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本号では、記録的な酷暑を背景に急拡大するインドのエアコン市場の最新動向を整理しました。
▼ 1. 酷暑が生んだ「世界第2位」の巨大市場
インドでは5〜6月が酷暑期にあたり、2024年には首都で52.3°Cを記録。
気温の上昇や経済発展に伴ってエアコンの需要を急成長させています。
デリーにある家電量販店のエアコンコーナー
日本経済新聞によると、2024年のエアコン出荷は1,194万台と日本を初めて上回り、
中国に次ぐ世界第2位の市場となりました。
2025年には1,500万台を超え、過去4年間でおよそ2倍に拡大しました。
この旺盛な需要を受け、メーカー各社は生産拡大を急いでいます。
<主要メーカーの動向>
■ 三菱電機: 267億円を投じ、インド南部タミル・ナドゥ州に新工場を建設。
今年度内での稼働を目指しています。
■ ブルースター: スリ・シティの新工場稼働で、
家庭用生産能力を140万台から180万台へ増強する計画を発表しています。
■ ダイキン工業: エアコン市場で首位を獲得。
第3工場が本格稼働し、年産300万台体制を構築。
インドからアフリカへの輸出も展開しています。
それでも、インドのエアコンまたはエアクーラーの普及率は全国で24%(NFHS‑5:全国家族健康調査 2019‑21年)の調査)に過ぎません。
米国(約90%)や中国(約60%)と比較しても低く、中間層の拡大とともに、その潜在需要は計り知れないものがあります。
▼ 2. 政府が仕掛ける「省エネ」シフト
一方、市場の急拡大は環境への影響も増大させます。
国連環境計画(UNEP)は「2050年にエアコン由来の温室効果ガスがインド全体の25%に達する」と試算しており、
さらにピーク電力需要の約50%を占めるという試算も出ています。
政府はこの課題への対応として、2025年6月にエアコン温度設定の標準化(20℃~28℃)を試験導入しました。
エアコンメーカーは省エネルギー性能に優れたエアコン製品の投入を加速させています。
その性能を示しているのが、インドエネルギー効率局(BEE)による『スターラベリング制度』です。
この制度は、製品の省エネ性能を5段階の星(スター)で評価し、消費者に分かりやすく示すものです。
最も高い省エネ性能を備えた製品には「★5」のラベルが付与されており、
各メーカーが最新の省エネ技術を組み込んでいます。
規制強化により注目される以下のような機能が積極的に採用されています。
● 高効率なインバーター・コンプレッサー技術
● 環境負荷の低い低GWP(地球温暖化係数)冷媒
● IoTを活用したスマート電力制御
★5評価を受けた Havells India 社製エアコン。インバーターの文字も確認できる。
中央政府は、省エネモデルの普及を目指し、「★5」評価の最新モデルへの買い替えを促進するインセンティブ制度の導入を検討しています。
具体的には、認定リサイクル業者を通じて旧型エアコンをメーカーに戻し、
その証明書の提示でメーカーによる割引の提供が受けられる購入時のインセンティブや、
電力配給会社と連携し、省エネ機器に切り替えた世帯に対して電気料金のクレジットを提供する仕組みなどが検討されています。
リサイクルの仕組みや使用電力コスト低減などが実施されれば、使用者側のベネフィットだけでなく、
廃棄物リサイクルによる資源回収や排出物削減といったメリットも期待されます。
政府主導の省エネシフトの追い風もあり、日本企業のエアコンは注目度を高めています。省エネに関する先端技術を持つ企業にとって巨大なインド市場は大きな商機といえるでしょう。