インドでは、高級車や高級ジュエリーをはじめとするラグジュアリー市場が近年ますます活発化しています。
経済成長に伴い富裕層の購買力が高まる中、消費傾向にも変化が見られます。
世界第3位の規模を誇るインドの小売市場において、ラグジュアリー市場も堅調な成長を続けています。 グローバルコンサルのSimon-Kucherによると、2024年の世界全体の市場規模が3,690億米ドルに達する中、インドのラグジュアリー市場は80億米ドルと、規模としてはまだ小さいものの、2022年の年成長率33%という非常に高い成長率を記録しています。インドはラグジュアリー業界においてアジアで最も急速に成長している市場の一つと言われています。
成長の背景には、富裕層の増加と中間層の拡大、可処分所得の上昇があります。Knight Frankの『WealthReport 2024』によると、インド国内で純資産3,000万米ドル超の個人は、2023年の13,263人から2028年には19,908人へと急増する見込みであり、また、インドの富裕層市場は今後4年間で2倍に拡大すると予測するブランドもあり、高額所得層の成長も市場を盛り上げています。
インド市場には近年、多くのグローバルブランドが注目し、実績を上げています。高級ブランドのクリスチャン・ディオールは2023年に、ヴィヴィアン・ウエストウッドは2025年1月にムンバイでファッションショーを開催し話題となりました。また、インドの小売大手アディティア・ビルラ・ファッション・リテールはフランスの高級百貨店ギャラリー・ラファイエットと提携。この提携によりムンバイとデリーの旗艦店に多数のラグジュアリーブランドが出店する予定です。さらに、アップルはインドにおいてiPhoneの過去最高の売上を記録するなど、インドのラグジュアリー市場の活発化が感じられます。
特に注目されているのが都市部における若年層の台頭です。BCGのレポートによると、Z世代(約3億7,700万人)が都市部消費者の40%を占め、消費支出全体の43%を担っているとされ、ラグジュアリー市場においても中心的な役割を果たしつつあるといいます。近年、グッチやルイ・ヴィトンなどのラグジュアリーブランドは、限定版商品や限定コレクションの展開に際し、若いインド人インフルエンサーと連携したプロモーションを積極的に進めています。こうしたインフルエンサーとの連携は、Z世代を中心とした若年層に対して新たなブランドエンゲージメントを創出し、ブランドをより身近に感じさせることで、将来的な購買層として取り込むことを狙いとしています。
インドのラグジュアリー市場においても、消費者の価値観に大きな変化が見られます。ET Retailの記事は、かつて主流だった「所有による顕示的消費」から、「体験価値の重視」へとシフトが進んでいると指摘しています。現在の富裕層は、オーダーメイドやカスタマイズ可能な商品など、自分の時間や感情に深く関わる体験こそが本当の価値であると考えており、このような購買者の価値変化に対応したブランド戦略や構築が高級ブランドにも求められていると締めくくっています。
インドのラグジュアリー市場で、成長している企業のひとつであるZoyaは、2009年に立ち上げられた大手財閥タタグループ傘下のTitanCompanyのジュエリーブランドで、インドの最新鋭の超高級ブランドとして台頭してきています。
Zoyaの顧客は、純資産5〜10億ルピー(約8億-17億円)超の超富裕層をターゲットとしており、人気コレクションの価格帯は1,000万〜2,000万ルピー(約1,690万-3370万円)に及び、その特別感が顧客の支持を集めています。現在、Zoyaはインド国内8都市で12店舗を展開しており、2024年度における売上目標は約40億ルピー(約68億円)、Titan全体の売上規模からするとまだ小さいものの、年平均成長率40%を目指しており、Titanグループ内でも戦略的に重要なセグメントとなっているようです。
ブランド戦略も明確にプレミアム層に特化し、特別な空間設計による店舗体験と、個々の顧客に寄り添ったパーソナライゼーションされた接客により、リピーター増を狙っています。
ドイツ発の高級車ブランドMaybachも、最低価格は3,000万ルピー(約5,057万円)からと超高額ながら、堅調な売り上げの伸びをみせています。THE TIMES OF INDIAの報道によると、2024年の販売台数は500台超、前年比145%増となり、来年1月から発売予定の最新モデル「SL680 Monogram Series(ショールーム価格4,200万ルピー)」のインド割り当ての3台は即座に完売したといいます。
同社は、インドが将来的に世界販売上位5か国入りすることを期待しており、ブランド認知向上とブランドアクセサリーを体験できるスペースの建設などに取り組んでいます。
インドのラグジュアリー市場は、富裕層の拡大と価値観の多様化を背景に、外資系ブランドの進出や新たな国内高級ブランドの登場などが今後も続き、さらなる成長を続けることが期待されます。