コラム

GSTの抜本的改革内容が決定―実施開始以前に価格改定を始める企業も

Published on
Sep 11, 2025

インドのGST(物品サービス税)に大幅な改革が行われた。シタラマン財務相により9月3日に正式発表が行われ、実行は9月22日からとなる[i]

現在のGST税率区分は5つに分けられ、生活必需品の0%、医薬品・その他生活関連の5%、衣料品などの12%、多くの物品サービス18%、高級品28%とされている[ii]。2017年7月に導入されたGSTは、それまで州ごとに異なっていた間接税法体系を全州で統一したことで、複雑な税制を簡素化し、各企業がいずれの州でも同じ基準で経済活動を可能とする画期的な改革だった。

今回の改正は、現在の0%を除く4区分を2区分に集約することで、さらに簡素化されるとともに、約400品目が税率引き下げ対象となった。現在の12%の税率区分の多くが5%にスライドし、28%の税率区分のうちの多くが18%にスライドし[iii]、ヘアオイル、シャンプー、歯磨き粉は、従来の税率18%から5%と、大幅な税率低下となった。また、ぜいたく品やたばこなどの嗜好品に対して、新たな「罪悪品」税40%が設定された。

この計画は、8月15日のインド独立記念日にモディ首相自らが発表し、実行のタイミングを、インドで最も商戦が活発となる祝祭シーズンであるディワリ(今年は10月20日)に照準を合わせた検討が進められていたが、ディワリ前に活発化するフェスティバル商戦への適用を、各種業界団体が政府に要請を行うなどで、検討のタイミングが早まった。

この引き下げに関しては、経済界ではポジティブな見解が多くを占め、インフレの抑制、経済活動の活発化による経済伸長への貢献などが期待されている[iv]。

 

自動車業界にも、大きな追い風となりそうだ。政府発表によると、大型乗用車(長さ4m超、かつ排気量1200cc以上(ガソリン車)/排気量1500cc以上(ディーゼル車)以外は、税率28%から18%に下がり、自動車部品の多くも18%とされた[v]。大型乗用車については、28%から40%に上昇となったものの、従来28%のGSTに加え、17~22%のGST補償セス(CompentationCess、以降「補償セス」)が加算されているため、税負担率はあわせて45~50%となる。新たなGST税率適用により、自動車の補償セスは廃止されるため、実質には税率引き下げとなる[vi]。例外ともいえるのが二輪車で、350cc以下は税率28%から18%に下がる一方で、350cc以上の大型バイクは40%となる。これらの補償セスは3%のみであったため、これらに関しては負担率が11%上昇することとなる。

 

一方、炭酸飲料および加糖(甘味料含む)された飲料、カフェイン入り飲料については、従来の28%から40%に引き上げられる[vii]。実質、GST28%に加え、補償セス12%が課されていたため、税負担40%というラインは変わらないものの、当決定直前まで、炭酸飲料等を取り扱う飲料の業界団体は、これらの税率を18%に引き下げるよう要求していたが、実現はかなわなかった[viii]。一方で、果汁入り飲料(炭酸除く)、植物ベースのミルクについては、いずれも5%(以前は12%または18%)に引き下げられ、飲料については、明暗が大きく分かれた[ix]。

 

また、新たなGSTの導入に続き、州財政の税収損失を補償する目的で設定された「補償セス」も、2026年3月末に廃止される予定だ。タバコなどの嗜好品や自動車などに課される保証セス**は、2022年6月に終了する予定だったが、パンデミック期に、州への補償金不足を補うために政府が借り入れたローンの返済のために延長された[x]。

**品目により税率が決まっている。詳細については、https://gstcouncil.gov.in/sites/default/files/2024-02/gst-ready-reckoner-cgst-01052022.pdfの95ページ以降を参照のこと

中央政府は、このセスの廃止の代わりに、セス制度の大幅な再編を検討する可能性が高い、と関係筋が語っていると、CNBC-TV18が今年6月に報道している。関係者によると、閣僚委員会(GoM)は、現行のGSTセスを「健康セス」と「クリーンエネルギーセス」という2つの特定目的課徴金に置き換えることで「ほぼ合意」に達したという。「健康セス」はたばこ製品などの嗜好品に適用され、「クリーンエネルギーセス」は石炭や高級自動車などの品目が対象になり、政府の提唱する未病対策やクリーンエネルギー転換推進と足並みをそろえることとなる。

その一方で、当改正を実行するには、法的な課題が障壁になる可能性がある。現行のGST法では、新たなセスの導入を認めておらず、新たなセスの導入には、法律自体の改正が必要とする法律・税務関連の専門家もいるようだ。

この改正にはまだ時間がかかると思われるが、抜本的な税の見直しにより、経済活動にプラスに出るか、または新たな障壁になるのか、今後の動向に注目が必要だ。

 

 

[i] https://jp.reuters.com/markets/japan/funds/UFTZQU56ZVOKXKQJ7FAZJE7IDU-2025-09-03/

[ii] https://nktax.or.jp/useful/business-management-owner-5827/

[iii] https://www.livemint.com/news/ministerial-panel-endorses-two-rate-gst-structure-duty-proposed-on-sin-goods-to-replace-cess-11755769789182.html

[iv] https://jp.reuters.com/markets/japan/funds/UFTZQU56ZVOKXKQJ7FAZJE7IDU-2025-09-03/

[v] https://www.pib.gov.in/PressReleasePage.aspx?PRID=2163763

[vi] https://timesofindia.indiatimes.com/auto/news/higher-40-gst-for-big-cars-but-prices-will-still-fall-heres-why/articleshow/123690282.cms

[vii]

[viii] https://www.deccanherald.com/business/cola-to-lose-fizz-gst-hike-to-40-makes-soft-drinks-energy-drinks-costlier-3711024

[ix] https://www.deccanherald.com/business/cola-to-lose-fizz-gst-hike-to-40-makes-soft-drinks-energy-drinks-costlier-3711024

[x] https://www.cnbctv18.com/business/finance/gst-council-may-replace-compensation-cess-with-health-and-clean-energy-cesses-ws-l-19621565.htm

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