コラム

クイックコマースー盛況によるブランド戦略の変化

Published on
Jun 10, 2025

インドのクイックコマースが盛況だ。日経MJへの弊社寄稿記事「クイックコマース、インドZ世代が支持 食料も救急車も10分で即配[i]」にもあるように、様々なプレイヤーが参入し、日用品や食品にとどまらず、様々な商品・サービスがクイックコマースへの展開を行っている。

 

FMCGをはじめとするブランド・メーカーにおいては、クイックコマースを経由した販売が急速に上昇しており、パンデミックを機に拡大したD2Cブランドのいくつかは、その売上の多くをクイックコマースが占めているという。

プレミアムスナックのブランドである4700BC[ii]は、デリーでの小売店展開からEC、そしてクイックコマースへと販売ルートを拡大していく中、クイックコマース経由の売上は毎年45%増を記録、現在では全体売上の87%を占めるまでに拡大している。同じくD2C美容系ブランドEarth Rhythm[iii]は、毎月50万ルピーの売上だったところから、Blinkitによるクイックコマース開始により、18ヶ月で月間売上1.5億ルピー以上に急増した。同社CEOによると、同等の成長を達成するのにAmazon経由では3年間かかったという[iv]。ディップやスプレッドなどを展開する食品D2CのThe Gourmet Jar[v]では、売上の約60%がクイックコマース経由であり、その伸びは年100%近くを達成している[vi]。

BlinkitのCEOによると、これらD2Cブランドの売上は、デリーやムンバイといった大都市よりも規模の比較的小さいTier2都市における売り上げが著しく、大都市の3倍以上と言及している。大都市に比較し、小売店舗数、品ぞろえともに少なく、クイックコマースが実店舗の代わりに、バラエティに富む商品を短時間で届ける、という点が、特に若い世代に魅力的に映り、利用が進んでいるようだ。

 

FMCG以外の製品で、クイックコマースによる販売を開始したことで、大きな成長を見せているD2Cブランドもある。ラゲッジブランドのNasher Miles[vii]は、昨年4月にクイックコマース経由での販売を開始した。販売品はキャビンバッグ(機内持ち込み可のサイズの旅行用バッグ)、バックパック、トラベルアクセサリに限定されているが、前年比100%で成長中だ。クイックコマース経由であることについての利点もある。すぐに欲しい・必要、という欲求から購入されるため、返品されることはほとんどないという。前出のEarth Rhythmの返品率も3%から1.75~2%に減少したことが確認されている。

 

「欲しい時にすぐ手に入る」というコンセプトは、その他の商品やサービスにも展開されている。昨年の結婚式シーズンには、インド伝統ファッションブランドのManyavar[viii]がZeptoと連携し、結婚式やパーティーに行くための衣装のクイックコマースを展開した[ix]。実際に当日結婚式の衣装を忘れた新郎が、Zepto経由でManyavarのクルタを注文した、という逸話も報道されている[x]。

昨年7月には、このようなファッションブランドと、複数の主要クイックコマース企業の提携交渉が行われていることが報道されており[xi]、ファッション系ECも、この動きに追随するように、クイックコマース市場に参入を開始している。

大手EC Flipkart傘下のファッションECであるMyntraは、昨年12月、ファッション・アクセサリー等を30分以内に配達する「M-Now[xii]」を開始した。計画当初は4時間以内の配達を目標としていたが、30分以内でのサービス開始となった。同サービスはベンガルールを皮切りに開始され、現在は2万点近いアイテムを取り扱っている。今後、ムンバイ、デリーなど他の主要都市にも徐々に展開する計画だ[xiii]。

大手財閥系のRelianceも、傘下のファッションEC Ajioにて、大都市を含む26都市で、クイックコマースを開始したことを今年4月に発表している[xiv]。

 

クイックコマースの台頭は、大手企業のブランド戦略にも変化を与えている。Mint紙によると、クイックコマース売上は、大手企業の売上の2~7%に過ぎないが、急成長が見込まれるカテゴリーとして、この販路に合った商品やパッケージ展開が行われているという。健康飲料などを手掛けるZydus Wellnessは植物由来バターをクイックコマースのみで販売しており、アイスクリームのBaskin Robbinsは、クイックコマース限定のフレーバーを展開している。食品・食用油大手のMaricoは、オーツ麦のグルメバージョンをクイックコマースで販売することを予定している。日本でいうと、コンビニ限定商品のような形だ。

従来、特に昔からある定番商品のようなものがインドでは数多く、ポートフォリオやバリエーションが少なかったが、クイックコマースの、従来の販売ルートと異なる消費者属性、行動から、チャネルに合わせた商品展開によるポートフォリオや価格帯幅の拡大などを模索し始めているようだ。

新商品のテスト販売ルートとして、クイックコマースを活用する事例もみられる。GodrejグループのFMCG企業GCPLは、プレミアム製品をクイックコマース及びECで販売した後、実店舗で展開している。MaricoのMD兼CEOは、特に主要ラインナップのプレミアム化を行った際の検証に、クイックコマースは有望と捉えている。消費者のテスト販売への直接の反応が得られやすいだけでなく、クイックコマース利用者層の特徴にも理由があるようだ[xv]。クイックコマース利用者層は実店舗利用者に比べ、経済的に余裕があるため、消費行動に景気の変動の影響を受けにくい点、より利便性が高く、消費欲を満たしてくれる商品への反応がよい点などがあげられる。

 

さらなる伸長が期待されているクイックコマースも、即日配送のための在庫管理の効率化やスペースへの投資など、解決すべき課題も多くあるが、取扱商品ポートフォリオの拡大、提供側であるブランドとの連携強化など、様々な試みで進化・成長し続けようとしている。今後の動向に注目だ。

 

 

[i]https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC132ZS0T10C25A5000000/?msockid=35b5f79b7b1f6fc70188f8897a256edd

[ii] https://4700bc.com/

[iii]https://earthrhythm.com/

[iv]https://www.indiatoday.in/amp/india-today-insight/story/how-new-age-digital-brands-are-riding-the-quick-commerce-boom-2628474-2024-11-05?utm_source=chatgpt.com

[v]https://thegourmetjar.com/

[vi] https://www.indiaretailing.com/2025/01/24/fmcg-quick-commerce-revolution/

[vii]https://nashermiles.com/

[viii]https://www.manyavar.com/en-us/men

[ix]https://bestmediainfo.com/ad-craft/manyavar-promotes-its-q-comm-partnership-with-zepto-through-new-campaign-7756261

[x]https://www.socialsamosa.com/experts-speak/quick-commerce-is-changing-advertising-strategies-for-brands-8642972

[xi]https://economictimes.indiatimes.com/industry/services/retail/quick-fashion-on-quick-commerce-instamart-blinkit-in-talks-with-top-apparel-brands/articleshow/111866284.cms

[xii]https://www.myntra.com/mnow

[xiii]https://techcrunch.com/2024/12/05/myntra-pushes-into-india-quick-commerce-race-with-30-minute-fashion-delivery/

[xiv]https://in.fashionnetwork.com/news/Reliance-focuses-on-fashion-quick-commerce-for-growth,1724117.html

[xv] https://www.livemint.com/companies/fmcgs-digital-makeover-the-rise-of-quick-commerce-exclusives-11747822614608.html

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