筆者は現在、デリーで暮らしています。こちらでは水道水をそのまま飲むことはできず、「蛇口からそのまま水が使える」その便利さとありがたさを痛感するようになりました。今回は、日本政府のODA支援や日本企業の取り組みを紹介しながらインドの「水インフラ」を取り上げます。
米国の国際貿易局によると、インドの水・排水処理市場は現在世界第5位の規模(約110億ドル)を誇り、2026年には180億ドルに達すると見込まれています。インドは世界人口の約18%を占めている一方で、世界の水資源のわずか4%しか保有しておらず、安全な水の確保と安定供給が長年の課題となっています。
水の供給不足は都市部でも深刻であり、デリーやベンガルールでは現在も配水システムの整備が不十分で、給水車に依存するコミュニティも存在しています。また、チェンナイは河川が少ない地形的特性からモンスーンに水供給を依存しており、安定的かつ多様な水源へのアクセス確保が急務です。
2024年7月のロイター報道では、「水はインド経済最大のリスク」と警鐘が鳴らされ、インド政府も危機感を強めています。政府の試算によると、生活用水・産業用水の需要増加により、国民1人あたりの年間水利用可能量は2024年時点で約1,486㎥ですが、2031年には1,367㎥まで減少する見込みです。また、政府は2030年までに水再利用率を70%に引き上げる計画を発表しており、排水の再利用にも関心を高めています。
中央政府のみならず、州政府や都市自治体も民間・国際機関と連携しながら水問題の解決に取り組んでいます。日本も政府による支援を通じて、州政府や自治体などと上下水道分野において協力を続けてきました。たとえば、デリーのチャンドラワール浄水場系統区において行われた上水道プロジェクトでは、JICAによる既存の上水道施設の改築・更新の支援の中で、遠隔監視システムの導入と運用ガイドラインの策定が行われました。チェンナイでは、同じくJICAの支援によりインド最大級の海水淡水化プラントの建設プロジェクトが進行中であり、2028年の完成が予定されています。その他にも、ODAを通じたアグラでの上水道設備整備、ベンガルールでの上下水道整備など、水資源に関するインフラ支援が広がっています。
インドの水インフラ分野には、日本企業も進出し、技術とノウハウを通じて多面的に貢献しています。東レはJICAとの連携事業で、2022年にチェンナイのIIT(インド工科大学)マドラス校のリサーチパーク内に水処理研究拠点を開設しました。同大学と共同での基礎研究を行い、水処理膜を活用した下水再利用の実証実験を2024年から開始、都市部における循環型インフラ構築の支援を目指しています。インドで水浄化槽を製造し、2024年にインド国鉄からデリー周辺10駅での浄化槽設置および10年間の維持管理業務を受注したダイキアクシスは、州立技術大学と連携し、浄化槽のメンテナンス技術を持つ人材育成も行っています。東洋紡エムシーは2024年11月、海水の淡水化や工場排水の再利用といった用途で活用が見込まれるスパイラル型RO膜のインドでの販売を開始しました。
2025年1月にチェンナイで開催された水ビジネスセミナーには、日本からの水関連ビジネス訪問団40名に加え、インド側の水道・環境分野関係者を含む100名以上が参加し、タミル・ナドゥ水投資会社(TWIC)の最高執行責任者は、今後のプロジェクトや水課題の説明に加え、日本との協業を呼びかけており、日本の技術・投資連携への期待を表明しています。
日本による支援は、インドにおける安全で安定した水供給の実現に貢献しています。引き続きインドの環境に対応した技術と人材の協力が鍵となるでしょう。