電できる技術および装置を開発。クラウドベースのバッテリーマネジメントシステムも提供しており、充電ステーションネットワークの可視化、GPSを利用した充電ステーションへのルート検索なども可能だ[vi]。
わずか15分での充電を実現することで、バッテリーにかかる負担を減らし、3千回の充電サイクルを補償している。さらに、同社の展開する充電ステーションでは、40Vから800Vまでの幅広い電圧に対応している[vii]。
HopCharge[viii]
2019年にグルガオンで創業した、オンデマンドチャージングサービスを提供するスタートアップで、EV4輪専用に設計された、リチウムイオン電池ベースの高電力充電機能を備えたポータブル・パワーバンクを搭載したバンを開発。EV4輪が駐車できるスペースがあればどこでもバンが赴き、充電できる仕組みだ。充電にかかる時間は平均36分ほどだという。同社の急速充電技術は特許取得済みだ。
EV4輪ユーザーは、アプリを通じて予約が可能で、単発利用、サブスクリプションなど、様々なメニューが選択できる。金額は1kmあたり3~4ルピー、換算すると1kWhあたり20ルピーとなり(2022年2月取材時点)、家庭での充電よりも割高にはなるものの、急速充電技術により、電池の長寿命化につながるため、長期的な視点で見たときの総保有コストの削減にもつながる[ix]。サービス地域はグルガオンから始まり、デリーNCR地域でサービス範囲を拡大している。
【廃棄物を利用した発電・バッテリー技術を提供し、環境保全に一石を投じる】
GPS Renewables[x]
2012年創業のクリーン燃料企業。IITボンベイ校卒業生2名が、バイオガス燃料事業からスタート、現在ではバイオCNG、エタノール、グリーン水素などクリーン燃料全般を手がける。
2023年8月、インド初のバイオガス燃料EVステーションを、インド政府のバイオテクノロジー産業研究支援協議会(BIRAC)とムンバイのゴミ収集サービス会社AeroCare Clean Energyの協力を得てムンバイのHaji Aliに設立した。同ステーションでバイオガス生成に使用される有機廃棄物は、近隣のホテルやレストランから回収されるという。設置されたバイオガスプラントは、1日あたり最大2トンの有機廃棄物の処理能力を持つ[xi]。
2024年6月には、国営燃料会社Indian Oilと50:50の合弁会社を設立、両社の専門知識を生かし、圧縮バイオガスプラントの全国展開を加速すると発表した[xii]。Indian Oilは全国にガスステーションを34,000展開[xiii]しており、当報道では触れられていないものの、将来的なバイオガス充電ステーションの拡充にも加速が期待される。
Nexus Power[xiv]
双子の姉妹が2019年、ブバネシュワルで立ち上げたスタートアップ。農作物残渣をEV用バッテリーに変換し、短い充電時間と優れたバッテリー寿命を実現した。作物残渣から抽出したタンパク質を使って、ライフサイクルが完了したら肥料にできる電池を目標に研究を開始、2020年にプロトタイプの製造に成功した。
2022年に商業生産を開始し、インド政府のインキュベーションプログラム「TIDE」により40万ルピーの助成金を獲得した。生分解性材料で作られたバッテリーのため、持続可能性や環境保全に貢献するだけでなく、農家から農業残渣を買い取ることで、農家にバッテリー100個につき25,000ルピーの副収入を得ることができるという[xv]。
現在、バッテリーの充電速度は50分だが、これを25分から30分に短縮することを目指している[xvi]。また、電池価格を従来のリチウムイオン電池の25-30%安価に提供することも目指している[xvii]。
Cancrie[xviii]
2020年ジャイプール創業の、ナノカーボン製造スタートアップ。共同創業者がシンガポールの修士・博士過程で見いだした、農業破棄物をバッテリー用ナノカーボンに置き換える、というアイデアから起業につながった[xix]。その後、15種のバイオマス製品を実験し、最終的にココナツ殻パウダーを主原料に選んだ。
Cancrieのカーボンは特許取得済のプロセスで製造されており、この特許技術により、従来品と比べ、表面積、細孔網、表面濡れ性、機能性が優れており、電池の分子レベルで電極板の電気化学反応を促進するという。またリチウムイオンハイブリッド電池のエネルギー密度を125%向上する、と主張している。
Cancrieは、2023年にインド電力省エネルギー効率局から「国家エネルギー効率革新賞」も受賞している。
紹介した5つのスタートアップはいずれも2010年以降創業、うち4つは2019年以降とまだ創業5年以内の企業ばかりだ。バッテリー技術に関しては、EVに止まらず、再生可能エネルギー発電の蓄電効率を上げるといったメリットもあり、将来性が期待される分野でもある。農業残渣の活用など、インドならではの視点もあり、新エネルギーにおいて先行する技術開発の、さらなる活発化が期待できそうだ。
[i]https://www.infobridgeasia.com/columns/ev-jan20
[ii] https://jmkresearch.com/electric-vehicles-published-reports/annual-india-ev-report-card-fy2024/
[iii]https://jmkresearch.com/annual-india-ev-report-card-fy2023/
[iv] https://www.counterpointresearch.com/insights/india-ev-sales-nearly-double-in-2023-to-rise-66-in-2024/
[v]https://www.exponent.energy/
[vi] https://www.dqindia.com/ather-energys-ex-cpo-launches-exponent-energy-to-simplify-energy-for-evs/
https://www.exponent.energy/application
[vii]https://thebetterindia.com/333673/best-ev-startups-in-india-electric-vehicle-innovations-range-battery-technology/#google_vignette
[viii]https://hopcharge.com/
[ix]https://timesofindia.indiatimes.com/auto/cars/worlds-first-doorstep-ev-charging-now-in-india-price-per-charge-explained/articleshow/89896373.cms
[x]https://gpsrenewables.com/
[xi] https://timesofindia.indiatimes.com/auto/electric-cars/india-first-biogas-powered-ev-charging-station-at-haji-ali-benefits-and-challenges/articleshow/93745795.cms
[xii]https://www.business-standard.com/companies/news/ioc-gps-renewables-form-joint-venture-for-sustainable-energy-solutions-124061900854_1.html
[xiii]https://iocl.com/about-indianoil
[xiv]https://nexuspower.in/
[xv] https://www.forbesindia.com/article/30-under-30/nexus-power-building-an-ev-future-beyond-lithiumion-batteries/66263/1
[xvi]https://mad4india.com/business-innovation/crop-residualev-battery/
[xvii]https://auto.economictimes.indiatimes.com/news/auto-technology/from-coconut-powder-to-crop-residue-startups-find-novel-ways-to-charge-ev-batteries/109972480
[xviii]https://www.cancrie.co/
[xix] https://thebetterindia.com/343975/electric-vehicle-battery-nanocarbon-using-coconut-waste-jaipur-cancrie-akshay-jain-mahi-singh/